===================================

          *** 労務屋の労働雑感 ***

+++++++++++++++++++++++++++++++++++
        平成13年03月26日発行 通巻049号
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

           <<< マネージド・ケア >>>

===================================

 現在、政府・与党が、社会保障改革大綱の取りまとめを進めていますが、報
道によりますと、高齢者医療費の伸びを経済成長率の範囲内に抑制し、当面は
年1〜2%とすることが盛り込まれる見通しとのことです。
 もともと、健康保険は、古くからコメ・国鉄と並んで「3k赤字」と呼ばれ
ていたほどで、その財政状況は良くありませんでした。しかも、最近では、企
業のリストラによって、雇用者数や、保険料のベースとなる賃金・給与が抑制
されることで保険料収入が伸び悩む一方、国民医療費は一本調子で増加を続け
ているため、すでに破たんは秒読みの状態にあります。
 その大きな原因が、増加を続ける高齢者医療費にあることは、よく知られて
います。厚生労働省の見通しによれば、2001年の国民医療費見通し30兆7千億
円のうち、老人医療費はその約36%にあたる11兆円にのぼるそうです。原則
70歳以上の高齢者は、老人保険制度によって非常に低い自己負担で医療が受
けられることになっていますが、この財源の約7割は、健康保険組合などが拠
出する老人保健拠出金によってまかなわれています。老人医療費が増加する中
で、老人保健拠出金も増加を続けており、1999年度には、健康保険組合の全収
入の約3分の1に達しています。この負担の重さのために、ほとんどの健康保
険組合の保険料率は法律で定められた上限に達していますが、それでもなお、
実に9割もの健康保険組合が赤字というのが実態なのです。
 今後の見通しはどうかと云えば、国民医療費は、ここ数年は患者負担引き上
げの効果などにより、2〜4%の伸びに抑制され、2000年度には新たにスター
トした介護保険に従来の高齢者医療費の一部が吸収されたことにより、過去最
高だった1999年度を下回る見込みとのことですが、2001年からはふたたび増加
に転じ、今後も、現行制度のままでは、年平均4%程度の伸びが続きそうだと
のことです。その主な原因が、老人保険制度適用対象者が増え続けることにあ
ることは云うまでもありません。
 こうした中で、今回、高齢者医療費を経済成長率以下に抑制しようとの方針
が出てきたわけですが、その具体的な方法などは、まだこれからの検討に委ね
られているということのようです。
 さて、高齢者医療費については、いずれにしても現状のままでは成り立たな
いことは目に見えていることから、関係者からさまざまな改革案が提言されて
いますが、それぞれの思惑が交錯して、各者各様の提言となっています。
 日本医師会の提言は、独立した高齢者医療保険制度を創出し、拠出金を廃止
する代わりに現役世代の保険料と公費を大幅に投入するという、いわゆる独立
方式の案になっています。これはもちろん、増加を続ける老人医療費に対して、
より安定的で確実な財源を確保することを第一優先に考えた案に他なりません。
 これに対して、連合の提言は、現行の老人保健制度を廃止し、被用者は現役
時代の健保(政管健保または健保組合)に継続して加入、被用者以外は国民健
康保険に継続して加入するという、いわゆる生涯突き抜け方式の案になってい
ます。これは、現在の使用者(企業)の負担分を維持することで、勤労者の負
担増を抑制するとともに、所得捕捉などの観点で不公平感の強い自営業者と独
立させることで、所得が「ガラスばり」の被用者の不利を軽減しようとするも
のでありましょう。
 経済界はどうかと云えば、経団連は日本医師会と同様の独立保険方式の案で、
65歳以上の高齢者は公費負担を65%、75歳以上は80%とし、現行から
の増加分は消費税を財源とし、一部で保険の部分を残すとともに、自己負担は
65歳以上20%、75歳以上10%に拡大するというものです。これは、何
よりも企業の負担をなくす(この方法だと老人保健拠出金はゼロになる)こと
を最優先した案ということでしょう。経団連の今井会長は、老人保健拠出金の
全廃を主張しているそうです。
 日経連の案は、連合への配慮もあるのか、70歳までは連合の案と同様の突
き抜け方式とし、70歳以降は現行の老人保健制度を独立の高齢者医療保険制
度に改めるというものです。公費は消費税を財源に65%、保険料15%、自
己負担は20%という高齢者には厳しい案となっています。これは経済界とい
うよりは、健康保険組合の機能を確保するという、健康保険組合の利益を重視
した内容と見ることができそうです。
 これらはどれも、多分に我田引水的な部分が大きく、一長一短ですが、全体
としての高齢者医療費を抑制するという観点からの議論が、今一つ不足してい
るように思われます。
 連合は、すでに3年前から「お医者さんにかかったら、領収書をもらおう」
キャンペーンを展開しています。健康保険組合が発行する医療費通知書と照合
することで、不正請求をチェックしようという運動で、現実にこれによって不
正請求が発覚した例もあるそうです。不正請求という極端なケースでなくても、
この診察でいくら、投薬でいくらのお金がかかっているかを患者が確認してお
くことは有益でしょう。
 もっと大切なことは、実際に医療費を支出する健康保険組合などのいわゆる
「保険者」が、請求内容が正確か、過大でないかをチェックし、適正でない請
求に対しては支払を拒む、という、「保険者機能の発揮」ではないでしょうか。
アメリカは、医療費が非常に高額ですが、そのあまりの高額に対抗するために、
医療保険(アメリカの医療保険は民間が大半)業者は、請求を詳細にチェック
し、検査のやりすぎとか、不要な投薬とか、あるいは必要以上に高価な薬剤を
使用しているとかいうことに目を光らせているそうです。また、欧米の国の中
には、薬剤師に対して、効き目が同じであれば、医師の処方より安価な医薬品
に、本人の同意を得て、投薬を変更できる権限を与えている例もあります。こ
のように、医療費が高額にならないように管理された医療のことを「マネージ
ド・ケア」と言っています。わが国でも、このような「マネージド・ケア」の
発想を導入することが必要であると思われます。
 高齢者医療の見直しにも、マネージド・ケアの観点を織り込んで行くことが
必要でしょうが、その最大のポイントは保険者機能の強化ということになりそ
うです。独立保険方式の場合、保険者は基本的に市町村ということになると思
われますが、市町村、特に小規模な町村に、かなり高度な医療に関する知識が
必要とされる保険者機能が担えるのか、若干不安ではあります。健康保険組合
も同様で、今、保険者機能をそれなりに発揮している健康保険組合は、相当な
大企業の健康保険組合に限られているというのが実情のようです。したがって、
どのような方式になるにせよ、保険者機能を担う人材の育成と確保が必要にな
るものと思われます。
 いずれにしても、医師の収入の確保や、企業負担の軽減といった近視眼的な
見地に立った議論ばかりではなく、国全体としての医療費の適正化といった観
点からの議論が進むことを期待したいものです。

                (次回は3月29日に配信する予定です)
===================================

◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」
 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され
 ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801

◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、
 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す
 る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。
 
◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。
 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html

◆登録・解除は、次のページからお願いします。
 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html

◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659
 の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。

◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com

◆転載・引用を歓迎します。その際は、「労務屋の労働雑感」からの転載・引
 用であることと、まぐまぐのid(0000049801)の記載をお願いします。

◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま
 せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、
 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。

===================================

メールマガジンにもどる
バックナンバーのインデックスにもどる