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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年03月12日発行 通巻044号
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 連合の今季春季生活闘争の闘争方針では、来週水曜日が金属業種の集中回答
指定日となっており、いささか盛り上がりに欠く今年の春闘も、いよいよ最初
かつ最大の山場に向かって佳境に入ってきているようです。自動車、電機など
の水準についても個別報道が見かけられるようになってきました。
 そんな中で、ゴーン社長のもと、「リバイバルプラン」で再起をめざす日産
自動車は、先週火曜日の団体交渉で、賞与要求に対して「満額」という回答を
出してしまったようです。一週間のフライングということで、労組もさぞかし
戸惑ったでしょうが、これも「多様化春闘」のひとつの現われと言えば言える
のかもしれません。
 これについては、日産自動車の広報から正式のプレスリリースも出ています
が、なぜことさらに早く回答したのかについての言及はありません。報道によ
れば、「会社が決めたことは早く従業員に伝えた方が良いから」ということら
しいのですが、いくら満額回答だからと云って回答日前に回答するというのは
妙な話のように思われます。
 「財界労務部」日経連も、「総額人件費管理の徹底」を強調していますが、
企業にしてみれば、賃金も賞与も経営指標としては同じ人件費になるわけで、
春闘についても「今回結局いくら人件費が増えるのか」という、セットでの判
断にならざるを得ないはずです。実際、日産自動車の発表を見ても、「(組合
の要求通り)新基準内賃金の5.2ヶ月分を支給する。(金額は3月14日に
開催する団体交渉の場で回答する予定)」となっています。5.2ヶ月分とい
うのは賃上げした後の5.2ヶ月分なので、賃上げの回答が出る前では、結局
具体的にいくらになるのか決まらないわけです。これは企業の人件費管理とし
てはいささかずさんな話のように思われます。
 また、似たようなことですが、交渉ごとである以上は、経営側が「賞与は出
すから、賃上げはかんべんしてくれ」とか、組合側が「いやいや、賞与は譲る
から、賃上げを少しでも積んで欲しい」とか、バーターの取引、合わせ技とい
うのも当然ありのはずです。少なくとも、賞与について満額回答を先に出して
しまうと、労組にとっては残りの期間を賃上げに集中できるわけですから、経
営側の交渉戦術としては得策ではないはずです。
 あるいは、これを逆手にとって、「賞与満額」を先に公開することで、労組
が賃上げの積み上げを要求するバーターの材料を封印することで、ベアを抑制
するという交渉戦術なのかも知れません。
 事実、日産自動車は、この中間決算では過去10年で最高の収益を計上する
など、業績が急回復しており、組合もその配分を強く主張しています。業績の
回復については、経営側も、今回のプレスリリースに「過去に例を見ないほど
の従業員一人一人の努力によるものであると認識している」とあるとおり、一
定の評価はしており、何らかの配分は必要と判断したのでしょう(もっとも、
前期は売上高3兆円の企業が8千億円の赤字を出しているわけで、これで今期
黒字にならない方がおかしいとも言えるのですが)。そうなると、同じ配分す
るなら、賃上げは残業代や社会保険料にもはね返りますし、一度上げると簡単
には下げられないという事情もありますので、経営陣としては、ことによって
は来年以降引き下げも可能な(実際、昨年は4.2ヶ月でしたし、平成7年に
は4.0ヶ月ということもありました)賞与で配分する方が、長い目で見れば
間違いなく得策になるわけです。
 しかし、賃上げについては、日経連がいくら「横並び打破」と言っても、結
局のところは、かなりの程度「世間相場」「横並び」で決まる部分はあるわけ
で、中でも自動車は電機や造船などと比べても横並びが崩れていると言われて
いますが、それでも、業界のリード役であるトヨタ自動車の賃上げは意識せざ
るを得ないでしょう。そうなると、意図したとおりに賃上げを抑制できるかど
うかははっきりしません。また、例えばベアゼロなど、本当に低額回答をする
場合、「賞与満額」と同時に発表した方が、別々に発表するよりモラルダウン
を回避できるでしょう。
 こう考えてみると、やはり、賃上げ抑制のための交渉戦術と考えるよりは、
他社より早めに「満額」を回答することで、従業員に対する会社の配慮の姿勢
をより明確に印象づけ、モラルアップをはかろうとしたということなのかも知
れません。団体交渉にのぞむ経営の感覚としては筋が通っていなくても、従業
員への訴求度を第一に考えた、と素直に考えれはいいのかも知れません。たし
かに、単に「満額」ということだけでは、他にも自動車各社で満額回答確実と
いわれるところがありますから、印象が薄くなってしまいそうです。
 考えてみれば、昨年の春闘でも、日産は「リバイバルプランへの組合員の協
力を得るために」ということで、ベア500円を回答しています。これに関し
ては、日経連の奥田会長が「20,000人も人員削減をする会社の組合が、残った
者だけベアや賞与を要求するとは何事か」と批判し、これに対して自動車総連
が「日経連が個別労使の交渉に容喙することこそ筋違い」と抗議するという一
幕があったわけですが、それでもベア500円、賞与は4.2ヶ月の要求に対
して4ヶ月を回答したわけです。この4.0ヶ月という回答も、「黒字化を条
件に期末に0.2ヶ月支給」という条件つきですから、実質満額回答です。
 その「連結で20,000人削減」にしても、日産労連によれば「基本的には定年
退職と採用減のいわゆる『自然減』で対応し、生首は飛ばない」とのことです
し、ゴーン氏の改革も、けっこう豪腕に見えて、実は案外労使関係や従業員に
配慮していると云えるかも知れません。
 しかし、5.2ヶ月というのは、世間の感覚で云えばけっこう高いですね。
過去からの積み上げもありますので、一概には云えませんが、前期史上空前の
赤字を出した企業の賞与とはちょっと思えません。ということは、やはりそれ
なりに底力のある会社なのだ、ということでしょうか。
 14日、今週水曜日はいよいよ注目の金属業種の回答指定日です。はたして
どんな回答が出るのか、注目して待ちたいところです。

                (次回は3月15日に配信する予定です)
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