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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年05月14日発行 通巻061号
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        <<< サービス産業の雇用拡大を考える >>>

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 省庁再編で新たに設立された「経済財政諮問会議」に、「サービス部門にお
ける雇用拡大を戦略とする経済の活性化に関する専門調査会」という長い名前
の下部組織があり、この金曜日に、サービス産業での約530万人の雇用創出
を中心とした緊急報告をまとめ、発表したそうです。趣旨は、「不良債権の最
終処理など痛みをともなう構造改革に人々が耐えるためには、その後に雇用創
出をもたらす明確な展望がなければならない」ということで、この報告がその
「雇用創出型の構造改革」の道筋である、ということのようです。
 中身を見ますと、「個人向け・家庭向けサービス」が約195万人増で最大、
(以下「サービス」・「約〜万人」略)他に、社会人向け教育サービス20、
企業・団体向け90、住宅関連55、子育て35、高齢者ケア50、医療55、
リーガル20、環境10の合計530となっています。そして、その上で、こ
れを実現するためにぜひとも必要なのが「規制緩和、行政サービスの民間への
解放」と「労働市場の流動化」ということだそうです。
 実際問題として、緊急報告も述べているように、サービス産業では、80年
代に650万人の雇用増があり、不況の90年代でも400万人、足元でも毎
年30万人のペースで増加していますので、増加の趨勢にあることは間違いな
く、500万人という数字自体は、こうした趨勢を加速することで、十分達成
可能なものであることは間違いありません。
 そうした中で、やはり趨勢として見られる、別の意味での懸念もあるわけで、
今回の緊急報告ではそこには(あえて?)触れていませんが、はたしてそうし
た懸念を払拭できているのかどうかは気になるところです。
 具体的に典型的と思われる例え話を考えてみます。例え話ですが、基本的な
構造は同じだろうと思います。
 一人のおばあさんがいます。トメさんとしましょう。トメさんは数年前に連
れ合いに先立たれましたが、まだまだ十分一人暮らしできるくらい元気です。
ただ、寄る年波には勝てず、足腰が弱ってきたので、毎日午前中、近所に住ん
でいる長男のお嫁さん(マユミさんとしましょう)が運転する車で、病院にマ
ッサージを受けに行っています。マユミさんは、午前中はトメさんを病院に送
り、戻ってきて家事を片付け、昼前にトメさんを迎えに行きます。午後は1時
から5時まで近所のスーパーでパートで働き、その後は夕食の支度に取り掛か
るのが日課です。
 さて、ある日、マユミさんは新聞の折り込みチラシでこんな広告を見つけま
す。「タクシー業の規制緩和で生まれた新サービス!」会員制で、事前予約で
近距離に限った格安のハイヤーです。一ヶ月前から予約可能で、登録しておけ
ば自動的に決まった時間の予約を取ることができるというもので、トメさんの
送り迎えにはぴったりのサービスです。料金がいくらかというのは重大な問題
ですが、とりあえずここでは保留します。料金をトメさんが払うかマユミさん
が払うかも重要なポイントですが、ここではとりあえずマユミさんが払うとし
ておきましょう。
 さて、トメさんはこの新サービスを利用して毎日病院通いをするようになり
ました。マユミさんはその分午前中に時間ができるようになります。そこでマ
ユミさんは、パートに出る時間を1時間早くすることにしました。というより、
もともとそのつもりでマユミさんは新サービスを利用することにしたのでした。
 その結果、どうなったでしょうか?新サービスは一人の顧客を獲得し、その
分の雇用が創出されました。さらに、新サービスのおかげでマユミさんが1時
間多くにパートで働くことができるようになり、その分の雇用も創出されたと
いうことになります。マユミさんがパートで多く稼いだ分が消費に回れば、そ
の分需要が増えてまた雇用が増えると、まさに好循環が実現される、というシ
ナリオが描けるわけです。
 しかし、気をつけなければいけない点があります。それは、新サービスの料
金です。
 マユミさんが、自分で代金を支払ってまで新サービスを利用する気になった
のは、それで浮いた時間でパートで働こうという考えがあったからでした。基
本的に、こういうサービスを利用するというのは、それで楽ができるとか、そ
の時間を有効に活用できることで、代金に見合う以上のメリットがあるからで
しょう。マユミさんの場合で言えば、送迎とパートの仕事が同じくらい楽であ
れば(これに関しては世の中のお嫁さんたちの意見を聞きたいところですが、
私の周囲にいるお嫁さんは「パートの方が楽」と言います)、パートで得られ
る収入が新サービスに支払う代金を上回っていれば、新サービスを利用すると
いうことになります。これを普通に考えれば、新サービスに従事する人の賃金
が、(同時に複数の顧客を送迎するなどの合理化がない限り)現在そのサービ
スを担っている人の賃金を上回ることができない、ということを意味します。
したがって、新しいサービス産業というのは、低賃金の仕事を大きく増やすと
いうことにならざるを得ません。
 さて、今までは料金をマユミさんが支払うとして考えてきましたが、これを
トメさんが払う場合はどうでしょうか。トメさんは年金収入もあり、それなり
にオカネもあるので、お嫁さんに気をつかって、新サービスを利用することに
したとしましょう。
 この場合は、トメさんの「眠れる高齢者のおカネ」が消費に回り、マユミさ
んはその恩恵を受けてパートの時間を延ばすことができるわけで、たいへん結
構な話になります。
 この場合、トメさんが新サービスを利用するかどうか決めるのは、やはり新
サービスの料金が決め手になります。今度はマユミさんのパートの時給ではな
く、既存のサービス、すなわちタクシー料金との比較です。
 タクシーの生産性は一般に実車率で評価されます。実車率が70%を超える
と、いわゆる「タクシーがつかまりにくい」状態になると言われていて、バブ
ル期にはこの水準にあったということです。今では不況の影響でこれが50%
を切る水準に達し、タクシー各社は苦しい経営を強いられています。
 さて、新サービスはこの生産性をどこまで上げることができるでしょうか。
タクシーにかかっている規制のうち、乗車拒否ができないとか、相乗りができ
ないなどといった生産性の向上を阻害する規制を廃止して、事前予約やit技
術による効率的配車などを行なうことで、どこまで実車率を上げることができ
るのかという問題ですが、その裏腹として近距離輸送に限らざるを得ないとい
うことになると、効率の高い長距離輸送をギブアップせざるを得なくなるなど
の逆効果もあって、そんなに絵に描いたようにはならないでしょう。タクシー
運転手の労働条件は「全産業平均に比較して、タクシー運転者(男)の年間労
働時間(2,388 時間)は、216時間も多い反面、平均年収(344万円)は、218
万円も低い」(全乗連のhpによる)という実情ですから、人件費面での合理
化は決して容易ではありません。結局のところ、既存サービス(しかも現状は
供給過剰)との比較で考えても、新サービスは低賃金の仕事を増やすというこ
とになるばかりか、実は成り立つかどうかもけっこう厳しいものがありそうで
す。
 もちろん、こうしたケースだけではなく、もっと付加価値の高いサービスも
あるでしょうし、タクシーのような民間経営ではなく、行政が行なっているサ
ービスの中には大幅な合理化が可能なものも多いでしょう。ただ、サービスと
して成り立つとしても、やはり労働条件面ではあまり優れたものにはならない
だろうということは言えると思います。要するに、「低賃金労働の増加」とい
う懸念される趨勢に関しては、それを促進こそすれ、対処を示した内容にはま
ったくなっていないのがこの「緊急報告」の実情です。
 また、これらの新サービスのかなりの部分(違う部分ももちろんありますが)
は、多かれ少なかれ、各家計がdo it yourselfでやっていたものをまとめてサ
ービス産業化しようというものですから、まとめることによる合理化効果など
はもちろんあると思いますが、はたしてこれで500万人雇用が増えたとして
も、かつてテレビを作る人や自動車を作る人が増えた時と同じように考えても
いいものなのかどうかは、私にはなんともわからないところです。これは悩む
方がバカなのかも知れませんが。
 この他にも、最近の経済社会情勢を考えると、こうした「構造改革」を、今
「不良債権処理」や「雇用対策」と結び付けて考えることには、また違った意
味での無理が大きく、今回の「緊急報告」については、「雇用機会の増大をも
たらす明確な展望」と自画自賛するほどの内容とは思いにくいというのが私の
率直な感想です。
                (次回は*月**日に配信する予定です)
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