|
「終身雇用」(3) 「終身雇用」(長期雇用)は日本に特徴的な慣行だといわれるが、本当にそ うなのだろうか。 労働政策研究・研修機構が出している『データブック国際労働比較2005』 (非常に便利なハンドブックである)に、主要国の勤続年数のデータが掲載さ れている。1995年とすこし古く、製造業のみではあるが、それによると日本の 平均勤続年数は男性が12.9年、女性が7.9年となっている。米国は7.9年、イギ リスは8.9年で、ドイツ、フランスなどの大陸ヨーロッパ諸国は概ね10〜11年 程度(すべて男性)だから、たしかに日本の勤続年数は長い。年齢階級別にみ ても、米、英、独、仏と比較して、54歳まではどの階級でも男性は日本が最も 長くなっているが、60代前半は一転して日本が最も短くなっている。これは明 らかに定年制の影響と思われ、「定年までは他社への転籍もふくめて雇用を確 保する」という日本の長期雇用の特徴がよく現れているといえよう。 いっぽう、女性に関しては日本は平均では諸外国で、年齢階層別にみると、 40代なかばくらいまでは諸外国より長いが、それ以降は諸外国より短いという 傾向にある。これはわが国の女性の就労構造の特徴とされる「M字カーブ」、 結婚・出産前の女性の転職は比較的少なく、それを機にいったん退職し、その 後再就労することが多いという実態を反映したものなのだろう。 意識面でも、2004年の内閣府「第7回世界青年意識調査」の結果をみると、 18歳から24歳の青少年の転職についての考え方は、「一生一つの職場で働き続 けるべき」は日本が10.3%と米国の2.5%、ドイツの2.1%を大きく上回ってい る。日本でいちばん多いのは「転職することもやむを得ない」で53.0%だが、 アメリカとドイツでは「不満があれば転職する方がよい」が最多で、それぞれ 56.2%、49.2%となっている。日本では、若者の意識にも長期雇用が反映され ているのだろう。 もちろん、解雇と転職が日常茶飯事のように起こっているというイメージが 持たれがちな米国においても、現実には相当割合の人が長期雇用、内部昇進で 働いているということは、小池和男氏などが指摘しているところだし、米国に も米国企業も長期雇用のメリットを生かすべきだと主張する経営学者がいる。 労働経済学者の八代尚宏氏は、日本と米欧の雇用慣行の違いは質的な違いより 量的な違いであるという趣旨の指摘をしている。つまり、そうした働き方をす る人の比率が高い、そうした人事管理を行う企業の比率が高いという意味にお いて、長期雇用は「日本的な」慣行であるということなのだろう。 なぜ日本で長期雇用が慣行として定着したのかについては諸説あるようだ。 思いつくままにあげてみても、「労使の利害を一致させて労使関係の安定させ るため」とか、「経済成長と人手不足が続いて従業員の定着をはかる必要性が 高かったから」とか、「私生活ぐるみで企業組織に取り込むことで高い忠誠心 を求めた」とか、いろいろある。もっとも有力なのは、おそらく「企業が必要 とする能力を、効率的に育成・確保できる」ことではないかと思うが、現実に はこれらさまざまな要因が複合的に働いたのだろうし、時期によっても事情は 異なっていただろう。いずれにしても、90年代以降の長期にわたる業績不振の 中でも、正社員比率は約8割から7割に低下するにとどまっていることをみて も、長期雇用のメリットを競争力に生かすことは、日本企業の経営戦略にかな り深く定着しているように思われる。 |