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小池和男先生が偉いのは、「数値化できないものがある」ということを認めたことではないだろうかと思う。そして、その「数値化できないもの」に真正面から向き合って、全身全霊を傾けて取り組んで行く。その方法論はおもに「聞き取り」である。これは実に労務屋の仕事に通じる姿勢ではあるまいか。 小池先生が向かい合う「数値化できないもの」、それは「技能」である。一般的に、経済学は技能を数値化するために「賃金」を代理変数にすることが多い。しかし、短期的に賃金が技能を表現しないことは、実務家なら誰でも知っている。とりわけわが国においては、賃金は長期精算であり、かつ生計費というノイズを含んでいる(そして、小池先生も示すとおり、これは必ずしもわが国だけにユニークなことではない)。そうなると、技能を数値化することはまことに難しい。したがって、その把握は定性的にならざるを得ない。その事実をそのままに受け止め、「聞き取り」をメインとした実証研究を追及しようとする勤勉かつひたむきな姿勢には敬服の念を禁じえない。 小池先生の目には曇りがない。それは企業の役割を虚心かつ率直に評価する姿勢に現れている。「マル経」の伝統の強いわが国ではとりわけ、「企業は労働者を搾取して利益を追求している」といった言説が支持を集めやすいし、また、世間受けするというのも悲しい現実である。それゆえ小池先生は、彼ら「左翼的学徒」の強烈な批判にさらされてきた。実際、「左翼的学徒」から見れば、大企業の人材開発を高く評価し、旧労働省の中央職業能力開発審議会の会長を十数年にわたって勤め、ついには褒章まで受章するに到った小池先生は、感情的憎悪の対象であるには違いない。しかし、現実を見れば、小池先生の正しさは疑うべくもない。今となっては、「左翼的学徒」ならぬ「市場原理主義・アメリカ礼賛主義者」たちが、小池理論の正しさを早く受け入れてくれることが望まれてならない状況となっている。 小池先生は労働経済学者であり、その著書はほとんど人事・労務管理に密接に関係する内容である。現場の実態をふまえた議論という意味で、実務家にとってこれほど説得力のある議論もないのではないかと思う。 |
「アメリカのホワイトカラー− 日米どちらがより『実力主義』か」 |
| 日本企業は年功序列で競争がなく、米国企業は実力主義で競争がある。当時日本で信じられていたこうした俗説を、事例研究によって実証的に示した本。日本企業の「遅い選抜」「同期の熾烈な競争」といった概念を米国との比較において提示する一方、米国においてもある年齢以上は「長期雇用」であり、一定条件では「年功賃金」であることを示した。「日本異質説」という通説を破壊する本。 |
| 「流動化」がすばらしいのだ、という議論は、以前から主張されてきたところである。しかし、普通に考えて、望ましいのは「流動化」ではなく「定着」であるというのは世界の常識である。こうした常識を、世界各国の実情や、日本の歴史的事実などを援用しながら説いて行く。外国人労働者問題などについても常識的かつ的確な見解を示している。流行に流されることなく、原点に立ち帰るために読み返されるべき本ではなかろうか。 |
| 「日本の人事制度は年功序列で競争がない」「日本の労働市場は硬直的で転職はまれ」「日本の賃金の企業間格差は異常に大きい」そして「日本の人事管理は国際的には通用しない」−。これら世間に蔓延する皮相な俗説を次々と破壊し、日本の人事管理の長所とその合理性を経済学の視点から解き明かした独特の教科書。 |
不確実性に対応するノウハウ |
| 企業に競争力をもたらすものは変化と不確実性に対応するノウハウ、「知的熟練」である。その形成には長期を要する。これを実現するために日本企業はどのようなシステムを持っているのか。「知的熟練」論の入門書として好適の著。 |
| 聞き取りは、人事・労務担当者が施策を企画立案し、あるいは結果をフォローし評価するときの最も普通の方法であろう。いかに良い聞き取りを行うかは人事・労務施策の成否を大いに左右すると言える。この本は著者が生涯を通じて会得した聞き取りの技術と心得とを具体例にもとづいてまとめたものである。学問的な聞き取りを念頭においているので実務とはなじまない部分も一部にはあるが、しかしきわめて参考になる本である。聞き取りは聞き手・語り手の共同作業にほかならないという著者の思いが、「聞き取りの『作法』」というタイトルにこめられている。 |
「もの造りの技能」[書評] |
| きわめて労働集約的な産業である自動車製造業。「リーン生産方式」がグローバル・スタンダードとなった今も、世界一賃金の高い日本で、なぜこれほどに労働集約的な産業があれだけの国際競争力を持っているのか。その源泉である「知的熟練」の形成と、それに必要な人事施策を、多数の徹底した聞き取りと、それを補完する計量分析から探り出した本。説得力ある人事・労務施策への提言となっている。 |