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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年03月01日発行 通巻041号
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          <<< ものつくり大学への期待 >>>

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 ksd事件のせいで、すっかりイメージダウンしてしまった感のある「もの
つくり大学」ですが、それまではそのユニークな建学の趣旨が歓迎されて、大
学入試模試の偏差値でも50台の後半と、新設校としては異例の検討を見せて
いました。今年4月の開学に向けて、あとはb日程入試を残すのみとなったわ
けですが、有為の青年が集まることを期待したいものです。
 この「ものつくり大学」ですが、これからの製造業を支える高度な技能者を
育成することを趣旨としています。単なる高度技能ではなく、「技能工芸」と
いう新たな概念を導入し、技能性、科学性、技術性および経済性、ひいては芸
術性、環境性をも兼ね備えたものづくりの技能を追求しようとのことで、この
ような高度の技能技術を追究する専門職業人を「テクノロジスト」と呼ぶとい
うことです。この「テクノロジスト」という語は、世界的に著名な経営学者で
あるp.ドラッカーの命名によるとか。
 最近、it革命やら、グローバリゼーションやら、あるいは貸し渋りやらで、
わが国の中小企業はなにかと旗色が悪いようですが、高度な技術、技能を持つ
中小企業が多数集積していることがわが国の経済を支える大きな礎石の一つで
あることは論を待ちません。半導体のプリント基板の超細密な配線を焼き付け
るステッパーという設備は、ニコンやキヤノンなどの日本メーカーが世界市場
を独占していますが、それに用いられる超軽量・高精度なフレームは、実は川
口市の従業員100人の鋳物工場で作っている、などということはとりたてて
珍しくないわけです。そこでは、優れた技術に加えて、きわめて高度に熟練し
た熟練工の職人芸が存在するわけですが、このような技能者が現に減りつつあ
り、その養成が急務であるというのが、ものつくり大学が設立された基本的な
問題意識であるわけです。
 これに対しては、「熟練工、職人は大学で養成できるものではない」という
非常に有力な批判があります。「職人芸のような高度な熟練技能は、徒弟奉公
的に長期間をかけて学ばなければ身につかない」というわけです。確かに、大
学の4年という修学期間は、熟練を形成するのに決して十分な長さではありま
せん。まあ、大学ですから、修士、博士と課程を作ることはできますが、それ
でさらに熟練技能を形成するというのが、「大学」という制度になじまないの
ではないか、というわけです。まことに一理ある意見だと思います。
 とはいえ、そう云っているだけでは熟練技能者の減少を止めることはできま
せん。どうして熟練技能者が減少しているのかということを考えれば、ものつ
くり大学が必要とされる理由も見えてくると思います。
 たしかに、徒弟制度は熟練技能を形成するのに優れたしくみでありましょう。
私はそれまで否定するつもりはありません。しかし、徒弟制度の前近代性、不
自由きわまりない上下関係といったものは、間違いなく後継者が増えない要因
になっていることも事実でしょう。長期間を要することは致し方ないにしても、
教え方・学び方はもっとスマートであってもそんなに効率を損なうことはない
はずです。また、「いくら頭でわかっても、手でできなければ仕方がない」と
いうのは不変の真実であるにしても、現場での修練に加えて、それなりの科学
的・理論的な背景や根拠を理解しておくことは、とりわけ技術と技能の融合が
進んでいくこれからの時代において、決して無意味ではなく、むしろ有意義な
ことでしょう。もちろん、こうしたことの多くは、これまでの徒弟制度の中で
も、経験を通じて暗黙知的に獲得されていたに違いありません。とはいえ、こ
れは「大学」という制度の中で教えるにふさわしいものでもあると考えます。
 要するに、ものつくり大学の4年間で、熟練工や職人をつくることはできな
いでしょうが、いずれ長い時間をかけて熟練工や職人となっていく上で有益な、
一種のリベラル・アーツのようなものを、現場での実技と並行して教え、学ぶ
という意味では、大いに意義があるものと思います。そうした人材が、卒業後
に長期の研鑚を積むことで、「科学性、技術性および経済性、ひいては芸術性、
環境性をも兼ね備えた」新しいタイプの技能者として育っていくのだと思いま
す。そして、こうした人たちが指導者となって後進を育てる時代になってはじ
めて、徒弟制度に代わる新たな職人養成のしくみが出来上がってくるのだろう
と思います。
 そしてもう一つ、私がものつくり大学に大きな期待を寄せている点は、技能
者、職人に、「学士」という地位を与えるということです。
 技能者が減少しているというのは、実にその社会的地位の低さによるところ
が大きいのではないか、というのが私の考えです。最近でこそ、「職人」をめ
ざす若者が増えていることは事実であり、それは昨今の雇用情勢の悪化を背景
に、「手に職」が必要だという意識が高まっていることによるものでしょう。
ものつくり大学の当初の人気も、それを背景にしていると思われます。これは
たいへんけっこうなことだと思います。
 とは云え、まだまだ全体的には技能者の社会的地位が低いことは事実であり、
その社会における重要な役割、必要性に比べて、著しく不十分なのが実情では
ないかと思います。長期にわたる訓練によって高い技能を獲得した人、あるい
はこれからそれに挑もうという人には、それにふさわしい高い評価が与えられ
ることは、ぜひとも必要であると思います。それは決して「学士」という称号
に値しないものではないはずです。「大学卒の技能者」が現場の指導者として
敬意を受けるようになれば、技能者を見下すような風潮もだんだんなくなって
くるのではないかと期待しています。
 このところ、大した勉強もせずに大学を卒業し、大した仕事もできないのに
技能労働に従事する人を軽視するような若者が増えているような気がしてなり
ません。こうした不埒な若者が、地道に現場で働いてきた親に養ってもらって
いたり、黙々とものづくりに励んでいる別の若者が支払った雇用保険料で失業
給付を受けていたりするのは、およそ望ましい社会であるとは思えません。も
のつくり大学には、こうした社会の歪みを是正する先導役を果たして欲しいも
のだと強く期待しています。ksdの問題はかえずがえすも残念ですが、ks
dとは絶縁してスタートするとのことですから、この逆風をぜひとも克服して
ほしいと思います。
                 (次回は3月5日に配信する予定です)

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