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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年08月09日発行 通巻084号
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 「失業給付の支給期間を延長せよ」という議論が、またしても息を吹き返し
てきました。今回はこれについて考えてみたいと思います。
 以前、失業給付を受給している人が、どのタイミングで再就職しているかと
いう資料を見せてもらったことがあります。驚いたことにというべきか当然と
いうべきか、再就職のタイミングは、みごとに失業給付が切れるタイミングに
集中していました。失業給付が切れる前に再就職した人に対しては、もらい損
ねた?分の一部を支給する制度もあることはありますが、多くの人はやはり、
「貰えるものは貰ってから」再就職する、というのが普通の発想なのでしょう。
専業主婦になる人も定年退職した人も、一応失業給付はしっかり受給するわけ
で、その善し悪しは別として、心情的にはわかるものがあります。あるいは、
とにかく失業給付が切れるまでは、なるべく条件のいい仕事が出てくるのを待
ち、切れた時点で適当なところで妥協して再就職する、という心理も当然ある
でしょう。企業の側も、急ぎの補充でなければ、例えば2月に中途採用を決め
たとしても、「失業給付は何月まで出ますか?5月まで?じゃあ、6月から来
てください」などと、便宜?をはかっている実態すらあるのです。
 雇用失業情勢が悪化を始めて以来、「雇用対策として、失業給付の受給期間
を延長すべきだ」という意見は、根強く主張されてきました。一方で、失業率
の高まりを背景に受給者数が増え続けていることや、受給者の高齢化で単価が
上昇していることなどもあって、雇用保険の会計が持たないという現実もあり、
今年の4月には、保険料の引き上げと、「本当に支援が必要な中高年の非自発
的労働者」については給付期間を延長する一方、定年退職者などを中心に給付
期間を短縮することを主な内容とする改正雇用保険法が施行されました。これ
で一応、失業給付延長の議論は一段落していました。
 ところが、小泉政権の発足と、不良債権最終処理の集中的な実施という方針
が示されたことなどにより、雇用対策の重要性がさらに声高に主張されるよう
になり、またぞろこの説が復活してきました。さる5日のnhk「日曜討論」
で竹中平蔵経済財政担当相が「選択肢の一つ」として言及したことで、にわか
に現実味を帯びたものとして再浮上しています。厚生労働省は「予算措置、立
法措置がともなうため現時点では無理」という姿勢ですが、「財源がない」と
いう点に関しては、リクルートワークス研究所が、一般財源を分離して2兆円
程度の基金を作るという案を示しています(ちなみに、連合も、「雇用保険安
定」のための基金として一般財源から2兆円の分離を主張しています)。「法
改正の手間がかかる」という主張に対しては、日本総研が「現行の給付延長制
度の発動要件を緩和すれば政省令の改正だけで可能」と指摘しています。与党
の政治家の中には「最長4年」と言う人も出てきているということで、さすが
に4年は無茶としても、延長に向けての環境整備は進みつつあるようです。
 こうした中で、厚生労働省の反対論の根拠は、最初に書いたような実態をふ
まえた、「結局は失業給付が切れる時まで再就職が延期されるだけのことであ
り、無意味」ということに集約されつつあるようです。もちろんこれは、再就
職をかえって妨げるという弊害に加えて、失業が長期化することで、技能の劣
化や意欲の低下といった人的資本の損失が発生するという弊害もふまえている
でしょう。
 これに対しても一応反論はありますが、これはなかなか判断の難しい議論で
す。たとえば、「失業給付が切れるまで再就職しない」という意見に対しては、
「今後、さらに雇用失業情勢が悪化すれば、そんなことは言っていられなくな
り、再就職できる時点で再就職せざるを得なくなる」という反論があります。
また、延長された期間以降は、職安のあっせんする仕事を断ったら支給を打ち
切る、などの技術論で対処可能という説もあります。「人的資本が劣化する」
という意見に対しては、「職業訓練の受講を義務づける」といった対応策が提
唱されています。
 私は、個人的には、失業給付を延長する財源があるのなら、それを使って公
的に雇用を増やす方が好ましいのではないかと思います。
 そもそも、失業給付というのは、「職探しをする間の所得保障」というのが
基本的な考え方であり、それが妥当だろうと思います。ですから、ある一定の
期間は、失業者が自由に職探しをできるようにするべきであり、また、職探し
が難しく、長期間かかる時期には、給付を延長するというのも一つの考え方で
あると思います。しかし、一方で、給付がある間は、どうしても条件のいい仕
事を探したいという動機が働くことも事実であり、これが失業期間の長期化と
それにともなう弊害に結びつくことは避け難いように思います。もちろん、一
定の期間は、所得保障をともなった、条件のいい仕事を探し選ぶ期間として確
保することは必要ですが、いずれはそこそこの条件の仕事で妥協せざるを得な
い時が来るのであれば、その時期をあまり遅らせない方が、弊害が少なくてす
むのではないかと思います。
 問題は、その「そこそこの条件の仕事」すら今は乏しいということですから、
であれば、公的にそうした仕事を作ればいいわけです。もちろん、必要のない
道路や橋を作って、先々までメンテナンスの経費がかかるなどというやり方は
最悪ですが、公的サービスには、まだまだ住民が必要としているだけのものを
提供しきれていないものがたくさんありますから、そういう分野で仕事を作れ
ばムダ使いにはなりません。
 同じおカネを使うなら、ただ失業者に渡してしまうよりは、見返りになんら
かの仕事をしてもらった方が、はるかに効率的だろうと思います。何より、実
際に仕事をしているのですから、技能の劣化や意欲の低下と言った問題が発生
する確率は、少なくとも働かずにいるよりは低いでしょうし、場合によっては
仕事を通じて何らかの技能を獲得できるかも知れません。失対事業化するのが
怖いということであれば、日経連が提言しているように、6ヵ月とかの有期雇
用にすれば良いのです。日経連の提言には、具体的な仕事の提案もたくさん示
されています。
 また、やはり同じおカネを使うなら、失業者ではなく企業に渡して、雇用を
増やしてもらうという方法もあるでしょう。たくさんはないかも知れませんが、
将来的には雇用を増やしたいとか、いい人がいれば採用したいとか思っている
企業はあるだろうと思います。普通の失業者ではすぐには使えないという問題
があるのであれば、ある程度まで育成するのに必要な期間、例えば1年間なら
1年間は、育成コストの分や戦力的に劣る分を助成金でカバーするわけです。
助成金の期間と合わせた有期雇用にしておいて、助成金が終わった時点で、使
えれば継続雇用、ダメならそこで雇用打ち切りということも可能にすれば、利
用する企業もかなりあるのではないでしょうか(打ち切りを繰り返す企業が出
てくるかも知れませんが、それでも失業させたままにしておくよりはるかにマ
シでしょう)。これは形態としては雇い入れ助成ということになりますが、実
態としては教育訓練助成と考えるわけです。何と言っても企業でのojtは効
率がいいですし、現実の仕事、雇用が目の前にあれば、働く人としても熱心か
つ集中的に取り組めるでしょう。失業給付の延長給付の引き換えに漫然と職業
訓練を受けるよりはるかに生きた使い道になるはずです。
 結論としては、私は失業給付を延長する財源があるのであれば、もっと効果
的な使い方があるのではないかという立場です。人間というものは、どうして
も、働かずにおカネが貰えるという状態がある程度続くと、働く気がどんどん
失せてきて、結局二度と働けないようになってしまうことが多いということを、
労務屋としての仕事を通じて繰り返し見てきました。それは働く人にとっても
不幸であり、国家経済にとっても損失だと思うのです。

          (8月13日、8月16日は、夏休みをいただきます。
                 次回は8月20日に配信する予定です)
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