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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年06月28日発行 通巻073号
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         <<< 司法制度改革と個別労使紛争 >>>

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 この6月12日に、司法制度改革審議会の最終報告が発表されました。法曹
人口の大幅な拡充、法科大学院の設立、国民の司法参加など、現状を大きく改
革する内容が含まれており、報道などでも大きく取り上げられたことから、国
民的な関心を呼びました。
 残念ながら、報道などではほとんど取り上げられることもなかったのですが、
「民事司法制度改革」の章の中で、「民事裁判の充実・迅速化」「専門的知見
を要する事件への対応強化」「知的財産権関係事件への総合的な対応強化」
「家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実 」などと並んで、「労働関係事件へ
の総合的な対応強化」が、一項を設けて取り上げられています。この審議会が
昨年11月に出した「中間報告」においては、労働事件は「専門的知見を要す
る事件」の一項目になっていましたが、知的財産権とともに独立項目に格上げ
された形になっているのが注目されます。
 内容を見てみますと、まずその背景として、「近年、社会経済情勢の変化に
伴い、企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化の進展等を背景として、
個別労使関係事件を中心に、労働関係訴訟事件は急増している(地方裁判所通
常第一審新受事件数は平成元年の640件から平成11年の1802件に増加)が、こ
れを大幅に上回る件数の相談が、労政事務所、労働基準監督署等の行政機関に
持ち込まれている。 」と述べられています。データを若干補足しますと、集
団的労使関係の事件を扱う労働委員会における事件の発生状況を見ると、不当
労働行為と労働争議調整の新規発生件数は、昭和40年代には年間合わせて
2000〜3000件だったのに対し、昭和50年代から減少をはじめ、平成に入ると
1000件を下回って推移しており、訴訟事件と逆に減少傾向にあります。これは
すなわち労働事件が集団的労使関係から個別的労使関係にシフトしていること
を示しています。しかも、労働委員会の取り扱い事件については、現実として
は「もともとは個別的な労使紛争の当事者である労働者が、一般労組に加入し
て労組員となって、団交拒否などの問題として労働委員会に持ち込まれた事件
が相当割合を占めている」のが実態であると言われていますので、個別紛争へ
のシフトはデータ以上に進んでいると見るべきでしょう。さらに、裁判所や労
働委員会に持ち込まれるに至らない労使紛争としては、平成10年の都道府県
の労政主管事務所への相談が年間12万件、労基署や職安などへの相談は年間
100万件以上となっています。内容についても、団体交渉や不当労働行為な
どの集団的労使関係に関わるものは少数で、やはり圧倒的に解雇や賃金などの
個別的労使関係に関わる内容となっています。少し古いのですが、平成8年の
東京都の労政事務所における労働相談の内容を見ると、解雇が14%、賃金の
切り下げなどが12%、賃金の不払いが10%でワースト・スリーになってい
ます。
 こうした状況に対して、司法として今後どのような対応が必要か、というこ
とについて、最終報告は次のように述べています。
 まず基本的な認識として、労働事件の判断にあたっては、雇用・労使関係の
制度や慣行等について、各職場、企業、あるいは各種産業の実情に基づいて判
断することが求められること、また、労働者の生活基盤に直結した問題であり、
特に迅速な判断が求められるとし、adrも含めて適正・迅速な処理のための
方策が必要であるとしています。
 その上で、まず、労働関係訴訟事件の審理期間のおおむね半減を目標として、
法曹の専門性強化、計画審理の推進、証拠収集手続の拡充等を図るべきである
としています。
 それに加えて、adrとして、民事調停の特別な類型として、雇用・労使関
係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する、「労働調停」を導入すべ
きである、としています。
 また、その他の問題として、労働委員会のあり方も含め、労委命令に対する
司法審査のあり方や、欧州諸国に例の見られる労働参審制も含む労働裁判制度
の導入の可否などについても、早急な検討を要請しています。
 この報告をどう評価するかは難しい問題もありますが、基本的には、労働事
件の重要性を強く認識していることは好ましいと思います。
 民事通常訴訟事件は年間41万件以上(平成9年)発生しており、労働事件
の占める割合はかなり低いものではありますが、そこには労働事件の平均審理
期間が13ヵ月以上という裁判の長期化による救済の遅れをはじめ、労働者が
訴訟に要する労力はきわめて大きく、生活の必要と密接に関係している中で、
労働者が訴訟を起こすことのインセンティブが非常に低い現状が大きく影響し
ています。
 民事調停の新規受件件数が約19万件(同)であることを考えると、前述し
た訴訟に至らない労使紛争の件数はそれなりに大きな数字であることや、報告
も述べているとおり、最近労働事件が急増傾向にあることを見れば、潜在的に
はかなりの事件が発生する可能性があるとも考えられ、報告が労働事件を重視
したことは適切であると言えると思います。
 対処の方向性として、adrの活用を打ち出したのも適切であると思います。
adr(alternative dispute resolution)は、裁判以外の方法で紛争の解決
をはかろうという手段で、企業内のものとしては、労使による苦情処理委員会
をおいている企業は日本でも多いですし、人事部門に苦情処理の相談窓口担当
者を設けている企業もあります。社外のものとしては、労働基準監督署長によ
る労使紛争の解決援助制度や、都道府県の労働局(かつては女性少年室)によ
る男女雇用機会均等に関する調停制度が代表的です。米国では、adrを専門
とするオンブズマンが職業として確立(資格制度もある)しており、社内に設
置するほか、労使紛争の際には訴訟の前に社外の第三者のオンブズマンを活用
することを就業規則などに定めているケースも多いようです。
 現在、都道府県労働局に、機会均等調停委員会を改組して、学識経験者の参
与による紛争調停機関を設けるという法案が提出されており、数日中にも成立
の見通しとなっており、今回の「労働調停」はそれに屋上屋を架ける感もなき
にしもあらずではありますが、報告も「これと併せて、労働調停制度を導入し、
多様な解決ルートを整備することは意義のあることである」と述べているよう
に、複数の解決手段を準備することは大いに有意義であると思います。
 今後、雇用形態の一層の多様化が進展し、賃金決定においても成果を重視す
る方向性がさらに強まるものと思われます。こうした中で、簡易で迅速な紛争
処理のしくみが円滑に機能するようになれば、持ちこまれる紛争件数もさらに
大きく増加する可能性も十分考えられます。現実問題として、小規模企業を中
心として、かなり恣意的で不適切な労務管理の実態が見られることも事実であ
り、紛争処理制度の整備充実は、結果としてこうした企業における労務管理の
高度化を促すことにつながるでしょう。そういう意味でも、今回の報告は有意
義なものであると思います。
 また、紛争処理の増加は、おのずと報告が言及しているような、労働裁判所
のような機関の設置の議論を促すものと思います。現実の推移を見ながら、さ
らに簡便・迅速で、現実的かつ実効ある解決を促す紛争処理のあり方の検討が、
継続的に進められることを期待したいと思います。

              (本日、配信が遅れまして申し訳ありません。
                  次回は7月2日に配信する予定です)
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