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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年08月23日発行 通巻086号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 60代前半の就労促進は定年延長で >>> =================================== 高齢化の進展にともない、公的老齢年金の支給開始年齢が段階的に65歳ま で引き上げられることが決まり、60代前半における就労の問題が大きくクロ ーズアップされてきました。一方で、将来的にはわが国では労働力人口が減少 することが確実であり、中長期的な労働力の確保という面からも、高齢者の活 用が必要であるという予想もあります。こうした中で、年齢にかかわりなく働 く(活躍する)ことができる、いわゆる「エージレス社会」への移行が必要だ という意見が主張されるようになってきました。この4月には、厚生労働省が 「年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議」を設置し、検討をスタ ートさせています。 いっぽうで、足元の雇用情勢を見ると、高齢者にはなかなか厳しい状況にな っています。今年2月の年齢階層別の完全失業率(原数値)を見ると、全体で は4.8%ですが、60歳以上が5.3%、60〜64歳で見ると8.0%となっています。 ただし、60代前半の失業率が高いのは、定年退職者が、実際には就労の意志 がない(低い)にもかかわらず、失業給付を受給するために失業者となること の影響が大きく、それを含めても60歳以上が5.3%にとどまっているのは、 実際にはあまり状況は悪くないとも考えられます。逆に、、同じく今年2月の 年齢階層別の有効求人倍率を見ると、全体が0.68倍なのに対して、60歳以上は 0.11倍、60歳代前半層は0.09倍という数字になっています。この数字を見る限 りでは、就職する意欲のない人、あるいは比較的容易に就職を断念する人が多 いため、失業率はそれほど高くはないが、60歳代で新たに職を求めようとす る人にとっては、就職先はきわめて乏しく、したがって失業が長期化しやすい 傾向があると言えるでしょう。わが国では高齢者の就業意欲が高いと言われて いますが、今のところその理由は生きがいのためとか健康のためとかいうもの が多く、切実な経済的理由が比較的少ないようです。そのため、定年後はある 程度好ましい仕事がなければ再就職を断念しやすいという傾向があるものと推 測されます。 現状はこうした情況ですが、今後年金の支給開始年齢が現実に上がってくる と、経済的な理由で就労を希望する60代前半の人は大きく増えてくる可能性 があると思われます。したがって、いかにして60代前半の就労を拡大するか (もちろん、就労に限らず、つなぎ年金などによって所得を確保するという選 択肢もありえますが)が労使双方にとって大きな課題となっており、現に昨年 の春闘ではこれが賃上げに劣らぬ争点となりました。その解決策の一つとして、 年齢に関わりなく働ける「エージレス社会」が提唱されているわけです。あえ て端的に言えば、まず定年制を廃止する。あわせて、募集・採用の年齢制限や、 その他年齢をインデックスにした人事管理はすべて禁止する。そうすれば、意 欲と能力のある人はいつまでも就労でき、また、転職も可能になる、というシ ナリオだということになるのでしょうか。今般、中高年失業者の再就職支援策 として、改正雇用対策法に募集・採用時の年齢制限を設けないよう事業主に努 力義務を課したのを、その第一歩と評価する向きもあるようです。 しかし、募集・採用時の年齢制限はさることながら、定年退職制度を廃止す ることが、本当にいいことなのでしょうか。私は大いに疑問に思います。定年 退職制度というのは、定年までの雇用を原則として保障する一方で、定年をも って円満に退職するという制度であると言えると思いますが、これはなかなか 合理的で優れたしくみであると思うからです。少なくとも、法律をもって禁止 することは行うべきでないと考えます。 その理由はいくつもありますが、第一は、エージレスで就労できるとは云っ ても、能力の発揮や収入の確保といったことは必ずしも意味しない、というこ とです。現行法制のまま定年を廃止すれば、自ら退職するのでない限りまさに 終身雇用しなければならないということになってしまいますが、それでは企業 もおよそ成り立ちませんので、当然、解雇が相当程度柔軟化される、ありてい に云えば60歳より前の、50歳とか45歳でも解雇されるようになることに なるでしょう。たとえば、50歳で能力の低下を理由に解雇された人は、能力 が低下している上に、不慣れな職場に移らなければならないわけで、ほとんど の場合かなり低い賃金で再就職せざるを得なくなるでしょう。そうなると、生 活のために減額を覚悟で公的年金を前倒し受給せざるを得なくなり、そのせい で、65歳どころか70歳、75歳までも、生活のために劣悪な条件でボロボ ロになって働き続けなければならないということになってしまいます。60歳 定年制のもとでは、本人はもちろん、企業としてもとにかく60歳まではなん とか給料に見合う働きをさせられるように、いろいろと工夫をし、知恵も出し ます。企業がこうした努力をしなくなると、企業は楽になるかも知れませんが、 働く人の生産性は大きく落ちることになり、社会全体としても効率が損なわれ るということになるのではないでしょうか。そもそも、50歳、55歳になっ ても能力が衰えず、解雇や労働条件切り下げの心配をしなくていい人がいった いどれほどいるのでしょうか。エージレス社会は基本的に格差を拡大する社会 であり、それは強者の論理なのではないかと思います。 第二に、自分で自分の引退時期を決めることは、実はたいへん難しいという ことがあります。これは人間誰しも自分を過大評価するものなので、致し方の ないことですが、実際問題として、本人は自分は意欲も能力も十分だと思って いても、周囲はみんな「アイツは意欲ばかりで能力はダメだ」と思っているケ ースは非常に多く、むしろ普通ではないでしょうか。世の中で政治家や経営者 などの労害がしばしば話題になり、これらに定年を設けることがむしろ賞賛さ れるのに、一般人の定年は廃止した方がいいというのはちょっと違和感があり ます。周囲のすべてから自分の能力を否定され、石もて追われるような形で退 職に追い込まれるのに比べれば、一定の年齢をもって、形式的にでも花束と感 謝状をもらって「惜しまれて」退職するのは、まことにハッピー・リタイヤメ ントではないでしょうか。実際、年齢というのは確かに自分の努力ではどうに もならないものではありますが、人間誰しも、お金持ちもそうでない人も、男 性も女性も、一年に一歳等しく加齢するという極めて公平なものであり、また 非常に客観的なものです。年金の支給開始が年齢で決まるのも、民法が満20 歳をもって成年としているのも、この公平性と客観性ゆえでしょう。一定の能 力基準を満足すれば10歳でも15歳でも成年とするというのが本当は合理的 かも知れませんが、そうなっていないのは、いかに年齢が人間にとって受け入 れやすく納得しやすい基準であるかを示していると思います。 もちろん、その他にも、企業にとっては、長期雇用のメリットを大いに享受 できることはもちろん、確実に退職が見込めることから要員計画が容易になる などの大きなメリットがありますし、働く人にとっては、雇用の安定に加えて、 計画的な生活設計が立てやすいというのはやはり大きなメリットでしょう。実 際、実務家の実感としてとらえれば、やはり従業員は「長男が大学を卒業して 就職するのは何歳、末娘が成人するのは何歳の時で、住宅ローンは何歳で払い 終わる」など、年齢を基準に考えるのが当たり前であり、ことほどさように定 年制は国民生活に深く定着しています。 たしかに、意欲も能力もある人が、一定の年齢で無理矢理に退職させられる というのは、一見いかにも不合理で非人道的に見えるのでしょう。しかし、経 営者を対象とした調査でも、勤労者を対象とした調査でも、今後とも定年制を 支持するという人が大多数になっているように、これは長年にわたって積み重 ねられた人間性に対する深い洞察がこめられた制度なのです。 それでは、60代前半の就労をどうするのか、と云えば、これは当然定年延 長ということになります。あるいは、希望者全員を再雇用するといった形で、 事実上の定年延長を行うという方法もあるでしょう。実際、現時点での労使の 取り組みはこれが中心になっているのが事実です。その実現に必要なコストも さることながら、何と言っても、就労促進という意味ではこれ以上に効果的な 方法はないことは間違いありません。 かつて、昭和40年代後半に55歳から60歳への定年延長が進められた時 にも、たとえば55歳で賃金制度が大きく変わるとか、あるいは管理職ポスト は外れるといった方法をとったケースが多く、今回もやり方を工夫しながらう まく継続雇用を進めていくというのが、現実的かつ実り多い取り組みになるも のと思います。平均寿命が70歳を超えたとき、大いに苦心しながらも、55 歳から60歳に定年延長し、今日では60歳定年が法制化されるほどに定着し ました。今、平均年齢が80歳に達した時代に、60歳から65歳に定年を延 長することが、当時に比べて非常に苦心が大きいとは思えません(もちろん、 大きな苦心をともなうことは間違いありませんが)。 であれば、日本では机上の空論に過ぎない「エージレス社会」ではなく、日 本の社会によくなじみ、運用の知恵が蓄積された定年制を生かして、60代前 半の就労を促進していくことが、結果としてはコストも低く、効果も大きいの ではないかと思います。 (次回は8月27日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |