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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年06月04日発行 通巻067号
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           <<< 国鉄民営化に学ぼう >>>

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5月25日に、政府の「産業構造改革・雇用対策本部」の会議が開かれ、雇
用創出などについて議論が行なわれたとのことです。
 目下最大の労働関係マターである不良債権の最終処理にともなう雇用問題に
ついては、検討項目の中に「不良債権処理に関係する業界との連携による労働
移動の円滑化」というのが織り込まれています。これに関しては、扇国土交通
相が、会議で「不良債権処理で影響が大きく出るのは国土交通相関係であるが、
都市再生の中で、かなり再雇用ができるのではないか」と発言したそうです。
 確かに、例えば建設業や運輸業などから失業者が出た場合には、類似の仕事
が多いと思われる都市再生事業の中に仕事があれば、非常に円滑な再就職が進
むものと思われます。もちろん、かなりの広域移動が必要になる可能性が高い
わけですが、それには何らかの助成などの形で支援が可能です。特に、竹中経
済財政担当相が言及したように、不良債権処理にともなう失業者が30万人程
度に止まるのであれば、扇国土交通相の言うような形で、計画的に再就職を進
めることは、最善の選択になると思われます。経済財政諮問会議の「専門調査
会」が主張する「労働市場のバンピングによる調整」に比べて、はるかに現実
的と言えるでしょう。
 構造改革というのが、またしても流行語になっていますが、比較的最近、わ
が国で断行され、成功を収めた大きな構造改革として、三公社の民営化を上げ
ることには、大方の賛同を得られるものと思います。国鉄は再生し、nttは
今や最先端企業の感があります。jtもバイオに活路を見出し、最近では缶コ
ーヒーがヒット商品になっています。三公社の民営化、特に国鉄の民営化は、
わが国が外圧や海外の力に頼らず、国民の総意のもとに独力で成し遂げた成果
であり、大いに誇りとすべきものであり、また、その経験に学ぶべきものであ
ると思います。
 今回の不良債権処理にともなう雇用問題も、その対処のモデルケースとなる
のは、国鉄民営化にともなう雇用対策であると思います。
 国鉄民営化の際の再建計画では、民営化時に人員27万6000人を21万
5千人に減らし、さらに民営化後の自然減によって18万3000人まで減ら
す、というものだったようです。したがって、27万6000人と21万5千
人の差である6万1000人に対する雇用対策が必要となりました。
 この雇用対策の最大の特徴が、政府が「国鉄民営化によって、一人の職員も
路頭に迷わせない」という強い方針を明確に示したことです。これによって、
政府が責任を持って雇用対策を推進するということになりました。
 その内訳として、当初の計画では、公的部門で3万人、民間企業で1万人、
そして残りの2万1千人が国鉄関連企業というスキームが作られました。その
うち民間企業を中心として2万人は、割増退職金を支給する希望退職を募集し、
残りは退職金や年金を通算し、民間企業で言えば転籍出向のような形をとるこ
とになりました。すなわち、希望退職と言っても、現在世間で行われている希
望退職のように、やめたあとは自分で頑張ってね、というのではなく、国鉄が
再就職先をあっせんしたわけです。当然、職種が変わったり、賃金が下がった
りすることはありました。
 最終的には、3万9000人が希望退職していますが、うち1万6000人
は再就職のあっせんを受けず、自力で地元に転職先を探したり、家業を継いだ
り、あるいはなかば引退して農業に専念したりするという形で退職しています。
残り2万3000人は、民間企業を中心に、国鉄の斡旋で再就職しました。
 さらに、公的部門では、警察庁に3000人、気象庁に600人、国税庁に
600人など、中央・地方あわせて2万5000人が、国鉄関連企業には1万
2000人が再就職しています。
 もう一つの問題が、地域別のミスマッチで、東日本・東海・西日本では、ほ
ぼjrでの継続雇用希望者は全員継続雇用が可能となり、さらに採用枠が残っ
たのに対し、北海道、四国、九州では、かなりの人が余っていました。これは、
事前のシミュレーションの時点で明らかだったので、まずは三島から本州各社
への、さらには本州内でも東北や山陰などから都市部への広域異動が、数次に
わたって計画的に実施され、民営化以前に約3000人が異動していました。
そのため、民営化時には多数の異動は難しく、最終的に、北海道・九州を中心
に、転居が困難なために就職先が決まらずに国鉄清算事業団に残る人が数千人
出ることになりました。「誰一人として路頭に迷わせない」という目標は完遂
されたとは言えませんが、転居すれば再就職は可能、というところまでやった
わけなので、まずは十分合格点の出せるすばらしい雇用対策であったと言える
と思います。
 この経験から学ぶべき点は多いように思います。まず第一に、政府自らが
「誰一人として路頭に迷わせない」という決意を示し、責任を明らかにしたこ
とがあります。特に、最初に決まった警察庁への再就職は、時の中曽根首相と
後藤田総務庁長官の決断によるトップダウンであり、これによってその後次々
と再就職受け入れが決まっていったという経緯は示唆に富んでいます。
 第二に、公的部門で相当数を受け入れたことです。しょせん、民間企業は基
本的に営利であり、不要な人間を受け入れることはできませんし、必要な人を
受けるにしても限界があります。民間の力の足りない部分は行政が支援すると
いう考え方は自然なものです。
 第三に、金銭の給付や職業訓練という形でお茶を濁さず、最後の再就職まで
しっかり面倒を見たことです。これは、多少のカネや職業訓練では「路頭に迷
わさない」ということにはならないということにほかならず、特に、自力で再
就職先を見つけるのが困難な条件においては重要なことと思われます。
 第四に、雇用対策の対象者のサイドでも、「誰一人路頭に迷わせない」とい
う方針に協力し、再就職にともなう職種や労働条件の変更、あるいは勤務地の
変更といった痛みを負担していることです。さらに、jrに再雇用された人も、
再雇用後には、事実上の労働条件ダウンに応じていることや、小集団活動への
協力や営業ノルマの設定などを受け入れていることも忘れることはできません。
 これらはすべて、目前にある不良債権処理にともなう雇用対策の優れたモデ
ルケースとして、大いに参考とすべきものと言えます。もちろん、当時と現在
では環境・背景も違いますし、雇用対策の規模も、今回の方が大規模になる可
能性が高いものと思われます。その一方で、当時の国鉄は労使関係が極めて悪
く、現場のモラルも低かったことや、賃金水準もかなり低いものであったこと
など、当時の方が条件が悪かったこともたくさんあります。
 実際、経済が不振であることは、再就職先を見つけることが困難であるとい
うことであり、本気で雇用対策をやる気なら、公的部門での受け入れや、「失
業給付の延長と職業訓練」などに逃げずに再就職まできちんと対策することは
むしろ積極的に取り組むべきことであると云えるでしょう。あるいは、雇用対
策の対象者が多いということは、より一層、多数の対象者をいかに円滑に再雇
用させるかという計画性が必要だということになるでしょう。
 そして、最も重要なのは、政府のトップが強い意志を持ち、行政府が一丸と
なってこれに取り組むという決意を固めることです。この点において、小泉首
相以下は、いささかの逃げるところもなく、当時の中曽根首相、後藤田総務庁
長官のような力を発揮することができるかどうか。
 その一点に、不良債権の最終処理という難局を乗り切ることができるかどう
かがかかっていると言っても過言ではないでしょう。

                 (次回は6月7日に配信する予定です)
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