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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年12月10日発行 通巻121号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 流動化のコスト >>> =================================== 相変わらず、「労働市場の流動化が必要だ」という意見が繰り返し主張され ています。つい先日もまた、「労働市場が流動化すれば、労働条件は市場価格 になる。市場価格を高めるには職業能力、専門能力を高める必要があり、した がって労働者の能力水準が上がり、生産性が上がる。今の日本は『終身雇用』 のせいで労働者が安心して能力向上を怠るからダメ」というような説を見かけ ました。しかし、それは本当なのでしょうか。 この8月に一年間の英国滞在から帰国された研究者の方とお話をする機会が あったのですが、「英国の小売業従事者の質の悪さ」についてのお話がたいへ ん印象に残っています。「商品知識がまるでなく、商品についてなにか質問を しても価格以外のことはほとんど何も知らない。品切の商品を注文してほしい と言っても、注文のやり方を知らない。そこで『そのうち入荷するから待って いてほしい』というのだが、いつ入荷するかは『知らない』。逆に、卸への返 品のやり方もわからないから、売れ残りの在庫が山積されている。接客態度も よくない」というのが英国のごくふつうの商店の一般的な実態なのだとか。し かも、若干不適切な既述になりますが、店員は決して移民とか旧植民地出身と かいうのではなく、英国出身の英国人だというのです。 くだんの研究者氏はこれを「流動化のコスト」だと言っておられました( 「流動化」というのは定義のあいまいな言葉ですが、ここでは解雇が比較的容 易であるという意味を含んでいます)。要するに、商店の店員というのは非常 に雇用が不安定で、いつ解雇されるかわからない。極端な話、今月末、今週末 で解雇、ということが普通に行われる。そうなると、働く方としても、職場の 売り物について一生懸命勉強して詳しくなっても、解雇されてしまったらその 苦労は全部水の泡になってしまいますから、商品知識を身につけようとしなく ても当然だというわけです。どうしても必要な知識、すなわち値段だけわかれ ばいい、ということになってしまうのです。接客態度が悪いのも当然のことで、 愛想笑いを浮かべてサービス良く応対したところで、評価が上がるのは店であ って店員ではありません。店のオーナーにしてみれば、店員がいついなくなっ てもおかしくない、むしろ半年後にいることの方が珍しいということになれば、 やはりサービスを良くさせるように賃金でインセンティブをつけようという気 にならない。無理からぬことです。そうなると、店員もなにも無理して作り笑 いをしてまで店の評判を良くしようという気にはならないということになって しまうのでしょう。 その話を聞いて思い出したのが、マクドナルドです。もはや古い言葉という 感じになってきましたが、価格破壊の尖兵として今も大活躍しているのが日本 マクドナルドです。その低価格を支えているのが学生を中心とした低コストな アルバイト労働力であることは周知のとおりですが、彼らの健康的で溌剌とし た接客ぶりはたいへん好感の持てます。ときおり、マクドナルドのメニューに 「スマイル0円」と表示されているのを見かけますが、笑顔での接客というの はたしかにとても気持ちの良いものです。ちなみに、あの「スマイル0円」は どの店舗でも表示しているというわけではなく、日本マクドナルド本社のスー パーバイザーが店舗の運営や接客態度などを評価して、特に優良であると認定 された場合に限って表示が許されるのだそうです。目立ちこそしませんが、店 長にとっては誇らしい勲章というわけですね。 さて、ところ変わってマクドナルドの本家本元の米国ではどうかと云います と、米国のマクドナルドを利用した経験のある方はご記憶にあるかと思います が、まるっきりの仏頂面で機械的に応対されることが多く、「スマイル」でさ わやかに応対してもらえる方がむしろ例外です。これはなにも、アメリカと日 本でマクドナルドの接客マニュアルが違っているわけではありません。むしろ 逆で、マクドナルドの接客戦略は世界どこでも「スマイル」です。その徹底ぶ りが国によって違うということなのです。 それでは、この違いはどこから来るのでしょうか。国民性の違い、というの もひょっとしたらあるのかも知れませんが、やはり本質的なのは「流動化のコ スト」ということでしょう。 「そんなことを言っても、日本のマクドナルドの店員はほとんどアルバイト であり、流動的な労働力ではないか」という意見は当然あるでしょう。たしか に、アルバイトは流動的な労働力に違いはありません。とはいえ、日本の場合 は、同じアルバイトでも比較的長期化する傾向があります。実際、大学に入学 してしばらくしてからマクドナルドでアルバイトを始め、結局卒業するまで続 けたというような例は非常に多く、その中には、卒業後日本マクドナルドの社 員になって新設店の店長になった、などという例も少なくないのです。それ以 上に重要なのは、日本のマクドナルドは滅多にアルバイトを解雇しない、とい うことです。これは、続かない人は自分から辞めていくからという事情もあり ますが、仕事をやっていける人にとって「長く勤めようと思えば勤められる」 という信頼感があるかないかというのは非常に大きな違いです。 要するに、アルバイトであってもある一定以上の期間勤続し、また、その意 志があればかなりの期間勤続できるという環境が整うことで、その職場でしか 役に立たない(企業特殊的な)技能や知識を修得することや、いずれは自分の 処遇を高めることになるという考え方のもとに、(「スマイル」のような)職 場の評価を高めるための仕事をする(ロイヤリティを高める)ことへのインセ ンティブが働くようになるわけです。したがって、日本のマクドナルドでは、 大学生のアルバイトが教育実習や海外旅行に行くというときに、「それでは退 職」ではなく、それに対応した柔軟な勤務対応をとる、といったようなことが 行われているわけです。これは長期雇用の一般的なメリットとされているもの ですが、典型的な長期雇用でなくても、同じような現象は見られるのです。 こうして見ると、流動化が能力向上につながるというのは、必ずしも全面的 にそうではない、ということが言えそうです。むしろ、そんなに高度な能力を 有するわけではない大多数の労働力にとっては、定着こそが能力向上への道で ある、というのは常識的にもうなずける話です。その一方で、労働移動を重ね ながらキャリアアップし、能力向上していく職業もあることは事実です。それ は必ずしも医師や法律家、証券ディーラーなどの高度な専門職に限った話では なく、たとえばホテル業界などでも一般的に転職はよく見られますが、企業特 殊的熟練の割合が比較的低いというのがそのような職業に共通して見られる特 徴でしょう。そう考えてみると、流動化が能力向上につながる職業ではすでに 流動化は進んでいると言えるわけで、ことさらに能力向上の観点から今以上に 流動化を求める理由はないように思います。 (次回は12月13日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |