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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年05月24日発行 通巻064号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 「雇用の流動化」その虚実と功罪 >>> =================================== さる6月18日、経済財政諮問会議が開かれ、竹中経済・財政担当相から、 平成14年度予算編成の前提となる「新世紀維新のための経済財政政策」とい う中長期方針の論点が提示されたとのことです。 内容をざっと見ますと、第一が序論、第二が「日本経済の再生シナリオと政 策対応」、第三が「構造改革の道筋」となっており、それらを受けて、第四に 「14年度予算の編成に向けて」というストーリーになっています。 第三の「構造改革の道筋」というのには、「活力ある21世紀型日本経済の 創造」、「雇用とセーフティネット」、「新しい役割分担」、「政策プロセス の改革に向けて」という4つの項目があげられています。「雇用とセーフティ ネット」というのだけが妙に具体的で、残りの3つは抽象的で漠然としたタイ トルですが、細目を見ると、「活力ある21世紀型」というのは規制緩和や強 壮政策の強化を意味しているようです。「新しい役割分担」は官と民、国と地 方、都市と農村の役割分担の見直しということなので、要するに公共事業の見 直しが最大の眼目でしょう。「政策プロセス」は細目も「民意と政策決定」の 1項目、7文字だけしかなく、意味不明ですが、あるいは首相公選制などを念 頭においているのかも知れません。 さて、「雇用とセーフティネット」ですが、細目として4つの論点があげら れています。「雇用の流動化・拡大に向けて」、「信頼に足る社会保障制度」、 「資産活用政策」、最後に「人的資源大国を目指して」の4つです。 「信頼に足る社会保障制度」というのは、これはよくわかります。将来的な 人口見通しや、成り行きのままでの国民医療費の予測などを考えれば、現状の 社会保障制度は持続不可能であり、信頼に足りないことは明白です。社会保障 制度は最も基本的なセーフティネットであり、その構造改革は急務です。 「資産活用政策」というのは良くわからないのですが、リバース・モーゲー ジなど、資産をセーフティネットとしてより活用しやすくするために必要な取 り組みのことを指しているのだろうと思います。これも確かに必要な構造改革 だろうと思います。 「人的資源大国を目指して」というのもわかりにくいのですが、おそらくは 大学改革とか、生涯教育などが中心になるのでしょう。これはこれで大いによ ろしかろうとは思うのですが、職場でのojt、特に長期間にわたるojtを 軽視し、コミュニティ・カレッジで2年間勉強すれば結構な職業能力が身につ くというバランスの悪い考え方が横行するのは心配です。 問題は「雇用の流動化・拡大に向けて」という項目で、とにかく中身の説明 はないので具体的なことはわからないのですが、普通この手の施政方針で雇用 の問題を言うのなら、「雇用の安定・拡大」というのが常識でしょう。 まあ、世の中の雰囲気として、「雇用の流動化が必要だ」というのが流行に なっているような感じもありますので、こういう表現になったのでしょう。し かし、その実態はどういうものなのかは、よくよく考えてみる必要がありそう です。 そもそも、「雇用の流動化」というのはどういうことなのでしょうか。アカ デミックには、必ずしも正社員が頻繁に企業間を移動するような状況ではなく、 長期雇用慣行で働く正社員の割合が減少していくことが「雇用の流動化」であ るとされているようで、この定義は94年ころには提唱されているようです。 これは竹中担当相があらためてここで持ち出すまでもなく、すでに日本では起 きていることであり、現在の日本企業における人事労務管理の指導原理となっ ている日経連の「自社型雇用ポートフォリオ」も、基本的にこの傾向を促進す るものであると言えます(自社型雇用ポートフォリオの考え方自体は、個別企 業が長期雇用を増やすという選択も否定してはいませんが)。事実、ここ数年、 雇用者数が伸び悩んでいる中でも、パートタイマー、派遣社員、あるいは有期・ 短期雇用などは一本調子で増加しており、定義どおりの意味での「雇用の流動 化」は着実に進んでいると言えます。 たとえば、今、小泉首相が「2〜3年契約の有期雇用の拡大」の検討を厚生 労働省に指示したと言われていますが、これはまさに雇用の流動化を進める施 策であると言えます。企業にとっても、例えば足元の2〜3年間が大物のプロ ジェクトで繁忙だ、という場合に、「2〜3年契約の有期雇用」という選択肢 があれば、そうした形態で採用し、雇用を増やす可能性があります(そうした 選択肢がないと、たとえばできるだけ既存の正社員の残業で対応しよう、とい うことになるでしょうから、一種のワークシェアリングが行われることになる わけです)。したがって、こうした意味では、雇用の流動化は雇用の拡大につ ながる可能性があります。もちろん、不安定雇用の拡大という側面を持つこと にも注意は必要ですが、勤労者の選択肢を増やすという意味では、働く人にと ってもメリットがあるとも考えられます。 問題は、世の中の雰囲気として「雇用の流動化が必要だ」というようなこと が言われるようになったのは、竹中担当相も加わった「経済戦略会議」が開催 された98年くらいからであり、その意味するところも、言う人によって、か なり異なってきているところにあります。前にのべた94年ころの定義の他に、 「自発的な転職の増加」や「倒産などによる失業者の再就職促進」、さらには 「リストラのための過剰雇用の整理のため」、ひいては「不良債権処理にとも なう失業の増加への対応」など、さまざまな意味で「雇用の流動化」という言 葉が使われるようになってきました。 例えば、小泉首相は、「2〜3年契約」とともに、「解雇の法制化」によっ て「解雇しやすくする」ことを検討することも指示したと報道されています。 こちらについては、これが念頭においている「解雇権濫用法理」「整理解雇の 4要件」の見直し、緩和というのは、単に長期雇用の勤労者の権利の縮小、あ るいは労働条件の切り下げに過ぎず、「長期雇用の割合の減少」に直接つなが るものではありませんから、94年ころの定義で云えば、雇用の流動化を進め ることにもならないことになります。これによって実際に解雇が行なわれた結 果、長期雇用の人が減少して、その割合も低下すれば、雇用の流動化が進んだ ことになるではないかと強弁することはできるかも知れませんが。 そして、竹中担当相が「雇用の流動化」と言うのも、解雇の容易化を強く念 頭においているらしいことは、明らかなように思われます。そもそも小泉首相 に「2〜3年契約」や「解雇をしやすく」を進言したのは竹中担当相であると 云われていますし、「雇用とセーフティネット」という、妙に具体的なタイト ルも、おそらくは解雇された人のセーフティネットという意味合いを含んでい るのでしょう。 しかし、このように幅広い意味で「雇用の流動化」という言葉をとらえると すれば、それぞれの意味合いにおいて、本当に雇用の流動化を進めるべきなの か、「雇用の流動化・拡大」と云ってはいるものの、本当に雇用は拡大するの か、といったことを、個別に考える必要があるのではないでしょうか。 まず、94年当時の定義に従った、自社型ポートフォリオの構築という意味 での雇用の流動化については、不安定雇用の増加という問題は一応認める(た だし、いわゆる非正規雇用のすべてが不安定=悪であるというステロタイプな 考え方も、実態に合っておらず問題が大きい)としても、やはり推進すべきで しょうし、それ自体雇用を増やす効果もあるだろうと思います。 次に、自発的な転職の増加という意味では、企業組織の成長・拡大が鈍化し た現在、一つの企業だけでは必ずしも十分に能力を伸ばし、生かすことができ るようなキャリアを獲得できない可能性が高まっており、働く人がみずからの 意志で他の企業(あるいは創業)に新天地を求めることは、基本的に好ましい ことであると考えられます(具体的な施策としては、事実上の足止めとなって いる過度の年功的賃金カーブの是正や、長期雇用奨励的な退職金、企業年金な どの見直しがあげられます)。これは必ずしも直接的に雇用を増やす効果はな いかも知れませんが、有能な人に十分な活躍の場を提供するという意味では社 会全体の効率を高めるでしょう。 「倒産などによる失業者の再就職促進」は、これは疑いなく必要なことであ り、しかも優先順位が高いことも事実でしょう。特に、現状のように雇用失業 情勢がきわめて厳しく、再就職が困難な状況においては、失業給付の拡充(こ れはモラルハザードと背中合わせではありますが)や職業訓練の支援などを十 分に行なう必要があるでしょう。 ところが、「リストラのための過剰雇用の整理のため」となると、とたんに 話が怪しくなってきます。 そもそもこれは、「産業競争力会議」が開催された頃にさかんに云われはじ めたことで、当初は、「産業競争力強化のためには、整理解雇の4要件を緩和 して、過剰雇用の削減を容易にすべき」といった、率直な議論が行なわれてい た形跡があります。ここではじめて、「解雇を容易にする」という発想が入り 込んできたわけです。そこから、「解雇して失業させても、雇用が流動化して すぐに再就職できれば問題ない」という文脈で雇用の流動化が語られるように なり、さらには、「倒産などによる失業者の再就職支援のために、失業給付の 延長や教育訓練の拡充が必要」という正論を「失業給付を延長したり教育訓練 を拡充したりすれば、失業させても良い」と本末転倒させて、「流動化すれば 失業は怖くなくなる」などという議論まで出てきました。 ところがこの議論は、なかなか社会的には受け入れられていません。それは この議論に二つの大きな欠陥があるためだろうと思います。 欠陥の第一は、「そこまで困っているのであれば、実は整理解雇はできる」 ということです。解雇の必要性に関しては、裁判所は「高度の必要性」を求め ながらも、現実の判決では多くの場合経営者の判断を尊重しているのです。結 局のところ、例えば組合との話し合いをきちんと持てば、当然話は経営責任に 及ばざるを得なくなりますが、それは困るとか、解雇回避努力を尽くすには採 用をストップしなければならないが、できればこの際中高年をばっさり切って 新卒は従来どおり採りたいとか言った、さまざまなモラルハザードから規制緩 和を求めているに過ぎなかったわけです。 第二は、昨今のような厳しい雇用失業情勢のもとでは、失業者の再就職がま まならず、現実には「流動化」ではなく「滞留化」が発生してしまった、とい うことです。実際、ほとんどの企業がいかに人を減らすかに腐心していて、求 人が圧倒的に不足しているような状態では、失業期間の長期化は避けられない ことであり、自殺の急増という社会問題まで副産物として発生してしまってい ます。求人が潤沢にあり、再就職先に困らないような状況でない限り、失業は やはり非常に怖いものであるという常識は、簡単には覆せないでしょう。 その一方で、「解雇を容易にすれば、雇用は拡大する」という主張には、そ れなりの根拠があります。解雇が困難なため、将来の事業の縮小や、あるいは 個別に能力が期待する水準に達しない人を採用してしまった場合のリスクなど を考えて、企業が採用に消極的になっている、という考え方です。これは一面 の真理を捉えていると見るべきでしょう。 ただし、これは結局のところ、好況期には多くの人を採用し雇用を増やす一 方で、不況期には操業度に応じて人を解雇し雇用を減らすわけです。となると、 好況期にもあまり人は増やさず、不況期にもあまり減らさず、といった従来の スタイルに比べて、大きく雇用が増えるということも期待しにくいのではない でしょうか。とりわけ、現状のような不況期には、足元ではトータルで雇用を 減らす方向であることは間違いないわけで、少なくとも実行するには時期が悪 いということは言えるように思います。 「不良債権処理にともなう失業の増加への対応」に関しても、同様のことが 言えるだろうと思います。これについては、「日本経済再生のために必要」と いったような更なる理論武装が行われているわけですが、本当に必要であるな らば、本当に流動化する、すなわち再就職が行われるしくみを全体の枠組みの 中にビルトインする必要があるでしょう。それは時間軸の問題などを考えると 民間による雇用創出では対応不可能であり、相当程度行政の責任で、公的部門 で雇用の受け皿を準備する必要があるでしょう。それなくしては、「流動化」 とはならず、さらなる「滞留化」が進むでしょう。 何事もそうなのかも知れませんが、結局のところ、「雇用の流動化」にも、 「良い流動化」と「悪い流動化」があるということでしょう。就労形態の多様 化と自社型雇用ポートフォリオの確立、あるいは自発的な転職といった「良い 流動化」は大いに進めるべきでしょうが、「解雇を容易にする」といった「悪 い流動化」は避けるべきでしょう。そしてなにより、「雇用の流動化」という とき、「良い流動化」と「悪い流動化」があるということに十分気をつけるこ とが必要だろうと思います。 (次回は5月28日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 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