|
=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年08月20日発行 通巻085号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 人材ビジネス業者のモラルハザード >>> =================================== 書類を整理していたら、旧労働省がit関連企業や人材ビジネス企業からヒ ヤリングした結果の資料が出てきました。生の声をそのままダイジェストした ような感じでなかなか面白い資料です。 めぼしいところを拾ってみますと、人材紹介業者は「it技術者が不足」 「5年も10年もかけて人を育てているヒマはない」「大企業の人はロイヤリ ティはあるがいわれたことしかできない。皿洗いかレジくらいしか仕事がない」 などと言っています。需要側のit関連企業も、「itはスピードが大事、即 戦力確保が必要」「経験者がどこにもいない。人材確保はとても困難」「大企 業の人は『考える力』がなく、採っても使えない」などと言っており、符丁は 合っているようです。さらっと読むと、なるほどなあ、という印象ですが、少 し考えてみると、何か違うんじゃないか?という気がしてきます。 話は変わりますが、人材ビジネス大手のザ・アール社長の奥谷礼子女史が、総合規制改革会議の委員になっており、人材(労働)分野を担当しています。 その内容を見ると、「構造改革論」が、みごとなまでに自分の会社、業界へ の利益誘導になっていることに気づきます。たしかに、人材ビジネスのような 「成長産業」に利益誘導するというのも、「構造改革」のひとつの本質ではあ るのだろうと思います。 具体論を見ると、民間有料職業紹介や人材派遣の規制の一層の緩和・撤廃や、 裁量労働制の解禁、派遣労働者への社会保険適用などは、もちろん必要な取り 組みであり、まことに重要なポイントでもあるので、ぜひとも推進に向けての リーダーシップを強力に発揮してほしいと思います。 いっぽうで、これが解雇法制の検討(規制緩和)となると、これはいかがな ものかという感じがしてきます。確かに、派遣業者としては、企業がどんどん 正社員を解雇して派遣に置き換えてくれれば、大いに儲かるでしょう。解雇が 増えれば転職も増えますので、職業紹介業者のマーケットも拡大するでしょう。 人材ビジネスにとっては労働市場をどれだけの人材が流通しているかが決定的 に重要ですから、解雇も採用もじゃんじゃんやってほしいということになるの はよくわかります。奥谷女史は、ごていねいに、解雇トラブルの多発に備えて 「一年結審の簡易労働裁判所」の設置まで提案してくれています。もちろん、 利益誘導がすべて悪いというわけではありませんし、人材ビジネスだけではな く、余剰人員に悩む企業にとってもけっこうな話ではないか、という考えもあ るでしょう。 しかし、私は奥谷女史がこうした規制緩和を主張することには抵抗感を覚え ざるを得ません。私は、解雇ルールの明文化はともかく、解雇規制の緩和はそ れ自体勤労者の権利とのバランスを失すると考えていますし、安易な解雇は企 業にとっても少なくとも中長期的にはマイナスであると考えていますが、そう した議論以前の問題として、抵抗感があるのです。 その理由が、最初に書いた人材ビジネス業者の意識です。たとえば彼らは、 大企業の人は転職先がないと言って憤ります。しかし、それは売れないのを商 品力がないせいだと決め付けてマーケティングの改善に努力しない企業と同じ ことです。転職が難しい人を転職させるのが、手数料を得るプロフェッショナ ルというものではないでしょうか。一方で、彼らはit技術者が足りないと言 って嘆きます。しかし、it技術者はひとりもいないというわけではありませ ん。実態として、it技術者はなにも人材ビジネス業者など頼らなくても容易 に有利な転職が可能であり、人材ビジネス業者は「中抜き」されているわけで す。買い手がいくらでもいる状態で買い手をみつけてくれたところで、それが 手数料を払うほどのエクスパティーズであるとは誰も考えないでしょう。もち ろん、ザ・アールのように、ニーズに応じた人材育成などの努力を熱心に行っ ている人材ビジネス業者も多いでしょう。しかし、最初に書いた労働省の資料 を見ると、人材ビジネスの相当割合は、まだまだそういう水準に達していると は思えません。みずからの企業努力不足を棚に上げて、行政に対して利益誘導 を求めるというのは、実は、奥谷女史らが非難する「規制に保護されて生き延 びている産業・企業」と同じ構造の発想ではないでしょうか。 大企業の社員は、そのままではたしかに「使えない」かも知れません。しか し、一応は大企業の社員ならば、それなりに潜在能力は持っているはずだと考 えるのが普通でしょう。そうした人すら再就職先を見つけられない人材ビジネ ス業者が、「解雇の規制緩和」で解雇された人たちを本当に再就職させること ができるのでしょうか。「皿洗いかレジしかない」などというような安価(低 賃金)のあっせんであれば、ハローワークがあれば十分であり、とても手数料 を取れるようなビジネスにはならないのです。 労働市場の機能強化は重要な課題であり、そのために民間の活力を生かすと いう方向性も間違っていないと思います。そういう意味でも、紹介業や派遣業 の規制緩和は必要です。しかし、政策的に市場を拡大して儲けさせてやるとい うことは、必ずしも機能強化にはつながりません。むしろ、政策的には保護政 策に近いものであり、機能弱化につながりかねないものではないかと思います。 (次回は8月23日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |