キャリアデザインマガジン連載
「私のキャリア観〜キャリア・インタビュー〜」

「就労多様化とキャリアデザイン(4)」(5回連載)
                 東京大学社会科学研究所教授 佐藤博樹

【第4回】派遣とキャリアデザイン

−−−−−次に、人数的にはたいしたことはないというお話でしたが、派遣に
ついてはどうでしょうか。

佐藤 先のみえないキャリアが増えていて、特に派遣がそうです。派遣ももう
法律ができて十何年もたって、派遣一期生というのはもう三十代後半ですが、
この先のキャリアがあるのか、ずっと派遣でいけるのか。先をみながらキャリ
アを考えるのがキャリアデザインでしょう。でも、本人にできるかというと、
企業が派遣をどう使うのか、派遣会社が派遣のキャリアをどう考えるのかとい
うことにすごく依存していて、個人がどうこうということではないところがあ
るから非常に難しい。

−−−−−派遣については、導入当時はとても美しい絵がありましたね。高い
専門性を生かしていろいろな企業に派遣されて、それでキャリアアップしてい
くという。

佐藤 派遣というのは仕事で選ぶ、ということなら、企業をこえて経理事務と
か秘書とかでキャリアを作っていく、それを考えて次の仕事を派遣ビジネス業
者が開拓できるのか、ということが課題です。それが難しいわけです。派遣ビ
ジネスの営業のあり方、派遣会社が受け入れ先に対してこういう使い方ができ
ますよ、こういう人材がいますよ、という提案型の営業ができないと、派遣社
員の先のキャリアはできていかないのです。

−−−−−そういう議論だと、常用型派遣だと業者に営業のインセンティブが
働きますね。

佐藤 登録型だと業者にリスクがない。それは逆にいうと、派遣社員がどうい
う派遣業者を選ぶかというときに、将来のキャリアまで考えてくれる会社がい
い会社だ、ということにならないと無理ですよね。技術系の常用派遣だと派遣
会社が正社員として雇用してるから、賃金だって多少は考えないといけないし、
技術が上がればいい値段で派遣できるっていうモチベーションがあるけど、登
録型にはない。派遣社員のスキルやキャリアを考える派遣会社にはいい人材が
集まるとか、あるいはユーザー企業から発注がたくさん来るとかいうことにな
らないとダメですね。派遣社員が、個人として自分のキャリアデザインをどこ
までやれるかというと、すごく難しい。

−−−−−しかし、世の中の議論は「自分でやれ」という風潮です。

佐藤 そう、そう。でも、じゃあやれるのか、というと難しい。やはり、派遣
会社がどこまでサポートできるかに依存する。そのためには、派遣社員のキャ
リアまで考える派遣会社がいい会社だ、ということにならないと難しい。

−−−−−いっぽうで、企業が求めるもの、特に登録型に求めるのはフレキシ
ビリティです。すぐに派遣してもらえる、まとまった数が確保できる。

佐藤 でも、やっぱりいい人に来てほしいでしょ。そういうときに、派遣会社
としてはやっぱりいい人をたくさん抱えているということは大事です。

−−−−−もうひとつ問題なのは、受け入れ企業に派遣社員を育成するインセ
ンティブがないことだと思います。派遣社員の側は、それを不満に感じている
という調査結果もあるようです。

佐藤 派遣や有期雇用では難しいですね。まさに本人がやれっていう話になる。
企業は、育成をやらなくてもなんとかなるんだから。日本企業は人的資本投資、
人材育成を積極的にやると言われていましたが、それはやっぱり長期雇用で、
正社員として抱えていたからなんだよな。

−−−−−やらざるを得なかった。

佐藤 本当に企業が社員のキャリアを考えていたのか、っていう判断は難しい
ですね。

−−−−−基調としてずっと人手不足でしたから、中で育てるしかなかった、
ということはあると思います。

佐藤 ですから、パートでも派遣でも正社員でも、あるいは独立開業でも、個
人でキャリア形成なんていうのは、実は成り立たないんじゃないかと思います
ね。企業や仲介ビジネスなんかもふくめてどういうふうにキャリアを作ってい
くか、ということを考えないと実は無理なんじゃないかと。

−−−−−たしかに、今現在の状況としては、正社員のキャリアを守るために、
非正社員のキャリアがないがしろになっているという部分はあるのかもしれま
せん。

佐藤 そこをどうつなげていくかですね。派遣から正社員、パートから正社員、
あるいは正社員から派遣があってもいい。就労多様化でいろんなキャリアが出
てきたんだけど、従来型キャリアを守るためじゃなくて、行き来できることが
大切ですね。それを個人の力だけでできるのかというと、それは企業の側が社
員をどう使うかとか派遣やパートをどう使うとかも関係してくるし、仲介役の
派遣会社や請負会社がどうするかとか、あとは求人情報の出し方とか、そうい
うものが全体として変わっていかないとなかなか難しいでしょうね。(つづく)
                 (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

 佐藤 博樹(さとう ひろき)
 東京大学社会科学研究所教授。産業社会学専攻。専門は人的資源管理、労使
 関係、社会調査。著書に「ユニオン・アイデンティティ大作戦」(1991、共
 著、総合労働研究所)、「人事管理入門」(2002、共著、日本経済新聞社)、
 「男性の育児休業」(2004、共著、中公新書)ほか多数。

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