キャリアデザインマガジン連載
「私のキャリア観〜キャリア・インタビュー〜」

【第5回】ワーク・ライフ・バランスとキャリアデザイン

−−−−−日本キャリアデザイン学会では、キャリアデザインを狭義の職業キ
ャリア、職業的な成功といったことだけではなく、ワークだけでなくライフま
で含めた人生全体のデザインとして考えようとしています。キャリアデザイン
をワーク・ライフ・バランスの観点から豊かにしていくためには、むしろ職業
キャリア、職業的成功を重視しすぎる風潮を改める必要があるのではないでし
ょうか。

岩田 生活が充実している人にこそ、会社でも活躍してほしい、というのが基
本です。そういう人がいい仕事ができるだろうと思うのです。仕事一筋の人で
も、それで成功する人もいればそれほどでもない人もいるのと同じように、ワ
ーク・ライフ・バランスをとった人でも、仕事で成功する人もそうでもない人
もいる、ということになるのだと思います。仕事をとるか生活をとるか、とい
う二者択一にしてはいけません。

−−−−−私たちの考えていることもまさに同じことです。仕事人間も必要だ
けれど、仕事人間だけの組織ではうまくいかないということには、企業経営者
も人事担当者も気づいています。

岩田 現代はありがたいことに豊かになって、生き方の選択の幅が広がってき
ました。昔は選択の余地がありませんでした。選択肢が増えたのはいいのです
が、自分がどういう選択をするか、選択する力をつける教育が、家庭でも学校
でもあまりされていないのではないでしょうか。特に女性の場合は選択肢が増
えている。職業だけではない生涯設計、キャリアデザインを、自分にとってな
にが大事か、という観点から現実的に考える力をつけることを支援していかな
ければなりません。親が教えられることもあるでしょうし、学校の授業、進路
指導、企業にもできることはあります。

−−−−−キャリア教育というのは流行語のようになっていますが、やはり職
業キャリアが中心です。何に向いているか、何をやりたいか、それにはどんな
勉強が必要かとか、もっと現実的にどうすれば就職試験に通るかとか。おっし
ゃられたような生涯設計としてのキャリア教育はまだこれからではないでしょ
うか。

岩田 そういう指導のできるカウンセラーも不足しているのではないでしょう
か。企業にもできることはあると思います。かつては、生活の場と仕事の場が
近くて、農林水産業や自営の商工業だと、子どもの生活の中から大人が働く
姿が見えていました。そういう時代なら、なにも教えなくても子どもは自然と
生活と仕事の関係を学びます。現在は職住が離れてしまい、仕事は工場や事務
所の中に入って見えなくなってしまいました。そうした中で、企業は子どもた
ちに仕事の場を見せてあげることが大事なのではないか。ワーク・ライフ・バ
ランス塾のメンバー企業の中にも、職場を家族に見学してもらう機会を設ける
ことを次世代育成行動計画に盛り込んだ企業はたくさんありました。それから、
実際に体験してもらう。中学2年生全員に1週間の就労体験をしてもらおうと
いう政策が関係省庁にあるそうですが、とてもいいことだと思います。

−−−−−「キャリア・スタート・ウィーク」ですね。

岩田 受け入れる企業には負担になるわけですが、社内でも、資生堂のファン
を増やす、いずれお客様になっていただけるという効果もあるし、社会貢献に
もなるから、ぜひ協力しましょうと言っています。地方にも工場もあるし支社
もありますから。

−−−−−なるほど、資生堂のお店はキャリア・スタート・ウィークにぴった
りかもしれませんね。興味を持つ子どもも多そうです。

岩田 そういうことで、人生設計をする力をつけてあげなければ。かつてのよ
うに、いろいろと考えなくても高校の先生の進路指導に従って就職したり進学
したり、進学すれば大学によってだいたい就職先も決まっていて、就職すれば
企業がキャリアを考えてくれる、そんな時代ではなくなりましたから。これか
らは自分で人生全体をデザインして、そのひとこまが会社だ、という時代です。
確実性は下がったかもしれませんが、それ以上に選択肢が増えて、自分の人生
を自由に選べる。それがキャリアデザインではないかと思います。多くの人が
キャリアデザインの力をつけて、選択肢の多い豊かな人生を送ることができれ
ばすばらしいと思います。(おわり)
                  (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

岩田 喜美枝(いわた きみえ)
(株)資生堂取締役執行役員。元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長。32年に
わたり労働行政に携わる。退官後、(株)資生堂に転身。映画「ベアテの贈り
もの」制作にボランティアとして尽力。

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