キャリアデザインマガジン連載
「キャリア辞典」

「終身雇用」(1)

 以前から、日本企業の労使関係の特徴として「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」が「三種の神器」と称されてきた。近年では、「年功序列」は(少なくとも民間企業では)ほぼ過去のものとなり、「終身雇用」も「崩壊しつつある」といわれ、「企業別組合」についても「考え直すべき」との意見が労働界の一部にあるようだ。
 本当にそうなのか、というのにはいろいろと議論もあるだろう。とはいえ、こうした労働慣行が本当に変化しているのであれば、それは職業キャリアのあり方にも影響を与えるのではないか。
 さて、「終身雇用」、あるいは「終身雇用制」ということばは、かなり長期にわたって使われてきた。初めて使われたのがいつかは不明だが、有名なアベグレンの「日本の経営」が1958年だから、すでに50年近く前には認識されていたことになる。しかし、今日では「終身雇用制」ということばは二重に間違っており、「長期雇用慣行」と呼ぶのが実態を反映して妥当であろう。
 なにが間違っているのか。第一に、現状の日本の長期雇用は大多数が定年までの雇用に過ぎず、「終身(死ぬ直前まで)」という意味ではない。来年4月からは改正高齢法によって老齢基礎年金支給開始年齢まで原則として希望者全員の継続雇用が義務づけられるが、それにしても最長65歳まででしかない。アベグレンが「日本の経営」を書いた1950年代後半には男性の平均寿命は60歳台だったから、当時の55歳定年はそれなりに「終身」に近かったかもしれないし、高度成長期には、熟練工不足、管理職不足という背景もあって、定年を超えても65歳、70歳まで何らかの形で就労したり、会社に籍があったりすることも多かったため、それなりに「終身雇用」的であったかもしれない。しかし、人生80年時代をむかえ、高度成長も、ひょっとしたら安定成長も過去のものとなったこんにち、65歳までの雇用ではおよそ「終身」とはいえまい。
 第二に、これはなにも法制化された「制度」ではなく、広く行なわれている「慣行」に過ぎない。もっとも、定年を定めるなら60歳以上でなければならないことは法制化されているし、前述のような継続雇用の義務化も行われたので、そのかぎりにおいては「制度」に近い部分もある。日本の法制度や企業経営、人事労務管理が雇用の維持・確保を相当程度念頭においていることも間違いあるまい。とはいえ、働く人が退職・転職することはもとより自由だし、趨勢的には増加傾向にある。また、必ずしも長期に雇用されない有期雇用や派遣労働といったスタイルも拡大している。長期雇用を「制度」と言い切るのはやはり難しいだろう。
 マスコミなどでは、なじみがあるからか、あるいは「派手」だからか、依然として「終身雇用」という用語が使われることが多く、「終身雇用の崩壊」などという扇情的な表現もしばしばみられる。しかし、上記のように考えれば、終身雇用は高度成長の終焉とともにとっくに終わっているともいえる。そろそろ、「長期雇用」という実態にあった冷静な表現に改めていきたいものだ。

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