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「一人一社制」(1) 関係者以外にはあまり知られていないようだが、近年、高校の進路指導の現 場で大きな変化が起こった。長らくわが国で強固な慣行として続いてきた新卒 就職の「一人一社制」が見直されたのだ。 一人一社制は、単純にいえば企業が学校に求人を行い、それに対して学校が 「一人一社」限りの推薦を行う、ということになるだろうか。もちろんそこに は、「学校は、内定した生徒が辞退しないよう指導する」「企業は、推薦され た生徒の大半を採用する」という暗黙の了解があったことはいうまでもない。 これは裏返せば、企業が学校に求人を出すことで、採用対象となる学校が限定 される「推薦指定校制度」ということになる。これが学校と企業との長期的な 信頼関係の源泉となり、学校は求人の確保、企業は採用の確保と効率化(適性 などの人物判断の多くを事実上学校に委ねることになり、その分企業の採用コ ストは抑制される)という共存共栄のメリットを享受できる。長期的な信頼関 係をベースにしているから、長期間にわたって行われるほどにそのシステムが 強固になることは想像にたやすい。こうして、わが国では一人一社制は長年に わたり、高校だけではなく、一部の短大や大学も含め、広く行われてきた。 それほどまでに強固なしくみが、2002年から2004年までの短期間で全国的に 見直されることになったのはなぜか。理由はいろいろあるようだが、最大のも のは新卒採用情勢の極端な悪化だろう。たとえば、2002年3月12日の参議院予 算委員会で、当時の坂口厚生労働大臣は「一人の生徒さんが一社だけ紹介を受 ける、そしてそこがもし駄目だったら、そうすると一番最後に、末尾に回され るということになりますと、最近でございますから、もう就職が困難というこ とになってしまう」と発言しているし、やはり当時の遠山文部科学大臣もこれ に続けて「やはりこの就職慣行におきましては、生徒が選択の機会を制限され ること、それから求人が非常に激減している中では応募する機会も与えられな いというようなことで、生徒にとって大変な問題がある」「各都道府県教育委 員会において労働部局と連携して検討会議を設置し、就職慣行の見直しについ て検討を進めるよう、もう指導を実施いたしております」と発言している。実 際、高校によっては求人の中から風俗営業など明らかに好ましくないものを除 くと、残った求人数が就職希望生徒数に大幅に足りないという実態も現れ、事 実上一人一社制が機能停止に追い込まれる例もあったという。 こうした問題は90年代の終わりには意識されはじめていたが、2000年8月に は文部科学省の「高校生の就職問題に関する検討会議」がその「中間まとめ」 において、「一人一社制による指導や紹介・斡旋を行う場面をできるだけ限定 していく方向で取り組むこと。また、公務員との併願を妨げないこと」との方 向性を打ち出した。これが前出の文科相の発言のとおり文部科学省の方針とな り、3年間で全国展開されたことになる。 ちなみに、見直しの方向性としては、ある時期(都道府県によって異なるが、 十月一日が多い)までは一人一社制を維持し、その後は複数応募を可能とする というものが大半を占めるようだが、秋田や沖縄のように当初から複数応募を 可能とする県もあり、富山のように複数応募の時期になっても「推薦は一人三 社まで」という上限を設ける県もあるようだ。 さらに、最近になって、一部からは一人一社制の復活を求める意見も出てき ているらしい。まだしばらくは、試行錯誤が続くのだろう。 |