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「所得格差とキャリアデザイン(2)」(4回連載) 大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄 【第2回】リスク選好とキャリア −−−世間では、格差が拡大していることは必ずしも悪いことではない、とい う議論もあるようですが、そのあたりの意識はどうなのでしょうか。 大竹 当然のことながら、所得の低い人、あるいは失業者といった人たちは、 所得格差を問題だと考える人が多いという結果が私の研究から出ています。逆 に、高学歴者層は、格差拡大を認識してはいるものの、問題だとはあまり思っ ていない人が多い。高齢層は問題と感じている人が多くなっています。この、 年齢による意識の違いがどうしてなのかはよくわかりません。このあたりは、 世代による教育の差、環境の差があるのでしょうか。米国では高齢層に保守的 な人が多く、格差を問題視しない人が多く、日本とは逆になっています。 −−−時代背景の違いがあるのでしょうか。高学歴者ほど格差を問題視しない というのは、自分たちは勝ち組だからということなのでしょうが。 大竹 それはそういう理解でいいと思います。それから、女性のほうが格差を 強く問題視するという傾向ははっきりしています。 −−−こうした傾向は、格差そのものより、格差がなにに由来しているかとい う考え方によるのではないでしょうか。事実それに由来しているかどうかは別 として。 大竹 そうでしょうね。女性だと、格差が機会が均等でないことに由来してい ると考えているから問題視する。低学歴者は、学歴によって機会が均等でない と考えているでしょう。 −−−逆に、高学歴者は格差は自分の努力と才能によるものだから問題ではな いと思っている。 大竹 そういう認識でいいでしょう。本当に努力と才能だけかどうかはわから ないわけですが。次に考えたのが、こうした格差を税制や社会保障などの再分 配政策で調整することの是非に対する意識です。どういう人がそれを望んでい るのか。当然、問題視している人は再分配政策に賛成するという傾向がありま す。低所得者とか高齢者とか、とくに高齢者の低所得層は再分配政策に賛成で す。 −−−それは納得のいく結果です。 大竹 いっぽう、低所得者でも若年層で、これから高所得者になれそうだと思 っている人は、必ずしも再分配政策に賛成ではない。将来高い税金を払わなけ ればいけなくなりますからね。高齢者にはそういう懸念がありません。ちょっ としたパラドックスなのは女性の反応で、格差は問題だと思っているのに、再 分配政策には反対する人が多いのですね。これは米国の女性とはかなり違って いて、米国では女性は再分配政策に強く賛成する人が多い。 −−−なるほど、いまの社会では女性は結婚によって人生が変わる可能性があ るから・・・ 大竹 いやそれは違うんですよ(笑)。既婚・未婚や有業・無業をコントロー ルして分析してもその傾向が認められるのです。ですから、これは格差への対 応を税金でやるのではなく、機会均等をきちんとやってくれ、ということでは ないかと思います。 −−−今のまま所得再分配で解決してしまうと、機会不均等が固定してしまう ということですね。 大竹 まだ謎の部分ですが、そうだろうと思います。それから、格差に対する 意識や再分配政策への評価は、人々のリスクに対する意識によっても変わって きます。リスク選好的な人は格差を是認するでしょうし、そうでない人は再分 配政策を好むはずです。 −−−リスクを取りたがる人は、今は低所得でも将来は高所得になれるチャン スがあればいいと思うだろうが、リスクを避けたがる人は、将来のチャンスよ りは所得の安定を望むだろう、ということですね。 大竹 だいたいそういうことです。ただ、一般人対象の調査では、このリスク 選好度をうまく測定するのがとても難しいのです。私の研究では、天気予報の 降水確率が何パーセント以上なら傘を持って外出するか、というのをリスク選 好度の尺度に使っています。日本人には非常にわかりやすいものですし、金銭 的なリスクと必ずしも一対一に対応するものではありませんが、それなりによ く一致することは確かめています。 −−−なるほど。それで予想どおりの結果は出たのでしょうか。 大竹 はい。予想どおり、いつも傘を持って歩く人は所得格差を問題視する人 が多い、所得再分配政策を支持する人が多いという結果がはっきりと出ました。 また、これでリスク選好度をコントロールしても、これまでお話ししたような 結論に変化はありません。 (以下、次号に続きます) |