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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年05月28日発行 通巻065号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 雇用システム改革より雇用創出が先だ >>> =================================== 5月25日に政府の「産業構造改革・雇用対策本部」の会合が開かれ、「新 市場・雇用創出に向けた重点プラン」(平沼赳夫経産相の名をとって「平沼プ ラン」と呼ぶようです)が提出されました。全部で15項目の政策課題が掲げ られていますので、雇用創出の部分を中心に考えてみたいと思います。 まず、新産業創出に向けたイノベーションシステムの構築・ベンチャー育成 ということで、イノベーションの基盤整備、戦略基盤・融合技術分野への重点 投入、開業創業倍増プログラム、健康市場の創出、女性が働き続けられる経済 社会基盤の構築、高齢者の就労促進と充実した消費生活の実現、環境・エネル ギーの成長エンジンへの転化、物流システムの再構築、都市生活環境の再生、 itによる新たな生活・社会システムの創造、npoの育成の11項目があげ られています。 基本的に、新市場、すなわち新たな需要が出てくれば、そこに新たな産業が 生まれ、雇用も創出されるというシナリオはもっともなものです。そういう意 味では、イノベーションを促進し、魅力的な新商品・サービスのもとになる画 期的な新技術が生み出されるような環境を整えようというのは、正攻法の取り 組みと云えます。問題は、環境を整えて本当にそういう新技術が出てくるかど うかで、これはわが国技術者陣に期待するしかありません。これまでもこうし た議論はずいぶん行なわれ、それなりに資源も投入されてきたわけですが、さ らに継続的な取り組みは必要でしょう。 それとは別に、潜在的な需要を顕在化するという発想もあり、健康市場のほ か、環境・エネルギーや、都市生活環境といったものがこれにあたりそうです。 こちらは、本当に消費者=国民がこうしたものにおカネを使うか、ということ にかかってくるわけですが、健康市場などは案外有望なのかも知れません。高 齢者の充実した消費生活というのもこれでしょう。具体策としてリバース・モ ーゲージや中古住宅市場の整備を上げているのも、将来不安が高齢者の消費を 抑制している現状においては適切であると思われます。 女性が働き続けられる、とか、高齢者の就労促進、というのが、どうして新 産業創出になるのかはわかりにくいのですが、女性の方の対策として、企業の 人事制度や労働慣行ではなく、保育サービスの強化などを重視していることは 正しい方向だと評価できます。その一方、高齢者の就労について、相変わらず 「なぜ年齢制限があるのか」「なぜ高齢者は雇用されにくいのか」という本質 論に踏み込まず、「募集の年齢制限の廃止」をすれば高齢者が雇用されるだろ う、という皮相な理解に止まっているのは残念です。 残りの4項目は、雇用システム改革とセーフティーネットの整備ということ で一括りにされています。 一つずつ見て行きますと、まず「多様な雇用形態の整備」として、終身雇用 を前提とする各種制度の見直し、となっています。必ずしも長期雇用にこだわ らず、柔軟で多様な働き方の選択肢を増やすことは、労使双方にとってメリッ トのあることであり、そういう意味では、年金や退職金などに見られる長期雇 用奨励的な制度はニュートラルなものに改める必要がありますし、長期雇用だ けが良質な雇用であるという硬直的な発想にもとづく規制は緩和・撤廃してい くことが必要でしょう。具体策としては有期雇用契約・裁量労働・労働者派遣 の三つの弾力化を上げていますが、まことに適切であると思われます。いずれ も実態は法規制を超えて進んでいるので、規制の見直しは急務です。 次に、「能力開発、外部技能形成システムの整備」となっています。生涯学 習が重要なのは今に始まったことではないと思うのですが、企業内での人材育 成は、企業・組織の成長が鈍化したことによるポスト詰まり・仕事詰まりの影 響で、従来のように大多数の従業員がふんだんに成長の機会を与えられるとい うわけにはいかなくなっています。したがって、企業内競争に負けて能力が伸 びる良いポストに恵まれなかった人たちは、捲土重来を期すためには自助努力 が不可欠になりますから、そのためには外部技能形成システムの必要性は高ま ってくるでしょう。とはいえ、ojtの効率の高さを考えれば、外部育成が主 流になるということはないでしょう。そこは勘違いしてほしくないものです。 三つめが「労働移動の円滑化」となっています。基本的には、新市場、新規 雇用がどんどん創出されて、人材需要が高まれば、自然と労働移動は発生する ものと思われますが、職業紹介機能の強化や年金のポータブル化などの施策は 実施するに越したことはありません。問題は、ここに「雇用の流動化に対応し た労働契約法制を検討する」という内容がさりげなく忍び込ませてあることで、 これが例えば有期雇用契約の一層の拡大や、該当する職種や勤務地などがなく なった場合には解雇を予定した、職種限定、勤務地限定の雇用契約などのルー ルづくりを意味しているのであれば大いに結構なのですが、期間の定めのない 雇用契約について、解雇を容易にしようという意図を含んでいるとしたら、こ れは大問題でしょう。「個別的労使紛争処理の円滑な推進」という内容も含ん でいることや、経産省のこれまでの動向を見ると、どうもそのような悪質な意 図を含んでいるように思われますが・・・。 四つめは「セーフティネットの整備」で、再就職支援、パートや派遣を念頭 においた失業給付や年金のあり方の検討、中小企業の金融対策となっています。 構造改革の過程では一時的な失業に対するリスクが高まる恐れがあるから、と いうわけですが、これで本当にセーフティなのかという基本的な疑問がありま すし、「一時的」というのが本当か、という根本的な問題もあります。少なく とも、「一時的」を担保するような施策がセットになっていなければ、まとも な提案とは言えないように思います。 「雇用システム改革とセーフティーネットの整備」4項目全般を見ての印象 は、内容的には適切なものも多いのですが、「いったい、これがどうして新市 場・雇用創出になるの?」という感じを強くうけます。確かに、雇用形態の多 様化は、ある程度雇用を拡大する効果はあります。しかし、それは所詮はワー クシェアリングに過ぎず、「新市場・雇用」というにはあまりにパワーが足り ません。他の3つも同じことで、能力開発関係の市場は大きくなる可能性があ りますが、しかしすでにかなり大きくなっていることも事実で、「新市場・雇 用創出」と力むところまではいかないでしょう。 要するに、この重点プランの重点?は前段の11項目、さらにはその中のい くつかにあると考えるのが妥当なように思います。それによって本当に「新市 場・雇用創出」が実現してきた場合には、確かに外部を利用した教育(それで も中心は内部ojtだと思いますが)や円滑な労働移動が必要になってくるか も知れませんし、場合によってはセーフティーネットも必要になるかも知れま せん。しかし、これらはすべて、「新市場・雇用」が出てきてからのちの話に なるはずです。 政府、経産省には、「雇用システム」などという瑣末で事後的なことにかか ずらわったり、「雇用の流動化に対応した労働契約法制を検討する」などと云 って国民の不安をあおったりせずに、まずは本質論である「新市場・雇用の創 出」に全力投球してほしいものです。労働需要がどんどん出てくれば、システ ム論など論じるまでもなく、労働移動も能力開発も進むということは、すでに 過去のわが国の実例で十二分に証明されているのですから。 (次回は5月31日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659 の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。その際は、「労務屋の労働雑感」からの転載・引 用であることと、まぐまぐのid(0000049801)の記載をお願いします。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |