キャリアデザインマガジン連載
「私のキャリア観〜キャリア・インタビュー〜」

「ワーク・ライフ・バランスとキャリアデザイン(3)」(5回連載)
                (株)資生堂取締役執行役員 岩田喜美枝

【第3回】ワーク・ライフ・バランスと職業キャリア

−−−−−経済界でも、ワーク・ライフ・バランスをやったら業績が良くなっ
た、ということを示すことが最大の促進策だ、という話が出ています。

岩田 私は厚生労働省の局長時代に二つ検証したいと思いました。一つは女性
の管理職への登用などの機会均等と企業のパフォーマンスが相関しているか。
もう一つが、育児との両立の環境整備とパフォーマンスの関係です。後者はま
だはっきりしませんが、前者は21世紀職業財団の調査で、効果がありそうだと
いう結果が出ています。

−−−−−それについては、女性を登用したから業績がいいのではなくて、業
績がいいから女性登用に取り組む余力があるのだという言い方をする人もいま
す。

岩田 これは大事なポイントです。企業内託児施設とか、コストがかかること
もあるでしょうが、多くの施策は実はコストはかかりません。業績好調でなく
てもほとんどの施策はできます。育児休業や育児時間などは、有給にしなくて
いいわけですし、するべきでもないと思いますが、無給ならコストはかからな
い。うまくやりくりして、代替要員を派遣・契約社員・パートなどですませれ
ばかえって安くつくかもしれません。働き方の改革にしても、時間外労働を減
らすのはむしろコストダウンでしょう。必要のないことに高い割増賃金を払っ
ているのを見直せばいいのです。女性の活躍だって同じことで、能力がないの
に登用すればコストがかかりますが、能力に応じた活用をすればコストにはな
らないのです。

−−−−−たしかに、思い込みのようなものはあるのかもしれません。ただ、
まだ不十分ながらも企業では理解は進んでいますし、制度導入もはかられてい
ます。むしろこれからの問題は、制度はあるのに使われないというところでは
ないかと思うのですが。

岩田 そうですね。実際、多くの企業はたいへん立派な制度をお持ちです。問
題は、せっかく制度があるのに利用されていないという運用面です。大きな理
由は二つあると思います。一つは、代替要員の手配がきちんとできていない。
実際には多くの場合コストアップにもならずに代替要員で埋めることができる
のではないかと思うのですが、たいていはそれを埋めないのです。そうなると
回りの人にしわ寄せが行って、上司も同僚もいい顔をしない。実際には、代替
要員を入れる方法はたくさんあります。これはマネジメントの責任としてしっ
かりやっていただかなければいけない。もう一つのネックは、復職したあとの
自分が描きにくい。

−−−−−それはキャリアデザインの問題にも通じますが、不確実性が大きい
ですね。保育所に入れるかどうかとかいった問題もあります。

岩田 そういう社会全体の問題もありますが、会社の中でも、どこの部署に戻
るのかとか、休んだことでその後のキャリアや評価がどうなるのか、不安な気
持ちがあると思います。復職したあとでもキャリアが上がる機会が保障されて
いなければなりません。資生堂では女性が育児休業、育児時間をとるのはすで
に当然になっているのですが、育児と仕事が両立できればそれでいいというも
のではなくて、キャリアアップしていけなければダメだと私は社内で言ってい
ます。育児期というのは育児休業が終われば終わりではなくて、すごく長いわ
けですよ。その間ずっとキャリアが止まっていたのではどうしようもない。育
児期に仕事を継続する、ということはどうにかできるようになったから、次は
いかにキャリアアップするか。

−−−−−キャリアアップできる、という見通しがあったほうが、継続すると
いう選択もしやすいでしょうね。

岩田 そうですね。

−−−−−代替要員ですが、仕事が標準化されていたり、補助的な仕事であれ
ば入れやすいでしょうが、仕事が高度になっていくとなかなか外部の人では代
替しにくい。

岩田 仕事の再配分ですよ。育児休業が当たり前になると、定員管理の中にそ
れを織り込んで人員配置をする必要がありますし、また、それを前提に、仕事
の割り振りを横に広げていくことが大切です。ある人しかできない仕事をつく
らない、一人の人がいろいろな仕事ができるようにしておく、といったことが
重要です。

−−−−−組織の生産性向上にもつながりますね。病欠や、社内プロジェクト
に人を出すといったことに対応するために、多能工化はほとんどの企業が取り
組んでいます。

岩田 残された人にもいいことなんですよ。新しい仕事にチャレンジするチャ
ンスですから。ただ、病欠と違って数が多くなりますから、定員面でその分を
配置しておくことも必要です。

−−−−−働いている人数が変わらなければコストアップにはならないという
ことですね。

岩田 そうです。病気とか、他の理由だと許されるのに、子どものためとか家
族のためとかいうと妙に目くじら立てるような雰囲気があるんじゃないでしょ
うか。

−−−−−よくはわかりませんが、キャリアという観点からいうと、病気で長
く休んだ人はキャリアアップも遅くなり、その人が休んでいる間そこをカバー
して苦労した人はその分キャリアアップが早くなるといった暗黙の了解のよう
なものがあって、それが病欠が受け入れられる素地になっているのかもしれな
いとは思います。育児休業だと、そういう了解がまだあまりできていないのか
な、という感じはします。

岩田 評価の問題はありますね。私が厚生労働省にいたころ、子どもが生まれ
たら父親も必ず一週間休もう、ということを提唱して、実際にそのようにした
ことがあります。親が死んだときにはどんなに忙しくても一週間くらいは休む
でしょうし、まわりも当たり前だと思っていますよね。

−−−−−新婚旅行とか。

岩田 新婚旅行とかね。子どもが生まれるのだって、今は一生に1回か2回で
すよ。これは意識の問題ですね。みんなが休むようになれば、評価の問題もは
るかに気にならなくなりますよ。

−−−−−実際には、男性が子どもが生まれたときに何日か休んだりすると、
回りの年配者が「おれは長女が生まれたときはロンドンに出張していた」とか
言うんですね。

岩田 それを自慢げに言うのよね(笑)。そういう意識を変えないと。資生堂
では最近制度を変えて、育児休業のうち2週間を有給にしたのです。もちろ
ん男性だけとは書けませんけれど、この制度のメッセージは「男性のみなさん、
子どもが生まれたら最低2週間は休んでください」ということなのですね。1
週間でもいいのですが、とにかく子どものために休むことす。仮に、その後は
思うように子どものために時間がとれないにしても、育児にかかわろうという
気持ちが違ってくるし、夫と妻の関係にとってもすごくいいんですよ。
                  (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

岩田 喜美枝(いわた きみえ)
(株)資生堂取締役執行役員。元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長。32年に
わたり労働行政に携わる。退官後、(株)資生堂に転身。映画「ベアテの贈り
もの」制作にボランティアとして尽力。

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