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「所得格差とキャリアデザイン(1)」(4回連載) 大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄 【第1回】格差拡大とキャリア −−−所得格差の本はいつごろ出る予定ですか。 大竹 まもなくです。5月までには出ます。70年代以降における日本の所得格 差の変化とその原因、それに対して日本人がどう考えているかなどを調べてい ます。また、とくに賃金格差についてもその変化の原因、成果主義が人々の意 欲にどのような影響を与えたか、などについても検討しています。 −−−所得格差拡大の原因については諸説あるようですね。 大竹 所得格差をどう定義するか、どういう統計を使うかは実はかなり難しい 問題ですが、いずれにしても80年代なかば以降、日本の所得格差が拡大してい ることは事実です。問題はその理由です。格差拡大は他の先進諸国でも観測さ れていて、その原因として指摘されているもののひとつが技術革新です。 −−−いわゆる、デジタル・デバイドのような・・・ 大竹 そうですね。IT革命などの技術革新で、高学歴者の需要が増えて、低 学歴者の需要が減った。もうひとつがグローバル化で、中国を中心とするアジ ア諸国の開発の進展、旧社会主義国の参入によって、安価な労働力による製品 が先進諸国に輸入されるようになって、先進諸国の低賃金労働はますます低賃 金を余儀なくされた。 −−−日本の格差拡大もそういう流れを受けたものなのでしょうか。 大竹 常識的にはそう考えられるのですが、現実には90年代なかばまでは、日 本ではそうした効果はみられません。むしろ、ほとんどが人口が高齢化したこ との影響であると考えられます。 −−−高齢者ほど同じ年齢での格差が大きいので、格差の大きい高齢者の比率 が上がると全体の格差も拡大したようにみえる、ということですね。 大竹 はい、これは日本の特徴なんですね。どの国でも若者の格差は小さく、 高齢者の格差は大きいのですが、日本はとくにそれが著しい。賃金制度をみて も、若いうちは差がつかず、30代なかばくらいからようやく差がついてくる。 極端についてくるのは40代以降でしょう。それまではキャリアの勝敗が明確に は現れません。海外ではもっと早くから結果が出ます。日本は結果が出るのが 遅いので、団塊世代が結果の出る時期に入ってきたことによって、全体の格差 も大きく観測されるようになってきました。 −−−小池和男先生が言われる「遅い昇進」が影響しているということですね。 大竹 そうなりますね。ですから、団塊世代の出世競争の結果がほぼ出尽くし た90年代後半になると、格差拡大に対する高齢化の影響はほとんど観測されな いようになります。したがって、格差の拡大ペースもかなり緩やかになりまし た。それでも、少しずつですが拡大はしています。90年代終わり以降は、各企 業で成果主義的な賃金制度が出てきたことの影響が徐々に出てきているように 思われます。実は、賃金格差や所得格差ではまだ明確には現れていないのです が、消費の格差としてかなり現れてきています。特に若い世代で顕著です。 −−−なるほど。 大竹 消費というのはまさにキャリア、将来のキャリアを考えて決定されるわ けですね。消費はいま現在の所得だけでは決まりません。若い人が、将来自分 のキャリアは上がらない、所得は増えないと思えば消費を控えますし、将来の キャリアの上昇、所得の増加が見込めるなら、いまは所得が少なくても消費は 大きくなります。キャリアでなくても、遺産相続とかでも同じことですが、あ まり劇的にというわけではありませんが、若年の消費格差は拡大しています。 −−−それは、フリーターのような不安定な、先行きが見通しにくい雇用形態 の若者が増加したこととも関係がありそうですね。 大竹 それはあるでしょうね。消費格差にいちばん大きく影響しているのは、 失業者やいわゆるフリーターといった人たちと、正社員との格差です。これは 統計的にも確認されています。ただ、消費統計というのもなかなか難しいもの なので、どこまで長期のトレンドかどうかは不確実ですが、90年代終わり以降 から消費格差の拡大が観測されていることは事実です。 −−−ということは、若い人ほど格差に対する意識が強いのでしょうね。 大竹 それがそうでもないのです。むしろ年齢層の高い人のほうが格差を意識 しています。これはおそらく、過去との比較でそう感じるのでしょう。キャリ アという点では、失業者は格差を強く意識する傾向があります。それから、女 性はパートと正社員の格差を強く感じています。 −−−統計をみてもパートと正社員の格差は拡大しています。 大竹 そのとおりですね。 (以下、次号に続きます) 大竹 文雄(おおたけ ふみお) 大阪大学社会経済研究所教授。経済学博士。労働経済学専攻。 著書に「労働経済学入門」(1998、日経文庫)、「労働問題を考える」(2001、 大阪大学出版会)、「解雇法制を考える−法学と経済学の視点」(2002、共編 著、勁草書房)ほか多数。 |