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「就労多様化とキャリアデザイン(1)」(5回連載) 東京大学社会科学研究所教授 佐藤博樹 【第1回】パートタイマーとキャリアデザイン −−−−−佐藤先生は就労多様化の研究に熱心に取り組んでおられます。これ が顕著に増えはじめたのは90年代なかばくらいだと思うのですが、こうした動 きの特徴をまず伺いたいと思います。 佐藤 90年代に入って、正規雇用が減少し、有期雇用で働く人が増えました。 そのほとんどはいわゆるパートタイマーで、フルタイムで働くプロフェッショ ナルな有期雇用はまだそれほど増えていません。派遣労働は注目はされるので すが、数としては雇用者全体の1%程度で、それほど多くはない。この変化を キャリアという観点からみると、ひとつは若い人で、学校を卒業して正社員に なれなくて、有期雇用で働く人が増えてきた。もうひとつは女性で、これまで は結婚して退職して、そのあとはパートで働くというというキャリアが多かっ たわけですが、そこに派遣という形が加わった。女性にとっては、キャリアの 選択肢が増えたという見方もできますね。 −−−−−では、パートから始めたいと思いますが、この間パートの働き方に どんな変化があったのでしょう。 佐藤 80年代後半くらいからパートの基幹化が進みました。小売業などで顕著 になるのが90年代でしょうか。スーパーなどが店舗を増やし、一方で正社員を 抑制する。当然、パートのなかから、補助的な仕事だけではなく、教育訓練も 受け、かつて社員が従事していた仕事に配置され、キャリアが上昇する人が出 てきます。正社員とパートの均衡処遇の議論が出てきたのも、こうした働き方 の実態の変化をふまえたものです。パートの戦力化が進み、パートと正社員の 処遇のバランスをどうとるか、ということが人事管理においても、雇用政策の 上でも大事になってきました。 −−−−−パート店長が注目されたり、パートから役員が出たりしたのも90年 代ですね。ただ、現実の問題として、パートのキャリアの上限というものも明 らかになってきたようです。 佐藤 短時間勤務ということで、職業能力に関してはフルタイム勤務の人より は能力向上に時間がかかるということはありますが、これは時間をかければで きることから、昇進昇格などゆっくりですが上がっていけます。むしろ、ある 程度一定時間以上職場にいないと就けない仕事というのがあって、この制約が パートのキャリアの天井をつくっているということがあります。ですから、短 時間勤務といっても基幹化したパートの労働時間は比較的長いのです。もちろ ん残業はしないとか所定労働時間が正社員よりも少しだけ短いということはあ りますが、やはり責任あるポストになるほフルタイムで長く働くことが業務上 必要になります。 −−−−−パートを基幹的に使っている大手スーパーでも、賃金決定方法を正 社員と同じにするという取り組みは始まっていますが、そういう企業でも、店 長クラス以上はフルタイムでないとなれないようです。 佐藤 そうですね。単純に時間比例にできないところがある。他方、このこと は正社員の働き方に依存している部分があるかもしれません。日本の場合、正 社員は当然残業ができるという前提があります。しかしこれが、ある職位以下 のは残業はしないという状況になれば、つまり正社員の働き方が変われば、パ ートのキャリアがさらに上に伸びる可能性があります。 −−−−−いわゆる正社員がみんな残業をするから、組織的にそれに合わせて くれる人でないと・・・。 佐藤 そうそう。それはパートから正社員になかなか登用できないという理由 にもなっているのです。だから日本ではパートから正社員へのキャリアがつな がりにくいのです。日本では、残業してもらうという働き方を、下位の職位を 含めて正社員全員に期待しているからです。 −−−−−かつては、いわゆる一般職という人たちがいて、忙しいときは残業 もするけれど、基本的には定時退社という働き方をしている人も多かったので すが、今はそういう仕事がどんどん非正規に置き換わっています。 佐藤 そこがみんなパートに置き換わって、残っている正社員がますます残業 などの面で、従来型の典型的な正社員の働き方ばかりになっていますね。だか らよけいにパートから正社員へ登用の壁が高くなっている。昔はパートから一 般職への転換というのはあったのですが。 −−−−−ありましたね。今でも、50歳前後くらいで勤続している女性のなか には、パートから正社員になったという人はよくみかけます。 佐藤 これからそれがみんなパートに置き換わっていきますね。だったら、無 理にパートを正社員への転換という形にしなくても、能力や仕事に応じて処遇 していくことを徹底していけばいいのかもしれません。逆にいえば、勤務時間 の短い社員ということで、それがまさに「短時間正社員」なのかもしれません ね。有期というところを除けば、能力や仕事で処遇される点では正社員と変わ らなくなるわけですから。 −−−−−現に、有期でないパートというのはけっこういますね。 佐藤 統計をみると半分はそうですからね。 −−−−−半分というのは多い感じがしますね。本人調査だと、本当は有期な んだけれど自動更新が続いていて、本人はもう有期だと思っていない人がいる のでは。 佐藤 それだけ雇用管理がちゃんと行われていない企業が多いということなん ですね。例えば、企業規模が大きくなればなるほど有期契約のパートが多くな る。大企業は手間をかけてきちんと雇用管理をしているのです。 −−−−−一般職からパートへの置き換えが進んだ理由はなんでしょう。 佐藤 それはまず賃金でしょうね。社員の賃金制度は年功的部分がまだかなり あるため、会社が拡大しているうちはいいけれど、そうでなくなると一般職の 賃金水準が仕事内容に比べて高めになってしまう。一般職の賃金制度が仕事給 にできれば、働く人の側も賃金が上がらなくても、私の仕事はこれだから賃金 もこれだけ、ということで納得でき、一般職を正社員として雇用することが維 持できたかもしれません。また正社員でなくても1年契約の有期雇用で2回更 新でき賃金は3ランクくらいの仕事給で契約社員を活用しているる企業もたく さんあります。これでもいい。 −−−−−なるほど、それだとフルタイムで働ける。 佐藤 そうです。キャリアのためにはフルタイムで働けるということは大事で、 これができれば、パートから正社員は難しくても、パートからフルタイムの契 約社員というキャリアの可能性が出てきます。 −−−−−いっぽう、企業としては、企業の拡大が止まったということで、雇 用量の調整のために有期雇用を増やしているという面もあります。 佐藤 パートが増えたということは、雇用は柔軟だけど時間は柔軟じゃない人 が増えているわけです。逆に正社員は減っていますから、これまで以上に時間 とか、仕事とかに対するフレキシビリティを求められている。そういう人しか 正社員として雇えなくなってきています。フルタイム勤務で長期雇用の社員に 求めるフレキシビリティが高まっていて、それが長時間労働として現れたりし ている。その中間みたい働き方を作りにくいのでしょうが、本当はそういう中 間的な働き方も選べることが望ましいと思います。もちろんそのためにはいろ いろ課題はあるわけですが。 (つづく) (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦) 佐藤 博樹(さとう ひろき) 東京大学社会科学研究所教授。産業社会学専攻。専門は人的資源管理、労使 関係、社会調査。著書に「ユニオン・アイデンティティ大作戦」(1991、共 著、総合労働研究所)、「人事管理入門」(2002、共著、日本経済新聞社)、 「男性の育児休業」(2004、共著、中公新書)ほか多数。 |