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【第5回・最終回】結婚とキャリアデザイン −−−−−就労多様化を考えるにはワーク・ライフ・バランスの観点が重要だ と思います。佐藤先生は最近、経済産業省の「少子化時代の結婚産業の在り方 に関する研究会」の座長に就任されました。 佐藤 経済産業省に頼まれたので。ただ、労働政策研究の立場からワーク・ラ イフ・バランスとか、少子化問題とかに関わっていくと、どうしても結婚の問 題に行き当たる。結婚しないという人もあるけれど、結婚したいけどできない、 という人もかなりあります。男性も女性も、いま未婚でも、いい相手がいれば 結婚したい、という人が多い。 −−−−−結婚できない要因はいろいろ言われます。そもそも出会いの場がな い、出会いの場はあるけれど結婚したいという相手がいない、それから相手も いるのだけれど経済的にできないとか。それで、そんな大変な思いをしてまで 結婚するよりは、ということで結婚しないという選択をする人もいるようです。 佐藤 そうですね。で、経済的にできない、というのはたしかにあって、正社 員としての仕事につけず、アルバイトで働いている若い人は、結婚しようにも 経済的に難しい。いっぽうで、正社員になれた人はなれた人で、企業が正社員 の数を絞り込んでいるあおりで長時間労働になって、こんどは出会いのチャン スがない。若年雇用の問題は、結婚とか少子化の観点からも重要です。 −−−−−職場での出会い、というのも減っているようです。 佐藤 そうなんです。会社とか仕事関係で相手を見つける、というのがどんど ん減っている。昔なら、オフィスでは一般職というのが新卒の女性で、ここに 出会いがたいさんあったけれど、今は派遣社員にどんどん置き換わっています。 社員からすると派遣社員と交際しようとすることに抵抗がある。それから大切 なのは、昔は上司が独身の部下に相手を世話しようとした。会社に限らず、地 域にもそういう世話焼きがいたんですね。で、そういう人が努力することで、 本人もあまり高望みはせずに、まあ自分にはこんな感じの相手がちょうどいい かな、というのがわかったということがあったと思うんです。今は職場の人間 関係が希薄化して、特に女性に対しては結婚の面倒をみようなんて考えるとセ クハラと言われかねない。 −−−−−なるほど、「お似合い」感覚が形成されない・・・。 佐藤 だからこれは情報の問題ですよね。自分がどういう人なのかという情報、 どこに自分の相手になりそうな人がいるかという情報。それから、自分に合っ た相手、というのはカウンセリングの問題かもしれない。男性も女性もお互い いい人がいれば結婚したいと思っているのにできない、というのは、これはマ ッチングの不備ですから、そういう意味では基本的には職業紹介と同じです。 どういう努力をしてどういう能力をつければ就職できるか、ってのは結婚でも 似たようなものでしょ。ただ、ぼくはこれは行政がやるべきことじゃないと思 うから、民間でやってはどうか、というようなことを言っていたら、経済産業 省からお呼びがかかった。 −−−−−現実には、すでに民間の結婚紹介サービスはありますね。企業によ っては、福利厚生の一環としてこうした業者と提携して従業員に結婚紹介サー ビスを提供している例もあります。 佐藤 そうなんですがね、それで結婚した男女の結婚披露宴では、まず絶対に 結婚紹介サービスで出会って結婚しました、って言わないわけですよ。普通は いわゆる「なれそめ」とか言うわけですが、それを言わない。なぜかというと、 いまの日本社会では、結婚紹介サービスを使うというのは自分に魅力がないと いうシグナルになっちゃうんですよ。自力では相手を見つけられなかった、み たいなね。カッコ悪いと思われている。 −−−−−男性だと「甲斐性がない」とか。 佐藤 職探しで職安や人材ビジネス業者を使うのは当たり前なように、結婚相 手を探すのもそういう方法を使うのが当たり前、というふうになればいいんで すけれどね。そうすれば、結婚紹介業者に登録して、こんなすばらしい相手と 結婚できたのは、いかに自分が魅力的だったか、ということになる。親戚や上 司の紹介ならいいけれど、業者の紹介ではダメ、という理由はないですよね。 親戚や上司と業者の最大の違いは、親戚や上司はそれなりに人物に責任を持つ というか、保証するということです。 −−−−−なるほど、縁故紹介なら、紹介者がきちんとした人物かどうか、ま じめに結婚を考えているかどうかの事実上の保証人になる。これも就職、採用 とよく似ています。 佐藤 ぼくは大手の人材ビジネス業者が、新しいビジネスモデルとして結婚紹 介サービスを開発できるのはないかと思っています。思いつきですが、それこ そ派遣の登録とか、求職の申し込みをするときに、独身だったら結婚紹介サー ビスを利用するかどうか、ついでに聞く。入力フォームでチェックボックスに チェックを入れるとか、簡単な形で。これならかなり人物の保証ができるし、 結婚紹介サービスだけを申し込むよりずっと抵抗感なくやれるんじゃないか。 −−−−−それならかなり信頼性もありそうですし、数も集まりそうですね。 佐藤 まあいろいろと課題はあると思いますが、数が集まれば、どういう人が どういう人に求められているかということがわかってくる。そうすれば、それ をもとにカウンセリングもできるし、自助努力もできる。 −−−−−人生の一大事ですから、専門家の意見をきくのは賢明ともいえます。 佐藤 そういうことです。今回は、パートとか派遣とか、フリーターが正社員 になるにはとか、ミクロなキャリアデザインの話ばかりしましたが、本当は仕 事だけではなくて、生活まで含めた人生のデザイン、ライフデザインみたいな ものをどう描くか、というのがキャリアデザインの大切な考え方ではないでし ょうか。 −−−−−今回はワーク・ライフ・バランスのお話はあまりお聞きできません でしたが、日本キャリアデザイン学会でも、キャリアデザインを職業だけでは なく、全生涯を通じたものとしてとらえています。 佐藤 仕事で成功することだけがキャリアじゃない。人生をいかにゆたかに生 きるかという観点から、さまざまな生き方、働き方を考えたいものですね。 (完) (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦) 佐藤 博樹(さとう ひろき) 東京大学社会科学研究所教授。産業社会学専攻。専門は人的資源管理、労使 関係、社会調査。著書に「ユニオン・アイデンティティ大作戦」(1991、共 著、総合労働研究所)、「人事管理入門」(2002、共著、日本経済新聞社)、 「男性の育児休業」(2004、共著、中公新書)ほか多数。 |