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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成13年07月05日発行 通巻075号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 最終処理でどれだけ失業するのか >>> =================================== 内閣府から、「不良債権の処理とその影響について」という報告書が発表さ れました。位置づけとしては、「内閣府政策統括官(経済財政−景気判断・政 策分析担当)」の所轄する「バランスシート調整の影響等に関する検討プロジ ェクト」の報告、ということになるようです。内容的には、不良債権問題の現 状把握とその原因、再発防止策といったものをかなり幅広く含んでいるのです が、なんと言っても注目されるのは、政府の機関が不良債権処理の雇用への影 響を公式に試算したことです。各種マスコミの報道も、ほぼこの点に集中して いました。 もともと、不良債権の最終処理にともなう雇用への影響については、民間の シンクタンクなどからいくつかの試算が発表されていました。前提とする不良 債権処理の規模や期間などが異なるため、一概に比較はできないのですが、目 につくものを列挙しても、このくらいあります。 ○野村総研(3/16)8〜16兆円/半期の処理で離職7〜14万人/半期 ○ニッセイ基礎研(4/6)22〜64兆円の処理で離職130〜374万人 ○ドイツ証券(4/13)12.7兆円の処理で離職31〜102万人 ○第一生命経済研(5/7)12.7兆円の処理で離職111万人 ○日本総研(6/26)15.3兆円の処理で失業53万人 このほかにも、竹中経済・財政担当相が5月末の国会答弁で「過去の傾向か らは不良債権処理1兆円について数千人〜1万人くらいの離職が出ると考える のが適当で、数万人から十数万人の離職になる。民間の試算は過大」と発言し ています(これは野村総研の試算を念頭に置いているらしいと云われてます) し、経済産業省も、非公式に12.7兆円の処理で16〜21万人が離職する との試算をしているとの報道もありました。 とはいえ、どの試算も、元になるデータが決定的に不足しているため、相当 に大胆な仮定と前提を置いたものであり、その信頼性はかなり疑わしいと云わ ざるを得ないものでした。そういう意味で、今回の「プロジェクト」の報告は、 行政のプロジェクトならではの、通常民間からアクセスできないようなものも 含めて、豊富なデータにもとづくものとして注目を集めたわけです。実際、報 告書も、「本推計の特徴は、業種別の負債特性や雇用特性を考慮し、企業整理 の影響の把握においては実際の過去の倒産企業の財務データを使用するなど、 現在入手可能なデータを最大限利用している点である。」と述べています。 試算の概要ですが、最終処理にあたって私的整理(債権放棄をともなう)が 行われる場合と、法的整理のみが行われる場合とに分け、さらにそのそれぞれ について、「95−00年実績」「98−00年実績」「00年実績」の3種類のデータ を使用して、つごう6通りの試算を行っています。その結果が、離職者の規模 が約39〜60万人、そのうち18〜27万人が転職に成功し、9〜15万人 が再就職を断念して非労働力化する結果、13〜19万人が失業するという結 果が出ています。私的整理をともなう方が法的整理のみに比べて離職も失業も 少ないのは当然ですが、使用データの期間については、大きな差はないものの、 長いほうが離職も失業も大きくなっています。これは倒産の中の再建型の比率 が年々上がっていることが効いているようです。 さて、この試算について、民間機関との数字の比較などから、「甘すぎる」 という意見が上がっています。離職と失業の違いはありますが、離職の数字で 見ても確かに小さくなっています。実際、この試算について、報告書でも、 「ただし、本推計の結果を見る上で、いくつかの点について留意する必要があ る。第一に、主要行に絞ってその影響を推計したが、不良債権の最終処理は地 域金融機関やその他の金融機関も迫られる可能性が高い。第二に、破綻懸念先 以下債権の新規発生分の影響については推計の対象外としている。第三に、破 綻懸念先以下債権の最終処理がもたらすデフレ効果がさらに実体経済を押し下 げる波及効果については勘案していない。第四に、過去の実績に基づいた影響 分析であり、過去と同じ形の調整が行われた場合の影響を明らかにしているに すぎない。第五に、情報の制約から地域的なインパクトは推計していない。今 後、構造調整に伴う雇用政策を考える際には、この地域性も勘案されなければ ならない。」と、問題があることを率直に認めています。そして、「最終処理 の影響の実態を把握する上で、明らかにデータの不足が制約要因となったこと を示している。」と述べていますが、たしかにそうだろうと思います。 さらに、この試算については、次のような心配点も指摘しなければならない だろうと思います。第一に、非労働力化や転職について過去のデータを使用し ていますが、今後短期間で大幅に離職が増加した場合、限界的な非労働力率や 転職率は逓減する可能性が高いのではないかと想像されます。第二に、転職に あたっての職種ミスマッチが発生する可能性があることです。平成11年版労 働白書によれば、建設業における転職の67%は同じ建設業内で移動していま す。かつては建設業の求人が多かったからそれが可能だったわけですが、今後 は建設業での新規求人はあまり望めません。となると、他の産業には転職しに くい人が多い分だけ、転職率が低くなる可能性があります。これらはいずれも、 失業を多くする方向に働くでしょう。 報告書が指摘するとおり、これだけ重大な政策決定に関わる事項であるにも かかわらず、データの不足は歴然としており、報告書の言うとおり「不良債権 問題のみならず、わが国の構造改革を進めるに当たり、政策効果の分析に資す るデータ環境の整備は緊急の課題である」と思われます。そして、現に確から しい試算ができない中で政策を進めるのであれば、かなりの程度までリスクを 織り込んで、十分な対策をとる必要があるのではないでしょうか。 (次回は7月9日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659 の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。その際は、「労務屋の労働雑感」からの転載・引 用であることと、まぐまぐのid(0000049801)の記載をお願いします。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |