キャリアデザインマガジン連載
「キャリア辞典」

「倫理憲章」

 最近、企業経営の世界では「倫理」が重要なキーワードのひとつになってい
るようだが、キャリアデザインの分野で「倫理憲章」といえば、経団連(2001
年までは日経連)が毎年発表している「新規学卒者の採用選考に関する企業の
倫理憲章」だろう。これは企業の新卒採用における基本理念を示すという位置
づけだが、その最大の関心事はなんといっても「選考日程」だ。
 それでは、昨年10月に発表された2005年度の「倫理憲章」が、選考日程をど
う定めているか見てみよう。まず、「学生が本分である学業に専念する十分な
時間を確保するため、採用選考活動の早期開始は自粛する。まして卒業学年に
達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む。」
となっている。ただし、「学生の就職機会の均等を期し、落ち着いて就職準備
に臨めるよう、企業情報ならびに採用情報(説明会日程、採用予定数、選考ス
ケジュール等)については、可能な限り速やかに、適切な方法により詳細に公
開する。」ともいう。そして、「正式な内定日は、10月1日以降とする。」と
されている。
 ということは、採用ホームページの開設や会社説明会の実施、さらにはOB
訪問の受け入れなどは、いずれ「企業情報の公開」には違いないわけだから、
3年生のうちからどんどんやりましょう、ということだろう。エントリーの受
付だって、「面接など実質的な選考活動」ではないといえるわけで、3年生の
うちから実施できることになる。いわゆる「リクルーター」活動は、現実には
かなりの程度選考の要素はあるだろうが、それでも形式上は面接ではないから、
これも3年生のうちから可能という解釈もできる(もっとも、最近では「リク
ルーター」活動を展開する企業も多くはないようだが)。さらに、「正式な」
内定日は10月1日以降だ、というのだから、当然ながら「非正式な」事実上の
内定はもっと早くてもいいということだろう。これでは、就職・採用活動が早
期化しないほうが不思議だ。そして、10月1日にはすでに「非正式に」内定し
た学生たちが企業に集まり、「内定通知書」の交付といった「正式な内定」の
セレモニーが行われる、というのが大手企業の通例ではなかろうか。まあ、あ
る意味では実態をふまえた「正直な」憲章だといえなくもない。
 実際、就職・採用活動の早期化は決して望ましいことではないにもかかわら
ず、現実に進行している。日本経済新聞は、就職活動シーズンを前に例年「新
卒就職特集」(就職ガイド特集、新卒就職ガイド特集とされている年もある)
を掲載しているが、1981年以降の掲載日をみると、1985年までは9月だったの
が86年から8月になり、91年は7月、92年からは6月、97年からは5月、2001
年からは4月に掲載された。そして今年(2005年)はとうとう「卒業学年に達
しない」3月17日の掲載となった。もちろん、早期にスタートすれば活動期間
は長くなる。長くやればたくさん就職が決まるのであれば、早期化も悪いばか
りではないかもしれない。しかし、実際には内定する学生は早々に内定し、内
定しない学生は長期間活動しても内定しないというのが現実だという話もある。
早期化で準備期間が不足のまま就職活動に突入し、不調が続くうちに就職活動
の中断、就労意欲の喪失といった事態を招くという指摘もある。もちろん、学
業、学事への影響も大きい。
 もちろん、採用活動も就職活動も自由に行われるべきだろうが、多くの企業
が少数厳選採用を進めるなか、まったくの自由競争では早期化の弊害も避けが
たい。経団連は「倫理憲章」の実効性を高めるべく、一昨年からは賛同企業を
募って「共同宣言」を出すという取り組みをはじめた。節度ある採用活動のた
めに、経済界には一層の努力が求められよう。


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