キャリアデザインマガジン連載
「キャリア辞典」

「クールビズ」

 羽田孜元首相が夏季に半袖スーツを愛用していることはよく知られているが、これは第2次オイルショックが日本経済を揺るがしていた1979年の春、省エネルギー気運の高まりを受けて提唱された「省エネルック」で登場した。当時の大平正芳首相みずから着用してPRに努めたが、残念ながらまったくと言っていいほど普及しなかった(新宿の伊勢丹デパートでは、半袖シャツはそのワンシーズンを通じて5着しか売れなかったとか)。
 今回の「クールビズ」も、しょせんは省エネルックの二の舞だというさめた意見も多かったわけだが、ふたを開けてみるとなかなか健闘しているといえるのだろう。ビジネス街でも、ネクタイも上着も着用していない人が多くなってきているし、経団連や業界団体の会議では「クールビズ指定」が一般的になりつつあるという。
 その要因はいろいろ考えられる。もちろん、地球温暖化に対する関心や問題意識が拡がっていることは大きいだろう。ほかにも、たとえば「愛・地球博」会場で星野仙一氏や奥田碩氏を担ぎ出しての「クールビズ」ファッションショーを行なうといったPRのくふうや、半袖スーツはデザインが極度に不評だったことの反省をふまえたファッション性への目配り(これによって民間のアパレル、小売を巻き込むことにも成功した)なども奏効しているのだろう。
 キャリアという観点からみると、「オフィスの男性=スーツ・ネクタイ」という常識にかからない人たちが増えてきた、ということが、意識の面でハードルを低くしているということはありそうだ。1979年当時とは異なり、現在ではIT関連産業などを中心に、オフィスでも軽装で働くのが当たり前、という仕事が明らかに増えているのではないか。それが「就労時はスーツ・ネクタイ」という商慣行を弱め、クールビスへの抵抗感を軽減している可能性がある。
 似たような話として、1980年代後半に普及した「カジュアルデー」の影響もあるかもしれない。これは、バブル期の「浮かれ気分」の影響も多少はあったかもしれないが、「前例や常識にとらわれず、独創的な発想で仕事をする」ために、「そのためにはまず服装から」ということではじまったようだ。当初は「金曜日限定」が主流だったようだが、徐々に職場によっては「毎日」に拡大するケースも現れた(それがその後のIT産業などでの軽装化の下地になったのかもしれない)。これも「スーツ・ネクタイ」習慣を弱める効果があったのではないか。だとすると、クールビズのおかげで次々と独創的な仕事の成果が上がってくる、ということになるかもしれない(実際にそうなったという話は聞かないが)。
 もうひとつ、ビジネスマンの声で実感がこもっているのは「本当に冷房の設定を28度にされたら、ネクタイなんかとてもしていられない」との意見だ。28度に設定すればあまねくどこでも28度になるわけもなく、場所によっては30度とかそれ以上になることもあるだろう。こうなると、服装は「クールビズ」でも就労環境としては「クール」どころではない。もちろん、地球温暖化防止のために必要ながまんではあるのだが。
 ちなみに、「クールビズは9月末日まで」としている企業が多いのだそうだ。はたして、来年の夏にはまた「クールビズ」が復活するのだろうか。暑さに負けて一年かぎりで終わるという説もあるが、政府が旗をふればやれるということが今年わかった以上は、来年も政府がやる気になればできるだろう、という説もあるらしい。アパレル業界も、今年は「話が急すぎて」十分な対応ができなかったが、来年は十分に準備して魅力的なクールビズ・ファッションをすべく、今から検討を開始している会社もあると聞く。どうせなら、9月末までといわず、一年中やってしまったらどうかという気もするが、それだとネクタイ業界は大変だし、ビジネスマンたちも洋服代がかさんで困るだろうか。

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