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【第4回】ワーク・ライフ・バランスと人事管理・政策課題 −−−−−男性の育児休業の取得がなかなか進みません。こども未来財団の調 査でしたか、7%の人が希望しているのに、実際には0.4%しか取れていない。 これについて実務家の間では、この7%の中には、実際に自分が取ることはな いと思っているから、気楽に口先だけ「取りたい」と言っている人が相当いる のではないか、という見方があります。聞かれて「取りたい」というのと、実 際に取るのとは全く違うのではないかと。 岩田 私は男性の意識は相当変わっていると思います。ただ、障害はあります から、それを乗り越えるほどには意識が強くないだけではないかと思います。 女性だって、育児休業を楽に取れるわけではなく、いろいろ悩みながら育児休 業を選択している。男性には休まないという選択肢があるから、取らないので しょう。 −−−−−女性の中には育児休業しか選択肢がない人もいるでしょうね。 岩田 私が男性の育児休業を進めようとしているのは、男性にとっての障害を 突き詰めれば、これは男女共通の問題だからなのです。それを改善できれば、 女性ももっと休みやすくなり、復職しやすくなる。問題の9割は男女共通だと 思っています。男性特有の問題は、育児は妻に任せておけばいいじゃないか、 という社会の意識、職場の上司や同僚、あるいは本人の意識の問題だけかもし れません。 −−−−−信念として男性が育児をするのが許せない、という人はどうしよう もありませんが、そういう人は少なくなっていると思います。むしろ大きいの は評価の問題で、休んで仕事をしなかったことや、休んだ人をカバーしてがん ばったことが評価などで反映されれば、それでも男性が休むのは許せないとい う人はほとんどいないのではないかと思います。 岩田 休む人も、月単位で休めばその間はノーワークだという意味で評価に影 響するというのは、それは当然のことと考えなければいけないと思います。最 近は能力や成果で処遇を決める人事制度が普及して、昇格基準にしても過去を ひきずるような制度ではなくなってきていますから、休んでも挽回できるわけ ですから、休みやすくはなっていると思います。一時的には評価が下がるかも しれないけれど、それで納得できるかですね。 −−−−−さきほどご紹介いただきましたが、家族のために時間を使えるなら ある程度は評価を犠牲にしてもいいという男性が増えているわけですから、あ とは男性が思い切って育児休業をとる、決断の問題になっているのでしょうか。 岩田 もう一つ大事なのは、会社もそれを望んでいるのだというメッセージを 明確に出すことだと思います。資生堂では、行動計画の策定に合わせて、ビデ オを作りました。育児時間を取っている男性社員に登場してもらって、最初は 上司と軋轢があってたいへんだった、ということも率直に語ってもらってます し、子どもを迎えに行って、子どもが走ってきて抱きつく場面も撮っています。 ビデオの最後は社長が登場して、これが私の考え方だ、自分が先頭に立ってや るのだ、ということを言っています。社員にメッセージが届いていないと、自 分のキャリアにとってマイナスになるのではないか、という不安が払拭できな いのではないでしょうか。 −−−−−まったくマイナスにならないかというとそうではないでしょうが、 しかしキャリアアップはしていける。 岩田 それから、資生堂に来て、時間ではない、ということを実感しました。 CSR部という小さな部で、育児時間をとっている人が3人いました。資生堂 では時間などは考慮せずに、トータルの成果だけで評価するのですが、育児時 間を取りながら、しかも最高の成果を出す人がいて、その人には最高の評価を つけました。もちろん、その人が特別に優れていたからで、平均すればやはり 長く働く人のほうが成果も多く、評価も高いのでしょうが。 −−−−−そういう、ずば抜けて優秀な人というのは、誰がみてもわかります し、育児時間を取りながら最高の評価を得てもみんな納得しますね。そうでな い人だと、評価する側は無関係に評価しているつもりなのに、評価される側は、 自分は育児休業や育児時間をとったから低い評価を受けたと思うといった意識 のギャップがどうしても出てくるでしょう。それが課題だと思います。 岩田 人事部はよくわかっていても、日々のマネジメントをする現場の管理職 が不慣れ、ということがあるのではないでしょうか。部下が「育児休業をとり たい」と言ってきたときに、「おめでとう」と言えないようではマネジメント をしているとは言えない。資生堂でも、まだまだ「おめでとう」と言えずに、 困った顔をしてしまう管理職がいます。部下が育児休業をとるときに、仕事の 割り振りや代替要員をどうするかというのは、まさに管理職の仕事ですよ。 −−−−−キャリアデザインという意味では、育児休業を取得して仕事を継続 するという人は増えていますが、「休まずに働き続ける」という働き方が難し いという問題意識もあります。高度な仕事、難しい仕事をしている人ほど、な るべく休む期間は短くしたいでしょうから、そういう人にとっては育児休業の 充実以外の支援が必要なのではないか。 岩田 育児休業が普及して、ゼロ歳児保育が地域からなくなってしまう、とい うことがあると、たしかに困りますね。公的な役割はもちろん重要です。今で も、ゼロ歳児保育は不足しているわけですから、自治体がそういう部分はきち んとやらなければいけませんし、やろうとしているのではないでしょうか。資 生堂が企業内託児所をつくったのも、地元の自治体の保育サービスが受けられ るかどうかとは関係なく、いつでも復職したいときに復職できるようにとの趣 旨です。ゼロ歳、1歳中心で、年度末には定員一杯利用されています。 −−−−−公的保育が充実してくれば、子どもを預けて夫婦とも働けるという 選択肢も出てくると思うのですが、日本はまだそこまで行っていませんね。 岩田 そうですね。 −−−−−もう一つ、ワーク・ライフ・バランスとキャリアデザインという面 では、通勤時間が重要な問題だと思います。通勤時間が長いと、ワーク・ライ フ・バランスの選択肢も狭くならざるを得ないと思うのですが。 岩田 それもありますね。通勤時間は大事な要素だと思います。これは、一企 業としてできることには限りがありますから、都市開発の問題であったり、住 宅政策の問題であったり、政策的な取り組みが必要だと思います。中には思い 切って、一時的に引っ越す人もいます。資生堂でも、企業内託児所を利用する ために会社の近くに引っ越してきた人がいます。 −−−−−子どもを保育所に入れるために、待機児童の多い自治体から引っ越 すという話も聞きますね。 岩田 住民が自治体を選ぶということですね。保育所だけではなく、子どもの 医療の負担の問題とかもあります。お年寄りのための福祉施設もそうですね。 (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦) 岩田 喜美枝(いわた きみえ) (株)資生堂取締役執行役員。元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長。32年に わたり労働行政に携わる。退官後、(株)資生堂に転身。映画「ベアテの贈り もの」制作にボランティアとして尽力。 |