キャリアデザインマガジン連載
「私のキャリア観〜キャリア・インタビュー〜」

「プロスポーツとキャリアデザイン(3)」(5回連載)
                   江戸川大学社会学部助教授 小林至
     (福岡ソフトバンクホークス取締役・元千葉ロッテマリーンズ投手)

【第3回】現役時代のキャリア

−−−−−プロ入りする選手は、ほとんどはドラフト会議で入る球団が決まり
ますね。これについては選手はどう考えているのでしょう。どうしてもこの球
団、という人もいれば、プロになれるならどこでもいい、という人もいるよう
ですが。

小林 それは本人の実力次第ですね。元ジャイアンツの江川投手は、どうして
もジャイアンツに入りたいと言って、結局入りましたね。私なんかは実力はな
いけどなんとしてもプロになりたかったから、球団を選ぶなんて気はもちろん
ありません。それは実力によってまったく違ってきます。江川投手は高校から
プロ入りしたらすごい活躍ができたはずなのに、高校のときは当時の阪急ブレ
ーブス、大学のときは当時のクラウンライターライオンズに指名されて拒否し
ました。ああいう選手にとってはドラフト制度というのは本当にかわいそうな
制度だと思いますね。今は自由獲得枠がありますが、全面的に自由競争でもい
いんじゃないかと思います。いくら高い年俸をもらっても、試合に出られない
んじゃ嫌だという選手だってたくさんいますよ。

−−−−−たしかに、ドラフト制度は選手のキャリアにとって大きな制約にな
っているでしょうね。どの球団に入るかによって将来もずいぶん違うでしょう
し。

小林 そうですね。引退後もずいぶん違ってきますね。だから、試合に出られ
なくてもジャイアンツにいたいという選手も出てくるわけです。

−−−−−実は学会という立場からは引退後のセカンド・キャリアに非常に関
心があるわけですが、その話の前に、現役のあいだのキャリアについてひとつ
だけ伺いたいと思います。以前は現役のあいだはプロ野球の球団の間を動くと
か、ポジションが変わるとかいった程度しかなかったわけですが、近年では大
リーグに挑戦する選手が増えてきました。

小林 これは日本のプロ野球にとっては死活に関わる重大問題だと思います。
今のままでいったら、日本のプロ野球は大リーグの2軍になってしまいますよ。
無論、実力も大リーグの2軍並ならそれも仕方ないかもしれませんが、実際に
は十分太刀打ちできるだけの力はあるのです。だから、早く日米のプロ野球、
韓国や台湾を入れてもいいですが、真剣勝負で頂上決戦をするしくみを作って、
選手とファンに「世界一」という目標を見せないと、流出は止まらないでしょ
う。外国人枠だってやめてしまって、日本で野球をやりたい外国人はどんどん
やれるようにしたほうがいい。それから選手を球団に縛り付ける保留条項もい
らない。そうなると、ドラフト制度とか、契約金の上限だとかも意味がなくな
ってきます。実際、サッカーの世界にはこうした制限はありません。サッカー
の世界では、選手と球団はお互いの同意の元に対等な契約を結んでいます。野
球も、選手が自分がいちばん強くなれて、いちばんいい仕事ができる環境を求
めて自由に動けるようにしなければ、日本のプロ野球の将来は危ういと思いま
すね。

−−−−−なるほど、選手のキャリアを自由にして、幅も広げるということで
すね。選手が自分の価値を高めることができるように。大リーグ挑戦もそのひ
とつだと。

小林 そうです。選手の流出を憂うという先ほどの話と矛盾するように感じる
かもしれませんが、そうではなく、世界中の選手が日本のプロ野球でプレーし
たいと思わせるような魅力のあるプロ野球にしなければいけないということで
す。つまり、小手先の流出防御策を施したところで、つまるところ鎖国するわ
けにはいかないんですから。結局、現在のプロ野球は、選手にとっても、ファ
ンにとっても、大リーグに比べて、相対的に魅力がなくなっているという状態
です。
それにしても、大リーグで活躍することに比べれば、日本で活躍することには
さしたる意味がないという今の風潮に関しては、非常に憂いていますが、実際
にそういう構造になっています。ファイターズの新庄選手などはその好例でし
ょう。ご存知のとおり、彼はタイガースが何億というオファーをしたのを蹴っ
て、その何十分の一かの年俸で大リーグに行った。大リーグでは日本にいたと
きと同程度の活躍で、つまりそれほど大活躍したわけでもないのに、「大リー
ガー新庄」ということで彼の価値はすごく上がった。もちろん、彼自身のタレ
ント性や演出が秀逸だったということも大きかったわけで、その努力と彼のパ
フォーマンスには私も脱帽している一人ですが、ずっとタイガースにいてもあ
あなったとは思えない。もっとも、新庄がキャリア設計をしたうえで大リーグ
に行ったとも思えず、単に最高の舞台とか、夢のようなものを追って大リーグ
に行ったのだろうと思います。確かなのは、結果的にそれがすごく得になって
いる。

−−−−−目先のおカネではなくて、年俸ははるかに少ないけれど将来につな
がるキャリアを選択した、ということになりますね。小林先生も、元プロ野球
選手だということで、キャリアの面で有利だ、ということはありますか。

小林 それはありますよ。今は研究者になりましたが、実績はまだまだ乏しい
わけですね。それでも、プロスポーツ関係の調査とかだと、あいつにやらせて
みるか、という声がかかることがあります。インタビュー調査なんかでも、あ
いつなら応じてやるか、みたいなことはありますね。先日プロ野球経営論の本
を出したんですが、そのときもジャイアンツの渡辺前オーナーにインタビュー
調査に応じてもらいましたが、これはぼくが元プロ選手でなかったらたぶんダ
メだったでしょう。(つづく)
                 (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

小林 至(こばやし いたる)
江戸川大学社会学部助教授、福岡ソフトバンク・ホークス取締役。元千葉ロッ
テ・マリーンズ投手。米コロンビア大学MBA。経営学専攻。主な著書に「ア
メリカ人はバカなのか」(2003、幻冬舎)、「合併、売却、新規参入。たかが
・・・されどプロ野球!」(2005、宝島社)など。

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