キャリアデザインマガジン連載
「私のキャリア観〜キャリア・インタビュー〜」

「就労多様化とキャリアデザイン(2)」(5回連載)
                 東京大学社会科学研究所教授 佐藤博樹

【第2回】若年非典型とキャリアデザイン

−−−−−女性パートの話をいろいろ伺いましたが、最近のもうひとつの変化
として、先生は若年パートの問題をあげられました。

佐藤 これまでは、高校を出たら製造業に正社員で就職するというのがひとつ
の一般的なパターンでしたが、90年代に正社員の求人が極端に落ち込みました。
そこで卒業後に無業になったり、有期の仕事につく人が一気に増えた。これは
かつてないことで、新卒で正社員にならなかった人のキャリア形成をどう作る
かが大きな課題になっています。

−−−−−フリーターとか、新卒無業とかですね。正社員として就職できず、
有期のアルバイトをしているとか。

佐藤 新卒者が有期の仕事を2年、3年やって、ずっとそれか、ということな
んですが、そこの先のキャリアをどう作っていくかということで、その会社で
正社員に登用される、あるいはほかの会社の正社員として採用されるにはどう
したらいいか。ひとつ大事なのは、アルバイトで働いた経験をどう評価するか
ということです。アルバイトだから能力開発につながらない仕事なのか、とい
うと必ずしもそうでもないし、そこが新しい課題ですね。

−−−−−有期雇用だと、契約更新があるとしても、基本的には雇用量の柔軟
性を確保したいということですから、企業が主体的に能力開発をしようという
インセンティブは働きにくいですね。

佐藤 ただ、小売業で非正社員を使っているのが本当に数量的な調整だけのた
めなのか、というと、そうでもない。たとえばファミリーレストランでは一店
舗に2人しか正社員がいないことが多いですが、なぜそこまで有期でやらなけ
ればいけないのかは実はよくわかりません。人材育成にそれほど長い人的資源
投資が必要ないと思っているのか、あるいは働く人の方がそれほど長く働くつ
もりがないのか。いずれにしても、なぜ有期なのか、ということはきちんと考
えなければいけない。

−−−−−有期を増やす、正社員を減らすということで、慣性が働いているだ
けの可能性もあると。

佐藤 たいして考えず、なんとなく安そうだから有期にしておけ、ということ
があるんじゃないでしょうか。たしかに日本では正社員を解雇するのは難しい
ですが、他方で、正社員なら他の店に異動させることができるわけですからね。

−−−−−小売業の人に聞いた話ですが、雇い止めはしないまでも、契約更新
のときに労働条件を変更したいということはあるのだそうです。時給はともか
く、勤務日や勤務時間帯を減らすとか、変えるとか。

佐藤 なるほど、それがやれるかどうか、ということですね。

−−−−−話を元に戻して、新卒で正社員になれずにやむなくパートになった
人が、これからどうすればいいかということですが。産業界にも、たとえば日
本経団連の「2005年版経営労働政策委員会報告」などをみても、いわゆるフリ
ーターでも人物本位でいい人がいれば採用して育成しよう、という気運が出て
きているようです。

佐藤 まず、有期契約でもフルタイムで働くことですね。短時間はよくないと
思うんですよ。毎日、職場に出て一日働けば、働くということの基本的を学べ
る。いろいろ考えるのはまずそこを過ぎてからでもいいのです。それからもう
少し上のレベルの仕事を経験し、それから正社員に、というステップです。そ
れを企業の側がちゃんと評価してあげるっていうことが大事です。

−−−−−日本経団連の報告書も、フリーターでも有意義な経験や知識を蓄積
している人がいる、ということに注目しているようです。

佐藤 そうそう。アルバイトだっていい仕事と悪い仕事がある。アルバイトだ
って教育訓練をしっかりやってくれる会社もあるわけです。しかしそういう情
報がない。社員として勤めたって、ろくに教育訓練してくれない会社だってた
くさんあるんです、実は。

−−−−−うーん、まあ、あるでしょうね。

佐藤 逆にアルバイトだって、アルバイトを店長にするくらいにしっかり教育
訓練する会社だってたくさんあるわけだから、アルバイトが全部同じなんてこ
とはない。そういうことが若い人たちにわかるようにしてあげれば、アルバイ
トで働く場合もそうした会社を選ぶことができるし、採用するほうだってアル
バイト経験を評価しやすい。

−−−−−そういうシステムがあることを訴求して、安価でいいアルバイトを
集めようという会社もありますね。

佐藤 安い賃金で働いても、あそこで3年働いて店長候補になっていたら、ほ
かのどこでも通用するみたいな、たとえば別の外食チェーンで正社員の店長候
補で採用してもらえるとかね。そういう会社はアルバイトの能力評価をしたり
しいます。

−−−−−評価は必ずしていますよね。きちんとした制度はなくて、時給に反
映されていないとしても、やっぱり仕事振りや能力をみて、次はリーダーにす
るとか、これまで週3日だったけど次の契約は週2回でいいとか。

佐藤 やってるんですよ。で、今のところは、どこそこで店長やってましたと
か、調理場のリーダーでしたとかいう企業ブランドなんだよね。まあ、それで
いいのかもしれない、それも評価の結果なんだから。社員の転職も同じですね。
この会社で何年いてこのポジションなら、どの程度の職業能力があると判断で
きるでしょ。それで大きな間違いはない。だから、アルバイトをしっかり育て
ている会社は、わが社はアルバイトをこういうふうに使っています、というの
をどんどん言えばいい。そういう情報がもっと流れるようにすることが大事で、
企業はいまCSRとかいろいろ言われていますが、そういう情報がもっと外に
見えるようにしたほうがいいよね。人材育成とかキャリア開発とか賃金水準と
か、それがそこで働いている人の評価にもなるんだから。

−−−−−たしかに、その会社に入ろうという人にとっても重要な情報ですね。
実務的には難しいものがありますが。

佐藤 確かに賃金水準なんか、企業がいちばん出したくない情報ですね。いい
話ばかりじゃないしね。 (つづく)
                 (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

 佐藤 博樹(さとう ひろき)
 東京大学社会科学研究所教授。産業社会学専攻。専門は人的資源管理、労使
 関係、社会調査。著書に「ユニオン・アイデンティティ大作戦」(1991、共
 著、総合労働研究所)、「人事管理入門」(2002、共著、日本経済新聞社)、
 「男性の育児休業」(2004、共著、中公新書)ほか多数。


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