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====================================================================== *** 労務屋の労働雑感 *** ---------------------------------------------------------------------- 平成12年5月12日発行 ---------------------------------------------------------------------- <<< 失業が怖くない社会って・・・? >>> ====================================================================== 本日の日経新聞「経済教室」で、泣く子も黙る島田晴雄先生の「失業が怖くない 社会を創れ」という一文が掲載されておりました(まあ、見出しは新聞社がつけた ものだろうとは思いますが)。 要約しますと、産業構造転換を促すために労働力の移動が必要だが、失業は怖い のでこれが進まない。したがって、以下の各施策によって、失業が怖くない社会を つくるべきである。(1)自発的転職も含め失業給付の重点的拡充(2)能力向上 支援のための情報提供、訓練バウチャー支給(3)職業紹介・派遣の規制緩和推進 (4)年金のポータブル化、退職金税制や財形の見直し(5)現実的解雇法規定の 明確化(6)検定制度など職業能力の社会的評価制度の確立。 「失業が怖くない社会」とはいったい何でしょう? たしかに、バブル期の超人手不足の時には、「失業の怖くない社会」が実現して いたとは思います。当時は、ちょっと意に染まぬ人事異動や昇格人事があるだけで、 簡単に退職を口にし、現実に、再就職が決まらないうちに退職するというケースが 多発しておりました。しかし、こういう状態を安定的に実現することは、なかなか 困難でありましょう。 「転職が(不合理なまでに)不利にならない社会」を実現することが必要である ことは、小生もまったく同感です。その意味で、島田先生の提案の(3)(4)は まことに必要な取り組みと思います。しかし、その他の提案には疑問があります。 (1)ですが、確かに、気に入った仕事・条件で再就職できるまで、ある程度の 水準の失業給付が無期限に支給されるのであれば、確かに失業は怖くなくなります。 しかし、仮にそんな制度を導入したら、よほど気に入った仕事が見つからない限り、 失業していた方がいいという人がどんどん増えてしまうでしょう。 現行1年の支給期間を、3年、5年に延長したところで、それなら3年、5年と 支給を受けた後に再就職することが、最も合理的であることに変わりはありません。 当然、給付を受けているあいだは、よりよい再就職先を求めて求人を選ぶでしょう。 そして、給付が打ち切られると、手頃なところで妥協するか、妥協できないのなら さらに失業を続ける。 まあ、1年よりは3年、5年かけた方がいい仕事が見つかる可能性が高くなると いう効果や、今の仕事に不満がある人が、3年も5年も給付があるのだから、この 際思い切ってやめてしまおうか、と思うかも知れない、という程度の効果はあると 思いますが。 本質的な議論として、失業が怖くないようにするには、次の良好な仕事がすぐに 見つかることが必要なのであって、いくら失業給付を拡充しても、給付されている 間に良い仕事が見つかる保障がない(確率が低い)のであれば、いずれ給付が切れ た時のことを考えれば、失業が恐怖であることに変わりはないということです。 そこで、保障はできないまでも確率をなるべく上げようというのが(2)以下の 施策ということでしょう((5)は良くわかりませんが)。 (2)について、職業能力の向上が大切なことは間違いないわけですが、公共の 訓練施設や民間のプログラムよりずっと優れた「職場でのojt」が入っていない のはどうしたことでしょう。まずは成長産業、新規企業を育て、職場、雇用を作り、 そこで働きながら仕事を覚えるという一連の活動を助成する方が、失業を回避する という観点からも好ましいはずです。 また、とってつけたように訓練バウチャーの支給が出てきていますが、基本的に バウチャーは換金されてもいい場合に有効であり、この場合はあまり効果がないと 云わざるを得ません。例えば育児バウチャーや介護バウチャーは、それを換金して、 自分で育児や介護をしてもいいわけですが、訓練バウチャーは、換金してしまうと、 本人自身の訓練には使わなけれなくなってしまうので、無意味になってしまいます。 こういう性質のものには、現状の能力開発給付金のような、出来高に対して助成を 行うのが合理的です。 (3)(4)に関しては、転職が不利にならないという意味でも有意義な施策で ありましょう。 (5)は、必要な取り組みであるとは思うのですが、これにより失業が怖くない 社会になるという理屈は今一つわかりません。解雇にあたって、残りの人生を一生 遊んで暮らせるくらいの割増退職金を支払うという法律を作るというなら、確かに 解雇による失業は怖くなくなるでしょうが。 (6)は思い付きとしてはわかるのですが、現実の問題として、複雑化・専門化 するさまざまな職能について、横断的で比較可能な検定を行うことは無理でしょう。 あまり高度でない、比較的定型的なスキルやノウハウについてはできるでしょうが、 ある程度企業の競争力につながるようなスキルやノウハウは、第3者的に評価する ことは非常に困難でしょう。 小生の感想としては、やはり失業が怖くない社会を作るというのは無理だろうと 思います。やはり失業は怖いものであり、だからこそ完全雇用が政府の政策目標と なり、雇用政策が各国の課題になっているのではないでしょうか。失業が怖くない 社会ではなく、失業の少ない社会こそを創るべきだろうと思います。 そのためには、なにより、経済を活性化して、雇用を増加させることでしょうが、 あわせて産業構造の転換を進めるには、既存の企業が、既存の経営資源を活用して、 新たな成長産業を事業化していく取り組みが重要であろうと思います。 ====================================================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」(id=0000049801) ◆このメールマガジンは、労働ロビイストの作者が、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関する 話題を提供するものです。 不定期刊ですが、おおむね毎週発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659 の 「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。その際は、「労務屋の労働雑感」からの転載・ 引用であることと、まぐまぐのid(00000xxxxx)の記載をお願いします。 ====================================================================== |