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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年07月26日発行 通巻080号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 松下はどこへ行く >>> =================================== 松下電器が最近おかしいように感じます。 もともと、人事・労務の世界では、電機産業はもっとも先進的です。その中 でも、松下はソニーや富士通と並んで最先端を進んでおり、とりわけ松下は、 創業者である松下幸之助の経営理念を求心力として、退職金前払制度の導入に 代表される、大胆でありながら働く人のモラルや意欲への配慮を尽くした人事 改革を推進しており、間違いなくわが国人事労務管理の代表的先進事例である と評価されてきました。 昨年も、採用直結型のインターンシップ制度を導入したり、事実上希望者全 員を対象に65歳までの継続雇用制度を実現する一方で、全国一律だった労働 条件・賃金制度を、各地方の生計費の実態をふまえた地域別の制度に改め、地 方の事業所では2割にもおよぶ賃金の切り下げを断行するなど、まさに大胆か つ配慮を欠かさぬ改革を進めています。 ところが、最近になって、ちょっと動きがふらついてきた感じがあります。 今月に入ってからも、この14日には、松下本体をはじめ、松下通信工業、松 下電子部品、松下電池工業、松下産業機器のグループ主要4社でも希望退職の 募集を行うことを発表しました。人数は決めていないとされていますが、一説 によれば1000人とも2000人とも噂は飛び交っているとのことです。 また、先月末には、やはり松下とグループ主要4社の幹部社員を対象とした、 夏賞与で自社製品の購入を奨励する「バイ・ナショナル/パナソニック運動」 も話題になりました。松下はこれ自体「例年のこと」で「義務ではない」とし ていますが、「8月中に1人20万円以上」と具体的な期間と金額が決められ、 しかも役職によってはさらに高い金額が設定されているなど、「義務ではない が、幹部社員なのだから、限りなく強制に近い」というのが実態ということの ようです。 こうした動きの背景には、もちろん、業績の悪化があります。松下は主力の 家電製品の売り上げが、安価な海外メーカー商品の流入や量販店に主導された 値下げ競争の激化によって伸び悩んでおり、先月末には、「量販店への製品出 荷をさせないよう卸売業者に圧力を掛けた」として、公正取引委員会の排除勧 告を受け、この16日には国土交通省から1ヵ月間の指名停止処分を受けると いう事態も発生しています。それに加えて、半導体関連もit関連需要の後退 で不振に陥っており、直近の四半期決算が赤字に転落し、さらに9月期でも単 独営業赤字への転落が見込まれています。この16日には、r&iが松下の長 期債格付けをトリプルaから引き下げる方向であると発表しています。14日 の希望退職募集の発表が、これと符丁が合い過ぎていると見るのは勘ぐり過ぎ でしょうが。 松下はこれまでも、「発展2000年計画」と銘打って経営改革に取り組んでお り、今年からはさらに「創生21計画」をスタートさせているとのことです。 ところが、営業赤字は上場以来初めてということですから、たしかに環境悪化 もあったとはいえ、改革が進むにしたがって状況はますます悪くなるという皮 肉な結果になっています。 私が特に驚いたのは、「創生21計画」の最後に掲げられた企業風土革新プ ログラムの中に、「女性かがやき本部の設置」「若手社員との意見交換の場 『わくわく・ワ〜ク』」がふくまれていることです(しかも、数多くの中の二 つではなく、三つのうちの二つです。ちなみに残りの一つは「スピンアップ制 度」という社内ベンチャー制度)。まずなにより、「女性かがやき本部」とい うネーミングは、共同参画や機会均等という基本理念に本気で立脚している感 じがおよそしません。この感じの説明は難しいのですが、これまでの松下らし くないのです。さらに、「わくわく・ワ〜ク」というのは、「経営責任者と次 代を担う若い社員や志の高い人とのダイレクトなコミュニケーションを行ない、 風通しの良い、自由闊達な風土の醸成を図る」とうたわれているのですが、 「経営責任者とのダイレクトなコミュニケーション」なるものがあろうがなか ろうが、こうした風土ができていることが松下の良さであり、われわれ市井の 労務屋がうらやむところだったはずです。仮にそうした良さが失われつつある という危機感があるとしても、経営トップとコミュニケーションすれば、若手 や志の高い人(?)が「わくわく」して「ワーク」が「ワ〜ク」になるという 短絡的な発想が、全然松下らしくないのです。確かに、経営トップに直接声を かけられれば、誰しもモラルアップするでしょう。しかし、それで風通しがよ くなるとか、自由闊達になるというのは経営トップの思い込みに過ぎません。 余計なお世話ではありますが、松下は本当にちょっとピンチなのかも知れま せん。そう感じる理由は他にもあります。今回の「創生21計画」が、幸之助 以来の伝統ある事業部制を廃止する内容になっていることも注目されましたが、 これに限らず、これまで求心力となってきた松下の経営理念が、どんどん後退 しています。松下幸之助から伝わるその経営理念はまことにすばらしいもので あり、先刻ご承知の方も多いとは思いますが、ここで一部ご紹介させていただ きますと、 綱領「産業人タルノ本分ニ徹シ/社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ/世界文化ノ 進展ニ/寄与センコトヲ期ス」 信条「向上発展ハ各員ノ和親協力ヲ得ルニ非サレハ得難シ/各員至誠ヲ旨ト シ一致団結社務ニ服スルコト」 遵奉すべき精神「産業報国の精神/公明正大の精神/和親一致の精神/力闘 向上の精神/礼節謙譲の精神/順応同化の精神/感謝報恩の精神」 このようなものです。これが今、たとえば松下の企業サイトを見ても、綱領 だけが基本理念のページで紹介されているだけで、信条や「七精神」はすでに 社史のひとこまという扱いになってしまっています(子会社などのサイトでは 生き残っていますが)。アメリカ帰りの現社長の目にはいかにも古風なものに 写ったのかも知れませんが、こうした基本理念というものは企業のバックボー ンとして、言葉としては意識されなくとも、風土として定着し継承されている ものです。それを後退させることは人事労務管理のうえでも悪影響を懸念せざ るを得ません。 松下の希望退職ですが、最大で50ヵ月という割増退職金、最長3ヵ月の特 別休暇が設定されていてかなり手厚いものになっています。さらに注意が必要 なのは、世間ではほとんど注目されていませんが、「希望する社員には求人情 報の提供を行う」としているところです。これは要するに、自分で転職先を見 つけたり、この際引退したりする人以外には、会社が再就職を斡旋するという ことでしょう。そうなると、実態としては、ある程度の労働条件の低下などが あるだろうことを除けば、いわゆる転籍出向に近いものであると言えるかも知 れません。こうした点に注目すれば、案外従来の松下らしさが生きていると言 えなくもないわけで、まことに他人事で余計なお世話ではありますが、これま でわが国人事労務管理の先頭を切ってきた松下がこれからどちらに進むのか、 期待心配相半ばといったところです。 (次回は7月30日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |