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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年06月14日発行 通巻070号
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          <<< 「骨太の方針」を読んで >>>

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 この11日に、経済財政諮問会議の「今後の経済財政運営及び経済社会の構
造改革に関する基本方針」の素案が公表されました。最近たいへんな話題を呼
んでいる、いわゆる「骨太の方針」ですが、これを労務屋の観点から評価して
みたいと思います。
 全体的な印象としては、ちょっと逆説的になりますが、社会保障以外の労働
問題に関するまとまった記述がないことを、まずは高く評価したいと思います。
なぜならば、この方針で取り上げられている内容は、社会保障はもちろんのこ
と、公共投資の見直し、特定財源のあり方、地方の役割と財源、さらにはプラ
イマリーバランスの達成などの財政再建と、どれをとっても労働問題よりはる
かに大きな問題であり、かつ、早急に対処が必要であり、そして、大きな改善
効果が見込めるものばかりであり、これらに比べれば、労働問題ははるかに瑣
末なテーマだからです。もちろん、労働問題も重要な懸案であり、一層の改革
が必要な事項もありますが、それにしても、こうした大問題に比べれば、はる
かに改革の必要性が低いのではないでしょうか。これはもちろん、すでに民間
労使がそれぞれに改革に取り組んでいることも大きいと思います。
 具体的な記述に関しては、最初の基本方針の部分で、不良債権処理に伴って
転職することが求められる雇用者について、雇用機会の創出や雇用流動化に対
応した制度改革、セーフティーネットの拡充をうたっています。「雇用流動化
に対応した制度改革」の内容は、自己啓発支援、コミュニティ・カレッジ制、
職業資格制度や紹介予定派遣の規制緩和となっていて、これが「制度改革」だ
というのは、あまりにも「骨太」すぎて涙が出ますが、まあ実害はなさそうな
のでよしとしましょう。
 一方、七つの改革プログラムのうち「生活維新プログラム」には、「雇用に
関する『性・年齢による差別』の撤廃、バリアフリー化の推進により、女性・
高齢者が働きやすく暮らしやすい環境を整備する」などという未消化な議論が
いきなり提示されています。この表現はさすがに定年制の禁止まで想定してい
るのだと思いますが、45歳過ぎて衰えが見えてきたら容赦なくクビを飛ばさ
れ、その後は低賃金の仕事しかなく、死ぬまで食うためにボロボロになって働
くのが「高齢者が働きやすく暮らしやすい環境」だと考えているのでしょうか。
計画的な人生設計、そのための雇用と収入の安定、職業から引退、年金の接続
といった議論があまりにもないがしろになっているように思います。この部分
は、この方針の中で私が唯一強く抵抗を覚えた部分です。
 第1章に入って、不良債権処理にともなう雇用のセーフティーネットに関し
て、失業中の住宅ローン、教育費負担への配慮が提示されているのには感心し
ました。また、この章には、「労働市場の構造改革」ということで、全体で唯
一、多少まとまった労働問題への言及がありますが、内容的には自己啓発支援、
多様な就労形態、職業訓練・カウンセリング、性別や年齢にかかわらず働ける
環境の整備、そして女性の労働参加を支援するための保育所待機児童ゼロ作戦
といった内容になっています。「年齢にかかわらず」というのは気に入りませ
んが、ここは「高齢者に配慮した職場環境の改善」という意味に取れるのでま
ずまずだと思います。保育所についても、現行の保育のあり方を前提にしてい
る点は不満ですが、女性の就労促進対策として、企業の問題だけではなく、保
育の問題にも言及したことは好感がもてます。この他、別のところにも自己啓
発支援が出てきて、わざわざ「教育バウチャーを含む」と書いているのは不可
解ですが、全体としては第1章は労働に関してもうまく書けていると思います。
 第2章は社会資本整備で、公共事業の関係が中心ですが、労働に関連しては、
「雇用確保等のためには、重点を公共事業からより適切かつ効果的な政策(雇
用促進策等)へ移していくべきである」というくだりがあります。公共事業が
雇用対策として行われている、という批判をふまえたもので、それが事実であ
れば同感できるものです。実際、公共事業というのは土木工事が多く、総費用
に占める人件費の割合が低いので、直接的な雇用対策としてはあまり効果的で
はありません。なにもわざわざ(雇用促進策等)などとリキまなくても、もっ
とニーズのある公的サービス(警察や徴税など)に予算を振り向ければ、公共
事業よりはるかに雇用創出効果があるはずです。私は、雇用対策というのは公
共事業を呼び込むための方便という部分が強いのではないかと思っています。
 第3章は社会保障ですが、全体の中でももっとも量が多く、かつかなり踏み
込んだ記述も見られ、充実した内容になっています。個別には疑問の点もいく
つかありますが、全体としてはかなり良く書けているのではないでしょうか。
なお、話題の「社会保障個人会計」については、私は厚生労働相の意見に同感
する部分もかなりあります。もちろん、情報をきちんと知らしめることは大切
であり、基本的には個人勘定を明らかにするのもいいことだと思いますが、現
実にそれを見た被保険者が、個人単位での損得勘定に走ってしまうのはたしか
に心配です。保険事故がすべて悪いこととは限りませんが、例えば医療保険な
どは給付を受けない方が幸せだと思うのが常識的で、そういう意識がきちんと
出来ていないと弊害が大きくなりそうな気がします。
 第4章は国と地方の関係、第5章は政策決定プロセスで、どちらも具体的な
労働関連の記述はありません。第6章は来年度予算の編成の考え方を示す部分
で、この会議の本来の役割である部分ですが、ここはまだ具体的ではありませ
ん。最後に「雇用対策等」という一項もありますが、「等」がついているくら
いなので、他の項目よりは軽い位置づけなのでしょう。具体的なことは書いて
ないので何とも云えないのですが、扱いとしては、最初にも書いたとおり、い
い加減のバランス感覚ではないかと思います。
 全体を通じて見て、序論の部分と、第1章以下の各論の部分との格差が大き
いのが気になります。これだけのボリュームの文章ですから、おそらく何人か
で分担して書いているのだと思いますが、それにしても序論と各論の平仄があ
わないところが多すぎます(労働問題に限らず)。全般に序論の方が大胆で刺
激的な書きぶりですが、例えば「コミュニティ・カレッジ制」の「制」とはど
ういう意味合いなのだろうか?といったように、雑な部分も目立ちます。まあ、
素案でもあり、多少のことは致し方ないと思うのですが、これだけ高い位置づ
けを持ち、世間の関心も高いものにしては、いささかお粗末であるように感じ
ます。
 もう一点気になったのは、敢えて「失業」という言葉を避けているように見
えることです。実際、これだけ長い文章で、不良債権処理や労働市場改革にも
言及しているにもかかわらず、「失業」の語は2回しか出てきません。その一
方で、「転職することが求められる労働者」や「離職者・転職者」などという
表現が使われています。再就職先が決まらずに離職すれば、引退するのでない
限りは失業者になるというのが言葉の普通の意味でしょう(これが「労働力調
査の調査週において仕事がなく、就労意欲と能力があり、求職活動を行った」
という条件に一致すると「完全失業者」となる)。「失業なき労働移動をめざ
す」という理想のために「失業」という言葉を避けているのであれば、その志
は立派なものだと思いますが、単に「いずれは再就職させるのだから、失業と
云わなくてもいいじゃないか」という姑息な発想だとすれば、この方針全体も
それなりのものだということなのでしょうか。

  (6月18日は、都合によりお休みをいただきます。申し訳ありません。
                 次回は6月21日に配信する予定です)
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