更新終了したコンテンツ「新任人事・労務担当者に勧めるこの10冊」

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 人事労務管理は「変革期」にあると言われています。多くの企業、あるいは団体も官庁も、よりよい人事労務管理をどのように実現したらいいのか、真剣に悩んでいます。しかし、実際、何をどう変革したらいいのでしょう?
 世の中には、「こうすればよいのだ」という調子で書いてある本もあります。しかし、事情は時と場合によって大いに異なりますから、その手の本は参考にはなっても、それを鵜呑みにしていては、およそうまくはいかないでしょう。また、世間には、賢しげな顔をして「私が代わりに考えましょう」と言って寄ってくる「コンサルタント」がたくさんいます。もちろん彼らの知識は役に立ちます。しかし、他人任せですむことなら、誰がこれほどまでに悩むことがあるでしょう?しかも、本も人も、役に立たないどころか害になるものもあるのです。まあ、ごく一部の例外だとは思いますが・・・。
 結局、より良い人事労務管理とは、それぞれの置かれた状況の違い、他のどこともだれとも違う、自分たちの事情に応じて、異なってくるものであり、自分たち自身で考えるしかないものでしょう。そのためには、これまでのしくみがどのような環境のもとにどのような考え方で出来上がり、そのメリットとデメリットは何なのか、そして、その環境はどう変わりつつあり、考え方やしくみをどのように変えていくべきなのか、こうしたことに関する総合的な知識や、さらには、人事労務管理を考える上で依って立つべきモノの考え方、あるいは価値観、哲学といったものをしっかり持っていなければならないでしょう。
 これらを自分のものにすることは、かなり大変なことでしょう。私自身、まだまだ大いに迷いがあるのが現実です。ここでは、新任の人事・労務担当者の方々を念頭において、私自身のわずかな経験とさまざまな迷いの中で、とても参考になった本、役立つ本を、10冊に絞ってご紹介させていただきたいと思います。どれも、私が自信を持ってお勧めできるものです。


飯田経夫著 「『豊かさ』とは何か」
講談社
 人事・労務管理は、神ならぬ人が、モノならぬ人を対象にする仕事です。当然そこには、人間の豊かさとは何か、幸福とは、働きがい・生きがいとは何か、に関する深い考察がなければなりません。それを忘れたら人事・労務の仕事をする資格はないと言えるでしょう。
 この本は、人事・労務管理の本ではありません。しかし、関連する内容も多く、何より、人間の豊かさについて、しっかりとした視点を提供してくれます。著者はわが国近代経済学の泰斗であり、観念論や理想論ではなく、合理的思考の上に立った議論を展開しています。新しい本ではありませんが、私自身、ことあるごとに読み返している本であり、すべての人におすすめしたい本です。
 飯田先生の本は良い本が多いのですが、できれば、あわせて「『ゆとり』とは何か」「『豊かさ』のあとに−幸せとは何か」も合わせてお読みいただけるとなお良いと思います。残念ながらいずれも版元品切で、書店では入手困難になっているようですが、図書館には置いてあると思います。

八代尚宏著 「日本的雇用慣行の経済学」
日本経済新聞社
 日本的雇用慣行と一言に言っても、長期雇用、内部昇進、企業別組合と、その内容は非常に多岐にわたっています。それを体系的に整理して、経済学の観点から、豊富なデータ(数式はほとんど出て来ませんが)によって論理的に解説した本です。
 その中で、従来は、どのような前提と環境条件のもとに、それがなぜすばらしいパフォーマンスを示すことができたのか、その合理性とコストを検証し、そして、進行しつつある環境変化のもとで、どのような見直しを迫られているのかが述べられます。
 通読することで、日本的雇用慣行と言われるものの特徴と、その体系が理解できます。問題点の指摘と改革の方向性も、すべてが妥当するとまでは言えないまでも、たいへん参考になるものです。
 日経経済図書文化賞、石橋湛山賞を受賞した名著です。

菅野和夫著 「雇用社会の法」
有斐閣
 人事・労務担当者にとって、労働法の知識は必須です。単に法律の知識だけであれば、世間にいくらでも解説書は出ていますが、なぜこうした法律があるのか、なぜ過去にこのような判決が出ているのか、その考え方と精神まで理解しておくことが、より良い人事・労務管理のためには不可欠です。
 この本は、日本社会と、その中における労働法の役割という観点から、労働法を解説しています。通読することで、労働法の依って立つ考え方、精神を、その内容とともに理解できます。内容的にはかなり堅い本ですが、事例などを織り込んで読みやすくする工夫もされています。
 現在版元品切れですが、近日中に改訂新版が出版される予定とのことです。

佐藤博樹・藤村博之・八代充史著
「新しい人事労務管理」
有斐閣
 この本は、人事・労務管理諸施策の意味、必要性、役割と機能などを、日本企業における多数の具体的事例を通じて整理し、解説した本です。
 採用から退職までの雇用管理、人事制度、賃金制度、能力開発や福利厚生まで幅広く体系的に説明されており、最近重視されている非正規雇用については1章を割いて解説しています。不足ながら労使関係についても記述があり、若干ホワイトカラーに偏っているのが残念ですが、人事・労務管理の現状について知るには最適の一冊です。
 大学生向けの教科書を意識して書かれているようで、現状の解説を中心に、不確実な将来への提言などは含まれていませんが、おのずとこれからの人事・労務管理「改革」の方向性についても考えが向かうように書かれています。実務家にとってもたいへん優れた入門書だと思います。

大竹文雄著 「労働経済学入門」
日本経済新聞社
 労働法と異なり、人事・労務管理の実務をやっている限り、労働経済とは直接の関係を持つことは少ないかも知れません。とは言え、より良い人事・労務管理を実現していくためには、労働政策の内容や動向についても注意を払っておくことが望ましいことは言うまでもありません。そのためには、労働経済学の基礎知識を持っていることは大いに有益でしょう。
 この本は、労働経済学のたいへん優れた入門書であると思います。分量が新書一冊に 抑えられていますので、若干経済学の基礎知識が必要ですが、労働経済学の基礎的な内容は概ね網羅され、ポイントをおさえて的確に解説されています。そして、おのずと労働政策に関心が向かうように書かれています。
 日経新書シリーズの一冊であり、価格もリーズナブルなのも魅力であり、人事・労務担当者に限らず、経済・政策に関わる人に広くお勧めできる本だと思います。

伊丹敬之著 「人本主義企業―変わる経営変わらぬ原理」
筑摩書房
 人事・労務管理を考えるときに、企業経営のあり方への理解は欠かせません。いわゆる 日本的経営というものを、その理念にさかのぼって、経営学の観点から体系的に構築したのが、いわゆる「人本主義論」です。人的資本論の一種ですが、人事管理論と言ってもおかしくない内容を含んでおり、人事労務管理においても非常に重要な学説です。
 この本は「人本主義論」がはじめて提示された本であると言われています。その後、人本主義論もさまざまな展開が見られますが、その基本的な考え方を理解するには、この本がわかりやすいと思います。
 最近文庫化され、さらに入手しやすくなっています。新たな古典の一冊として一読をお勧めしたい 本です。

小池和男著 「日本企業の人材形成」
不確実性に対応するノウハウ
中央公論社
 人事・労務管理担当者として、「人本主義論」と並んでもっとも重要で、理解しておいてほしい学説が「知的熟練論」です。
 最近、「ナレッジ・マネジメント」や「暗黙知の形式知化」など、熟練技能を軽く見る風潮がさかんになってきていますが、「知的熟練論」は、企業に競争力をもたらすのは、容易には形式化できない「変化と不確実性に対応するノウハウ」「推理する技能」である「知的熟練」であるとした上で、その形成のプロセスとそれに適した人事・労務管理のあり方を示しています。
 この本は、「知的熟練論」のエッセンスをコンパクトにまとめたものであり、通読することでその全体像をほぼ把握できます。分量も価格も手頃であり、必読の書に加えたいと思います。

竹村之宏著 「21世紀型人財開発の視点」
社会経済生産性本部 生産性労働情報センター
 人事・労務管理の現場では、「人材を育てることで人財とする」ということをたびたび耳にするものと思います。こうした考え方は、「日本人の精神風土に合っている」ということも言われるわけですが、それは本当でしょうか。
 この本は、文明論、文化論に近い論点も含めて、わが国における人材開発を考える際の視点を提供しています。その観点はかなり幅広く、また、興味深い内容を多く含んでいます。一見して管理者向けの啓発書のように見えますが、一貫して「人を育てる」という基軸を持っています。
 数多い具体的なエピソードは、読む人によって共感を覚えるもの、反感を感じるもの、様々だと思います。そうした中から、それぞれに人材開発を考えさせてくれる本です。

川喜多喬・佐藤博樹編著
「ユニオン・アイデンティティ大作戦」
労働組合改造講座
総合労働研究所
 人事・労務管理を担当するにあたっては、労使関係、ひいては健全な労働運動についての適切な理解が欠かせないことは、言うまでもありません。ところが、意外にもこの分野で「これは」とお勧めできるような本が見当たりません(ご存知の方、ご教示ください)。
 そんな中で、この本は、最近退潮が言われている労働運動が、いかに元気を取り戻していくか、という観点から、豊富な実例をもとに新たな労働運動のあり方を提言しています。今の時代に求められている労働運動のあり方、それに対する現状の問題点などが明らかになります。1991年の本ですが、今でもほとんどの内容は該当します(それも淋しい話ですが)。
 ある程度労働運動にかかわった経験のある人を対象に書かれているので、新任人事・労務担当者にはちょっと読みにくいところがあるかも知れません。津田真澂著「労使関係」(残念なことにこの本も版元品切で入手困難、ちょっと古いのでお勧めとまでは行かない)などの入門書を読んでからの方がいいかも知れませんが、ある程度の予備知識は実務でも得られるでしょう。

島田晴雄著 「日本の雇用―21世紀への再設計」
筑摩書房
 最近の島田晴雄先生の論調には同感できないことも多いのですが、この本はなかなか いい本です。日本的雇用慣行について概説した上で、ポイントについては実務的な見直しの観点なども述べています。また、労働法規の規制緩和などについても、現実的な提言が なされています。
 1994年の本なので、規制緩和などについてはすでに実現してしまっているものもあるなど、一部読むのに注意が必要ですが、全体の内容は今でも十分参考となるものです。八代尚宏先生の「日本的雇用慣行の経済学」が難しいと感じる向きは、この本から読まれるといいかも知れません。
 なお、最近の島田先生の本の方が、残念ながら内容的には良くないので、そこは要注意です。

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