|
「一人一社制」(3) 近年全国的に見直されたにもかかわらず、すでに一部の学校関係者から「復活」を求める意見も出ている一人一社制だが、もう一方の当事者である企業はどう受け止めているのか。 人手不足が基調だった時期には、一人一社制は学校だけでなく企業にとっても大きなメリットがあった。とりわけ、高卒者を現場要員として多数採用する大手の製造業にとっては、効率的な採用という面での恩恵は大きかった。人手不足の中では企業にとって熟練工の十分な採用は望むべくもなかったから、未熟練者を採用して企業内で育成することが人材戦略の中心になる。となると、教育投資の回収期間が長い新卒者主体の採用となるのは自然な成り行きだっただろう。もともと、採用後に育成することを前提にしているから、人数を確保することが優先され、能力的・人物的な条件はそれほど厳しいものではない。いきおい、「だいたいこのくらいの人を何人」という採用になる。それになるべく一致する人を学校が推薦してくれる一人一社制は、見方を変えれば企業の選好プロセスを学校が肩代わりすることにほかならないから、企業にとっては非常にありがたいやり方であったと考えられる。しかも、基本的に合格すれば確実に入社することが前提となっているから、「内定辞退」を考慮して合格者数を増やす必要もないし、入社数が予想を大きく上回ったり下回ったりする危険性も低い。また、自由応募だとなかなか応募者が集まりにくい中小企業などにとっては、学校が企業に代わって学生に企業の特長などを説明し、さらには説得までもしてくれる一人一社制は、やはり便利なしくみだったのではないか。 そういう意味で、最近では数が減っているものの、短大卒の事務補助職の就職においても一人一社制と類似の方法がとられているのも、企業がやはり能力や人物に厳しい条件をつけず、「だいたいこのくらいの人」という採用を行っていることを考えると理解できそうだ。逆に、たとえば大学法学部や経済学部卒のホワイトカラー幹部候補生のように、能力や人物をしっかり見極めて採用したい場合は、企業としてもそれなりの手間をかけ、学校まかせにせずに自ら選考することになるのだろう。 さて、このようなメリットゆえにか、企業サイドから一人一社制の見直しを求める声はそれほど目立ってはこなかったし、近年の見直しに対しても特段の混乱なく対応しているようにみえる。もっとも、学校と異なり、企業にはもともと一人一社制以外の方法で募集・採用を行うフリーハンドがあったわけだし、現にさまざまな方法で採用が行われている実態もあるようだ。 とはいえ、企業から一人一社制の見直しを求める声がなかったわけではない。とりわけ近年、各社とも採用数を絞り込んだことから、少数の採用であればこそできるだけ優れた人材を採りたいという「厳選採用」の指向が強まったといわれる。そうしたなかで、学校が推薦してくる人材に飽き足らず、もっと多くの応募者のなかから企業みずから選考したい(まさに「厳選」)という要望が一部からは出てきたようだ。求める要件が厳しくなったことで、大卒ホワイトカラーと同様の考え方が出てきたということだろうか。 結局のところ、ここには新卒労働市場における需給関係と、それによる企業と学校(学生)の力関係が色濃く反映されているといえるだろう。最近、高卒の就職情勢もかなり改善されてきたようだが、依然として地域などによる濃淡はあるようだ。わが国においては新卒就職の成否がその後の職業人生に大きな影響を与えることがかねてから指摘している。多くの面で情報や経験が不足するなかで就職に臨まざるを得ない新卒者について、その時々の情勢に応じていかに望ましい就職・採用を促進していくのか、近年の経験を十分に参考としながら、今後もよりよい方法を考えていく必要がありそうだ。 |