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「終身雇用」(2) 世間では近年、いわゆる「終身雇用」(「長期雇用」というほうが正確だと いうことは前回書いたとおりだが)が崩壊した、あるいは崩壊するだろう、と いった主張が繰り返し行われてきた。はたして、そうなのだろうか。 もっとも、過去においても、1970年代のオイルショックに際して多くの日本 企業が人員整理を行ったことで、やはり「終身雇用は崩壊した」と言われた。 たしかに、当時はかなりの規模で雇用削減が行われ、短期的にみれば「終身雇 用」は崩れたようにみえたに違いない。しかし、日本経済がオイルショックを 乗り切ってからは、ふたたび人員整理や定年前の解雇は例外的となった。もち ろん、高度成長が終焉した(加えて、寿命が伸びた)ことで、前回述べたよう に、「本当に死ぬまで」に近いような「終身雇用」はおそらく衰退しただろう が、「定年まで雇用される」という「終身雇用」は崩壊していなかった、ある いは少なくとも「復活した」といえるだろう。 ただし、大企業を中心に、定年前に関係会社などに転籍出向する、いわゆる 「片道切符」が増加して、入社した会社で定年を迎える例は減少した。これを 指して、「終身雇用とはいえない」などと言われることば現在でもある。崩壊 したかどうかはともかく、「終身雇用」がこの時期に変質したとはいえるだろ う。「定年まで勤続」ではなく、「定年までは何らかの形で雇用を確保」に変 わったのだ。現在の実務家が「長期雇用」というときは、この意味においてで あることが多いに違いない。 それでは、近年の動向はどうか。日本経済新聞のデータベースである「日経 テレコン21」を使って、90年代以降、「長期雇用」と「崩壊」がセットで登場 した記事の件数をカウントしてみよう(地方面と土曜版を除く)。1991年には 1件しかなく、しかもこの記事は「長期雇用」と「崩壊」はまったく別の文脈 で登場する(以降の件数にも同様のものが含まれていることに注意)。これが 1992年には19件になり、93、94、95年には毎年42〜43件の記事が登場した。そ れまで2%台前半にとどまっていた完全失業率が、2.5%、2.9%、3.2%と急 上昇した時期であり、バブル崩壊で余剰人員が深刻な問題となった時期だ。労 働政策研究・研修機構の「ユースフル労働統計」2005年版には生産性方式によ る過剰雇用の推計が掲載されているが、それによると91年の過剰雇用はマイナ ス64万人と人手不足状態、92年の過剰雇用が80万人だったのに対し、93〜95年 は207、237、192万人になっている。 日経新聞の記事件数に戻ると、96年は17件、97年は27件と減少し、98年と99 年がそれぞれ34件、36件と第2のピークとなっている。それ以降は2005年(12 月14日まで)まで15〜25件のレンジで安定的に推移している。ちなみに、前述 の過剰雇用は、96年は74万人、97年は83万人に減少し、98年・99年はそれぞれ 236万人・271万人と増加している。2000年から2002年は138〜155万人で、2003 年には17万人と減少しており、過剰雇用の調整が一巡したことが見てとれる。 こうしてみると、1990年代から2002年までの「終身雇用の崩壊」言説の出没 は、過剰雇用の推移と見事なまでに符合しているといえるのではないか(ちな みに、手元のExcelで回帰分析したところ、決定係数R2=0.72、1%水準で有意 となった。「見事なまで」とはいかないかもしれない)。ということは、結局 は余剰人員が発生して、「終身雇用」のはずの人を削減せざるを得なくなった、 ということで「終身雇用の崩壊」が言われたのではないかとひとまずは推測で きそうだ。 もっとも、それでは今回もオイルショック時と同様に経済が回復すれば元に もどるかといえば、それはまだわからない。過剰雇用の調整が一巡したとみら れる2003年以降も、「終身雇用の崩壊」言説は一定頻度で登場しているから、 構造的な変化があったのではないかとの意見もありそうだ。企業に対するアン ケートなどをみても、「終身雇用をやめる」という回答は少ないものの、「部 分的に見直す」という回答はそれなりに多いという傾向があるようだ。 とはいえ、平均勤続年数をみると、1991年から2003年にかけて男性は12.7年 から13.5年に、女性は7.4年から9.0年に延びている。一概には言えないだろう が、本当に「終身雇用」が崩壊したのなら、平均勤続年数は短くなってもよさ そうなものだ。いっぽうで、よく知られているように、この間に非典型雇用比 率は大幅に上昇しているという事実がある。 こうしたことをあわせて考えると、企業が「終身雇用を一部見直す」という 場合、定年前の解雇などを増やすというよりは、「終身雇用」の正社員の比率 を下げ、「終身雇用」ではない非正社員の比率を上げる、ということを意味し ているのではないかという推測が、一応はできるのではないか。いずれにして も、実際のところがわかるまでは、あと数年くらいはかかりそうだ。 |