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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年08月27日発行 通巻087号
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 中村修二氏と言えば、世界ではじめて青色lsdの開発に成功した技術者で
あり、その後米カリフォルニア大学サンタバーバラ校に転じたことで一躍ヒー
ローとなった人物ですが、その中村氏が、かつて勤務していた日亜化学(徳島
県阿南市)を相手取って、青色lsdの特許権を移転したことの対価として、
約20億円の支払いを求める訴訟を起こしたそうです。日亜化学は「当方に正
当性があると信じており、正々堂々と応訴する」との見解を示しています。
 企業の研究者が、職務上の発明について対価を求めて争うのは、特段珍しい
ことではありませんが、今回は有名人が絡んでいることや、金額も大きいこと、
また、日亜化学自体が極端な技術の囲い込み戦略を取っており、豊田合成やロ
ームなどと泥沼の訴訟合戦を争っているなどの事情も加わり、世間の関心を集
めそうです。
 基本的なところを確認しておきますと、特許法では、業務上の発明(職務発
明)についても、特許を受ける権利は発明者(従業員)にあるとされており、
企業はその通常実施権を得ることとなっています。ただし、あらかじめ就業規
則などで特許を受ける権利を会社が承継したり、会社が独占実施権を得ること
などを規定しておくことはできるとされており、多くの企業では、就業規則に、
業務上の発明などの無体財産権については会社に帰するという条項を入れてい
るかと思います。ただし、その場合、特許法は従業員に「相当の対価の支払を
受ける権利を有する」と定めていますので、その「相当の対価」というのが何
物か、というのが問題になるわけです。
 これについてもある程度は判例からガイドラインを推定できます。基本的に
は、対価について会社が就業規則などで一律・一方的に定めることはできない
と考えた方がいいようです。また、金額の算定に関しては、会社の設備や資金、
あるいはスタッフを使ったり、チームでの開発だった場合には他のメンバーの
貢献もあるなど、会社にも相当の貢献があるは考慮されるようですが、具体的
な算定の方法はそれぞれの事件で個別の判断になっています。また、対価を算
出するベースになる「それがなかった場合に比べてどれほど会社は儲かったか」
ということも、当然ながら技術だけで商売ができるわけではなく、それなりに
商品化や営業のコストも必要ですから、算定に非常な困難が伴います。
 過去の判例を見ると、請求額は当然ながら可能な限り会社の得た利益を大き
く見積もり、発明はほぼ100%発明者の貢献として計算しますので、やはり
億単位になることが多いようです(それにしても、今回の中村氏の20億円と
いうのは破格です)。また、会社の貢献というのは、さすがに幅広く認定され
ており、本人の貢献を40%とした判例もありますが、多くのケースでは本人
の貢献は数%〜20%というレベルにおさまっているようです。結果として、
億単位の請求に対して、判決はおおむね数百万年というところに落ち着いてい
るようです。
 訴訟になった事件は、さすがに業界においては画期的な技術ですので、まず
数百万円という対価の判断は実感に合う感じがしますが、こうした訴訟が起こ
るのは、かなり基礎的・先端的な技術開発まで企業が行うという日本企業の特
徴が反映されているように思います。先端分野では、いわゆる「当たる」確率
が低く、いくつもの研究プロジェクトにそれぞれかなりの資金を注ぎ込んで、
その中から一つでも二つでもモノになれば、という仕事が行われていますから、
仮に画期的な発明があったとしても、その研究者がそれを当て、他の研究者の
仕事は当たらなかったというのは、まさに「偶然」だとも言えるわけです。そ
ういう特徴をふまえて、日本企業の技術研究は、仮に失敗しても解雇されたり
減給されたりするわけでもなく、成功してもとりたてて大きな報酬を受けるわ
けでもないという「ローリスク・ローリターン」型の研究体制になっているわ
けです。この点は、主に基礎研究は大学が専ら担い、ある程度モノになりそう
な技術が出てきた時点で事業化されるのが一般的な米国と事情が異なります。
それを考えると、会社の貢献がある程度大きく評価されるのは妥当でしょう。
加えて、成功した人は昇進などで有利な扱いを受けることが多いわけで、それ
も考慮すれば対価はもっと小さくて良いくらいかも知れません。
 その一方で、現実に画期的な発明が出れば会社に大きな利益がもたらされる
ことは事実であり、こうした動きを先取りし、研究へのインセンティブを高め
るために、かなり高額の成功報酬を設定する企業も出てきました。ソニーは上
限2000万円、オムロンはなんと上限1億円の特別報酬制度を導入している
ほか、他にも追随する動きがあります。
 さて、今回の中村氏の場合は、出願時に1万円、成立時に1万円を受け取っ
ただけということですが、これはおそらく一般的な会社施策としての特許の奨
励金に過ぎず、「対価」という性質のものかどうかは疑問です。おそらくは、
中村氏は対価と判断せず、日亜化学は対価と考えている何らかのものが存在し
ているものと推測はされるのですが、詳細はわかりません。また、中村氏は開
発にあたってかなり自由奔放にやったと本人も言っており、こうしたことがど
れだけ考慮されるのかも興味深いところです。
 さらに、徳島大学は青色lsdの原料となる窒化ガリウムの研究では最先端
にあり、中村氏の発明に関しても同大学の酒井士郎教授が果たした役割は大き
いと言われています。いわば産学協働による研究成果であり、こうした点がど
のように考慮されるかも、大いに注目したいところです。
 いずれにしても、社会的注目度の高い事件になった場合、特に高額な支払い
の判決が出た場合には、追随して同様の訴訟を起こす技術者が続出する可能性
もあります。企業サイドも、オムロンなどで導入しているような特別報酬制度
を整備する必要性が高まってくるかも知れません。

                (次回は8月30日に配信する予定です)
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