キャリアデザインマガジン連載
「キャリア辞典」

「正社員」(1)

 「正社員」とはなんだろうか?よく使われることばだが、では定義がはっき
りしているかというとそうでもなさそうだ。実際、おもだったweb国語辞典を
ひととおりみたかぎりでは、「正社員」という検索語はどれでもヒットしない。
 それでは「社員」とはなにか、といえば、よく知られているように法律用語
としては(一般的な用法と異なり)「社団の構成員」という意味になる。商法
上は、商行為のために設立された社団、営利を目的とする社団が会社であり、
会社の出資者を「社員」という。したがって、株式会社では株主が社員であり、
保険業を営む相互会社においては、保険契約者が社員となる。では一般的な意
味での「社員」はなんというかというと、「従業員」である。
 商法上の「従業員」(の一部)を「社員」と呼ぶようになったのがなぜかは
わからないが、かなり古い慣習のようだ。二村一夫(1997)「工員・職員の身分
差別撤廃」日本労働研究雑誌443号によれば、「戦前の日本では、大企業の従
業員は学歴に応じ、…異なった〈身分〉に分けられていた。最上位にあったの
は〈正社員〉で、その多くは大卒や高専卒、採用は本社でおこない全国の事業
所に配属された。…つぎは中等教育修了者を対象とする〈準社員〉である。准
員、雇員などとも呼ばれた…。社員・準社員の下には、給仕や用務員などの
〈傭員〉がおり、ブルーカラー労働者なみ、あるいはそれ以下の処遇であった。
…ブルーカラー労働者は義務教育修了以下の者に限られ、〈職工〉、〈工員〉
などと呼ばれた。工員の中からから準社員へ昇進し、さらには社員にまで登用
する制度を設けていた企業もあるが、一般には工員と職員の間には容易に越え
がたい溝があった。」という。「社員」という呼称には、「出資者と同様に会
社と利害を共有し、その運営に強く関与する」という意味合いがこめられてい
たのであろうと想像される。
 そして、やはり二村氏によれば、「(正)社員は年俸あるいは月給制、時間
外手当などは出ない反面、長期でなければ欠勤しても給与が減らされることも
なかった。一方、準社員は日給月給で、欠勤すれば減給され、会社が定める休
日も無給であった」ということだから、当時の「正社員」は現在の「正社員」
とはずいぶん異なっており、感覚でいえば「管理職」に近い。実際、早期に管
理職となることが約束されていたであろう。現代の国家公務員「1種・2種」
に近い感覚だろうか。
 戦後の民主化のなかで「職工一体」化も進み、職員、工員といったことばの
区別も廃止されて、職員・工員ともに「社員」あるいは「従業員」(商法のこ
とばに回帰したわけだ)と呼ばれるようになった。この時点では戦前の意味で
「正社員」「準社員」ということばが使われることもなくなったとみていいだ
ろう。ホワイトカラー・ブルーカラーともに用いられる現代の意味での「正社
員」、あるいはその対語としての「非正社員」ということばが登場するのはそ
の後のことだったとみられる。

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