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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年05月10日発行 通巻060号
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          <<< 社会的引きこもりと労働 >>>

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 「社会的引きこもり」の存在は、かなり以前から問題にされてきましたが、
これが世間の注目を集めるようになったのは、昨年新潟市で発生した少女監禁
事件からでしょうか。さらには、やはり昨年発生した西鉄バスのバスジャック
事件で、犯人の少年が引きこもりであり、インターネットの掲示板などで活発
に活動していたことがわかったことから、引きこもりは犯罪予備軍であり、イ
ンターネットはそれを助長するものだという、いささか短絡的な議論が先行し
ている感もあります。実際、インターネット上を検索すると、非常に多くのい
わゆる「引きこもり系サイト」が存在し、その掲示板をみれば、さまざまな思
いの吐露が書き込まれています。
 しかし、「社会的引きこもり」は、かなり以前から注目されていたにもかか
わらず、その実態はほとんど明らかになっていません。一説によれば、全国で
80万人から140万人にのぼると云われていますが、定義がはっきりしない
うえに、その性格上隠れがち・隠されがちなことから、実態を把握することが
非常に困難であることは想像にかたくないでしょう。
 それでも最近、厚生労働省と国立精神・神経センター精神保健研究所による
調査が全国の精神保健福祉センター56ヶ所を対象に行われ、その結果が発表
されました。それによれば、昨年4月からの半年間で、全国で599件の相談
があったということです。この数字の評価は難しいですが、普通に考えて精神
保健福祉センターというものの存在を意識したことのある人はあまり多くない
はずで、別の公的機関や、精神科医などに相談しているケースもかなりあるは
ずですから、現実に「相談」というアクションがとられているケースに限って
も、これをかなり上回る数になるものと思われます。事実、社団法人青少年健
康センターの調査によれば、昨年11月までに精神保健福祉センター50ヶ所、
保健所623ヶ所に6151件の相談が寄せられているということで、さらに、
相談もできずに悩んでいるケース、あるいは問題意識すら持っていないケース
は、もっと多いでしょう。
 今回の厚生労働省の調査では、引きこもりを「6ヵ月以上家族以外と交流し
ない」「中学生以上」「精神病でない」と定義していますが、現象として社会
と没交渉になっても、すべてが「社会的引きこもり」ではないということです。
引きこもりには大別して3つのケースが考えられ、ひとつは精神病のケースで、
これは他の徴候から判断できることが多く、また、最近ではよく効く抗精神薬
も開発されているので、病院で治せることも多いようです。ふたつめは単なる
怠け者のケースで、世間と関らないことに苦痛や罪悪感がありません。問題は、
このいずれでもないケースで、これがおおむね「引きこもり」と考えられるよ
うになっていくものと思われます。
 その内容を見てみますと、まず厚生労働省の調査によれば、72.5%が男
性で、男性の83%、女性の87%が30歳以下となっています。引きこもり
による問題点としては、33%が「社会参加できない以外の深刻な問題はない」
と答えていますが、15%が「家族への暴力」を上げており、一部に暴力的傾
向があることも否定できないようです。青少年健康センターの調査によれば、
引きこもりの期間は、26%は3年未満ということですが、10年以上の長期
にわたるケースも8%見られ、スパイラル的に長期化する傾向があるようです。
やや小規模な調査ですが、民間機関による別の調査結果を見ても、小中学生
(15歳以下)が41%、高校生以上の十代後半から二十代までをあわせると
53%、30歳以上が19%となっており、期間も、2年未満が42%、6年
以上が18%となっています。やはり、それぞれの調査で引きこもりの定義が
違うため、いちがいに比較はできないのですが、「若年に多い」「男性に多い」
「期間は長期化しがち」ということは云えそうに思われます。
 こうした「引きこもり」の増加(しているのかどうかは検証されていないの
ですが)は、従来「学校(教育)システム」や「家庭」との関係から論じられ
ることが多かったのですが、「労働」と結びつけて論じる論調も、このところ
目立つようになってきました。どんな論調かは容易に想像がつくと思いますの
で書きませんが、現実社会を見れば、世の中にはさまざまな仕事があり、ほと
んどの人はそれなりに自分に合った仕事を無難に勤めているわけですから、仕
事や働き方が悪いから引きこもりが起きるのだ、というのはあまり納得のでき
る主張ではありません。
 とはいえ、実際、引きこもりの人は、ふつうの意味で「働く」ということは
ほとんどできません。決められた時間どおりに勤めるということはまずできま
せんし、あなたの仕事はこれこれですから、いつまでにやってください、とい
うような働き方もできないようです。社会との関係が持てないわけですから、
当然と云えば当然です。ありがちな誤解として、引きこもりというのは怠けで
あり甘えであり、世間に放り出せば自然と気力が回復するはずだ、というのが
あるのですが、これは引きこもりを悪化させるばかりで、何の解決にもならな
いのだそうです。ある種の精神疾患においては、働くことが治療のためにも非
常に有効だということがあるそうですが、引きこもりに関してはダメなのだそ
うで、考えて見れば、社会とかかわれずに苦しんでいる人に社会のルールを押
し付けるのは無理に決まっています。引きこもりには、強制、押し付けという
のが非常によくないのだそうです。
 それではどうすれば良いかということですが、どうやら、時間をかけて、引
きこもりへの共感を持ちながら、徐々に進めて行くしかないということです。
労働、働くということは、引きこもりの原因でもなければ治療法でもなく、社
会復帰の目標である、ということなのでしょう。「ニュースタート」という引
きこもりを支援するnpoがありますが、そこでは、引きこもりの人を集めて
一定期間イタリヤ南部に移住し、農園でそれぞれのペースで働きながら生活す
ることで、徐々に社会との関りが持てるようにしていく、という活動に取り組
んでいて、成果をあげているそうです。当たり前のことですが、同じ引きこも
りどうしであれば、共感を持ちやすいわけで、このnpoでは、マンションの
一室に引きこもりの溜まり場を作っていて、そこには引きこもりの人も集まっ
てくるとのことです。そこで、そこに出てきた人に、このnpoの仕事を手伝
ってもらう、といった形で、徐々に働くということに慣らして行く、という方
法もあるといいます。最初は簡単な仕事を、できるだけやればいいから、やめ
たくなったらやめて帰っていいから、という形でやらせる。もちろん、それで
給料を払ったら大赤字ですから、基本はボランティアです。とはいえ、本人の
動機づけや、「働く」という形を整えるためには、何らかの給料を払った方が
いい場合もあるから、それについては例えばないしょで引きこもりの人の親に
お金を払ってもらい、それを給料だということにして本人に渡す、といったこ
ともやるそうです。こうして徐々に時間を決めたり、今日中にこれだけはやっ
てください、ということを決めたりしていく。もちろん途中で挫折する人もい
るそうですが、これで社会復帰に成功することも多いのだそうです。ちなみに
このnpoでは、「レンタルお姉さん・お兄さん」という活動にも取り組んで
いて、パーソナル・タッチでの引きこもりの支援もしているとのことで、その
中には自身も引きこもりの経験を持つ人も多いといいます。
 「社会的引きこもり」は例外的なケースではあります。しかし、ひとつの極
限に近い状態でもあるわけで、そこでは物事の本質に近いところが見えてくる
ことも事実でしょう。人間関係や動機づけ、さらには「労働」のかなり本質的
なところまで、日常の「仕事」にも通じる部分の多い話ではないかと思います。

                (次回は5月14日に配信する予定です)
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