キャリアデザインマガジン連載
「私のキャリア観〜キャリア・インタビュー〜」

「ワーク・ライフ・バランスとキャリアデザイン(2)」(5回連載)
                (株)資生堂取締役執行役員 岩田喜美枝

【第2回】企業が取り組むワーク・ライフ・バランス

−−−−−そこで、35社を集めてワーク・ライフ・バランス塾をやっておられ
るわけですが、企業はどのようなことに取り組む必要があるのでしょう。

岩田 個別企業がなにをやるべきか、は他人にはわかりませんから、具体策は
各社で考えていただくしかありませんが、この塾をはじめたとき、ちょうど次
世代法の行動計画をつくる時期にあたっていましたので、まずは本当に会社を
変えられるような計画をつくろうじゃないか、ということを共通の目的として
取り組みました。

−−−−−次世代育成支援法にもとづく一般事業主行動計画ですね。

岩田 はい。そこで3つお話をさせていただいたのです。ひとつは、その計画
になにを盛り込むか、各社それぞれでしょうが、まずは国の認定は受けよう、
ということを前提としました。認定の条件のなかに、かなり高いハードルがふ
たつあります。ひとつが、全社員の働き方の見直しに関する取り組みをひとつ
以上盛り込まなければならない点です。老若男女すべての人の働き方の見直し、
たとえばある部門で長時間残業が恒常的にあるとしたら、そこをどう変えたら
いいか、生活と会社の事情を調整できるような、弾力的な働き方をどう実現し
ていくかなど、働き方全体の改革、これがとても高いハードルです。

−−−−−もうひとつは見当がつきます。男性の育児休業でしょう。

岩田 そのとおりです。この二つがとにかく大変だけれど、ここからは逃げな
いようにしようと。これが一つめです。二つめは、内容ではなく策定の手続き
のことです。手続き自体が社内の意識変革のプロセスなのです。人事部が勝手
に作成するのではなく、まず社内のニーズがどこにあるのか調査をする。ある
いは労組と議論をする。社員を巻き込んだ作り方をすることが大事です。もち
ろん、トップの参画も重要です。資生堂でも最終的に社長が議長となる経営会
議で決定しましたし、取締役会にかけた企業もありました。

−−−−−全社的な議論をして、意識付けをしていく。

岩田 三つめは、ちょっと次元は違いますが、法は301人以上の企業に対して
策定を義務とし、300人以下は努力義務としているわけですが、300人で区切る
ことが法の意図ではないわけですから、35社には多数の関係会社があり、その
なかには300人以下の会社もあるでしょうが、そういう会社も含めて計画を作
ってほしい。資生堂は国内の関連会社にはすべて計画を策定してもらいました。

−−−−−経済界でも、ワーク・ライフ・バランスについての関心は高まって
おり、その必要性や経営に対する有用性への理解も進んでいますが、いっぽう
で具体的にはなかなか進んでいないという実態もあります。どうして進まない
のでしょうか。

岩田 気付いていないのでしょう。私も業を煮やしまして、気付かないところ
はもう放っておけばいいのだ、と開き直って考えるようになりました。そうい
う企業、産業は衰退するのです。早く気付いて、早く手を打った会社が競争優
位に立てるのだから、親切に言ってあげるのはもうやめようかと(笑)。これ
は冗談ですが、市場、マーケットが答を出すはずです。たくさんいいことがあ
るのに、気付かないというのは本当に残念ですね。たとえば、ワーク・ライフ
・バランスの企業経営への影響を何で測るかは難しい問題ですが、資生堂は女
性が活躍できる会社であると思われているので、女子学生の就職希望ランキン
グで、企業の実力に較べたら破格の高い評価をいただいているのです。実際、
いい人材が採れています。

−−−−−これからは、女性が働きやすい会社は男性にとっても働きやすい会
社になっていくでしょうし。

岩田 そうなんですよ。そういういい人材が採れるということは、企業にとっ
てはこれから本当にいいことだと思うのです。

−−−−−経済界は、次世代法ができるときに大反対をしたわけですが、それ
も実は同じ考え方でした。次世代育成支援をやらないとか、やりたくないとい
うことではなく、メリットがある、利益に結びつくことであれば企業は言われ
なくてもやるのだから、行政は介入しないでくれ、自由にやらせてくれ、とい
うスタンスだったのです。しかし、行政は次世代育成支援法を策定して、すべ
ての企業を啓発、指導しようとしています。

岩田 私は気付かないところは消えていけばいいのだと思います。企業は本気
で競争しているわけですから。職場環境も人事管理も競争でしょう。気付かな
ければ置いて行かれる。

−−−−−それが構造改革、高度化につながる。

岩田 啓発もしてもいいとは思います。好事例、成功事例を紹介する、それも
定性的ではなくて、できるだけ定量的に。それが納得につながると思います。
                  (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

岩田 喜美枝(いわた きみえ)
(株)資生堂取締役執行役員。元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長。32年に
わたり労働行政に携わる。退官後、(株)資生堂に転身。映画「ベアテの贈り
もの」制作にボランティアとして尽力。

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