キャリア辞典


 「ニート」(1)

 ニート(NEET、Not in Employment, Education or Training)ということばは、わが国でも完全に市民権を獲得したようだ。
 もともとこのことばが生まれたのは英国においてであるとされる。英国ではサッチャー前首相による経済改革政策の副作用として1970年代末に失業率が上昇し、若年層のそれは20%にも達した。これに対して、英国では職業能力開発の強化・体系化(もっとも、サッチャー政権の意図は失業対策よりは技能向上による競争力強化に重点があったらしい)が推進され、さらに代わって登場した労働党のブレア政権は、若年失業者を対象に「ニュー・ディール政策」を打ち出した。これは失業期間が6ヶ月以上の若者について、4ヶ月間のカウンセリング期間を経過した後は、一定の形で就労するか職業訓練を受けるかしなければ失業給付が受けられないというもので、端的にいえば「不参加」という道を閉ざした、かなりラディカルな施策だ。これは一応奏功し、若年雇用は改善した(もっとも、英国会計検査院はその相当部分は経済成長によるものとしているが)。しかし、このしくみにも乗れない、「参加しない」若者も相当数取り残された。それがこの「NEET」だ。
 わが国におけるニートは、労働政策研究・研修機構の小杉礼子副統括研究員の試算によれば、2003年で約64万人にのぼるという。フリーターの約200万人に較べれば小さくみえるが、問題としてはかなり深刻といえるだろう。フリーターは、その内容は多様だが、おおむね就労(や求職)はしており、一応「参加」のレベルにあるのに対して、ニートは「不参加」のレベルにとどまっているからだ。「不参加」にとどまるかぎり、行政(に限ることはないが)がいくら訓練や相談の場を用意したとしても、ニートはその場には出てこないから、政策効果はほとんど期待できない。ここにニート対策の難しさがある。
 いま、若者の就労を促進するためのワンストップサービス「ジョブカフェ」が全国展開されているが、そこでも、まずはいかに若者に足を運んでもらうかが大切になっているそうだ。各地では、内装やBGMを若者が入りやすいものとしたり、若者のNPOに運営を任せるなどのくふうをして、一定の効果をあげているという。
 とはいえ、結局は「首に縄をつけて」引っ張り込むことはできないのだし、こうした施策には一定の限界があるだろう。やはり、より若い段階から、ニートにしない、させないための施策が必要だろう。
 先輩である英国はどうだろうか。やはり、早い段階から手を打ちはじめているようだ。日本のニートは若者の2%程度というが、英国では地域によって15〜25%にも達しているというから、対策もかなり強力だ。英国のNEETには、教育水準のほか、健康や家庭、住居などに問題をもっている人が多い(日本のニート問題に詳しい東京大学助教授の玄田有史氏によれば、日本のニートも明らかに中卒、高校中退が多いという)。そこで、英国では13歳から18歳の少年を対象に、これらの問題についてひとりの個人アドバイザーが対応する「コネクションズ・サービス」を導入している。サービスをワンストップ化し、さまざまな分野の専門家を集めて、「そこに行けば何らかの解決が得られる」サービスをめざしているという。「行けば何か得られる」ことは、そこに足を向けさせるためにも効果的だろう。
 日本で注目されるのは、すでに兵庫県や富山県に先進事例がみられる「中学2年生の1週間の就労体験」だろう。経験者をはじめ関係者から高い評価を得ているほか、不登校の改善にも効果がみられるという。これは「キャリア・スタート・ウィーク」として全国展開が予定されている。実際に運用するとなると、学校関係者はもちろん、自治体や地域、受け入れる企業もそれぞれ努力が必要となろうが、十分な連携のもとに、この取り組みを軌道に乗せていってほしいと思う。

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