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「ワーク・ライフ・バランスとキャリアデザイン(1)」(5回連載) (株)資生堂取締役執行役員 岩田喜美枝 【第1回】なぜいま「ワーク・ライフ・バランス」か −−−−−岩田さんは、厚生労働省の雇用均等・児童家庭局長から民間の資生 堂に転身され、昨年から取締役を務められています。 岩田 今年からは、二つの事業分野を任されました。収益に責任を持つという のは初めての体験なので、緊張の連続ですが、やりがいを持って働いています。 −−−−−これまで、厚生労働省時代には行政のお立場からワーク・ライフ・ バランスに関する施策を推進され、資生堂でも民間企業の実務家を集めて「ワ ーク・ライフ・バランス塾」を主宰されるなど、ワーク・ライフ・バランスの 啓発にも熱心に取り組んでこられました。 岩田 ワーク・ライフ・バランス塾は、現在35社の参加を得て活動しています が、啓発を目的としたものではありません。世の中を変えるやり方はいろいろ あると思いますが、ワーク・ライフ・バランス塾は、啓発とか情報発信とかで はなくて、まずは自分たちが変わろうという考え方でやっています。幸いにも 業界をリードする企業にも多く参加いただいていますので、この35社が本当に その気になって変わることで、産業界全体にも変わっていこうという雰囲気が できるのではないかと思っているのです。 −−−−−啓発ではなく実践の場なのですね。前後しますが、どうしていま、 ワーク・ライフ・バランスが重要なのでしょうか。 岩田 個人の幸せと、会社の成長の両方を解く解は、これしかないと思うから です。企業はお客様に新しい価値を提供していかなければ生き残ることはでき ませんよね。しかし、資生堂なら資生堂の、その価値観の中だけで議論をして いたのでは、新しい価値を創造することは難しいですね。会社の中に新しい情 報や価値観、人的ネットワークを導入しなければいけませんが、それは社員し かありえないでしょう。中途採用もいいやり方だと思いますが、人数的には圧 倒的に多い「今いる社員」にどう変わってもらうかと考えると、会社以外の生 活をしっかりしてもらって、そこから無意識のうちに得られる情報や価値観を、 やはり無意識のうちに会社の中に持ち込んでもらうことで、会社が変わってい ける力を持てるのではないか。会社の成長の源泉は、実は社員の会社の外の生 活にある、だからワーク・ライフ・バランスが重要なのです。 −−−−−なるほど。社内の経験は社員に共通のものですが、社外の経験は社 員一人ひとり違っていますから、情報量もはるかに大きいということですね。 ワーク・ライフ・バランスというと、育児や家事と仕事の両立がイメージされ ることが多いですが、それに限ったことではないのですね。 岩田 そうです。子育てに限らず、家族との生活や、友人とのつきあい、ある いは趣味や地域社会とのかかわり、生涯学習、いろいろなものを含んだ幅広い 概念だと思っています。 −−−−−ワーク・ライフ・バランスには社員のニーズと企業のメリットがあ る、ということだと思いますが、世間では少子化対策、次世代育成支援という ような、政策的ニーズから議論されることも多いようです。 岩田 少子化についてはさまざまな考え方があるでしょうが、生みたいのに生 めない人がいる、そこを何とかしなければならない、というのは異存のないと ころでしょう。ではなにが障害になっているか。4つあると思います。まず、 男女の出会いがない。 −−−−−かつては親や親戚、会社の上司がみんな心配したものですが、それ がなくなってきた。 岩田 結婚しない人が独身主義者かというとそうでもないのです。いい人がい れば結婚したいとは思っている。ところが、そのために何かしているかという と、何もしていない人が多い。ただ時が過ぎているだけなのです。ふたつめに、 お金がない。特に若い人たちです。 −−−−−フリーターでは家庭が持てない。 岩田 そうです。いわゆる正社員でない働き方の人は経済的に難しい。正社員 でも、第3子をつくるかどうかの判断の分かれ目は経済面だという調査結果も あります。経済的理由があるということから目をそらしてはいけません。それ から、三つめは時間がない。 −−−−−仕事に時間をとられすぎる・・・。 岩田 そこに戻りますね。そして四つめが、育児が楽しくない。これはどちら かというと専業主婦の問題です。夫は夜寝るためにしか帰ってこない、地域社 会との結びつきもない、それで育児はきちんとできて当たり前。だれもほめて くれない。本当に楽しくないというのがあって、それが世の中に情報として発 信されている。そういった4つの問題がある中で、ワーク・ライフ・バランス との関係では時間がない、という問題です。 −−−−−働く女性が増えてきて。 岩田 これまでのような働き方だと、育児と仕事の両立はなかなかできません。 それに、女性だけではありません。男性も、最近の比較的若い男性、たとえば 子どもが小学校に上がる前くらいのお父さんたちには、育児と仕事を両立させ たいという人が多いのです。家族のために時間を割くためなら、多少は収入が 減ってもいい、ある程度評価やキャリアを犠牲にしてもいいという人のほうが、 家族より仕事を中心に考えたいという人よりずっと多くなっています。それが 実現できない。男性にとっても時間がない。ですから、少子化対策、次世代育 成支援という政策的な意味でも、ワーク・ライフ・バランスはとても重要です。 (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦) 岩田 喜美枝(いわた きみえ) (株)資生堂取締役執行役員。元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長。32年に わたり労働行政に携わる。退官後、(株)資生堂に転身。映画「ベアテの贈り もの」制作にボランティアとして尽力。 |