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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成13年02月05日発行 通巻034号
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           <<< 一人一社制の功罪 >>>

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 新聞報道によりますと、高校生の就職のあり方について検討している文部科
学省の専門家会議は、「指定校制」「一人一社制」などの就職・採用慣行を見
直すことを求めた報告をまとめたそうです。
 この報告は、まだ公表されていないようなので、詳細についてはわからない
のですが、「指定校制」というのは、「企業が特定の高校の生徒だけを採用す
る」ことであり、その見直しの方向は「求人情報を指定校以外の学校にも提供
し、応募できるような取り扱いの拡大」だということですから、人事屋の言葉
で言えば、いわゆる「実績校」だけへの求人はけしからん、ということのよう
です。もちろんこれは、「一人一社制」とも深く関連する慣行であるわけです
が、「一人一社制」の方については、「生徒が同時期に応募できる企業を二、
三社を上限に認めることや、公務員との併願を妨げない」という見直しを求め
ているとのことです。
 これはもちろん、昨今の就職「超氷河期」の中で、高卒の就職難が続き、そ
の結果として「フリーター」のような技能蓄積の難しい就業が増えているとい
う問題意識によるものでしょう。
 みなさんには釈迦に説法もいいところでしょうが、一人一社制とはどんなも
のか一応おさらいしますと、
○企業が学校に求人し、学校が求人数だけの応募生徒を学校推薦する。
○学校は一人につき一社しか推薦をしない(不合格の場合は、また別の会社に
推薦する)。
○企業は、学校推薦のない学生は基本的に採用しない。
 というシステムで、学校推薦制とか、単願制などとも云われております。高
卒採用/就職では、全国で一般的なやり方であり、短大卒や大卒理系といった
採用/就職でも、広く類似の方法がとられているようです。
このやり方の基本的な考え方は、長期的な信頼関係をベースに学校・企業双
方が、安定的に就職・採用を確保していこうというものです。信頼関係がベー
スですから、学校はあまり劣った学生は推薦できないし、企業としても推薦が
ある以上は簡単には落とせません。学校としてみれば、安定的に良質な就職先
を確保でき、学生の不合格を減らすことができます。企業にとっては、大卒文
系では日常茶飯事になっている複数内定者の入社辞退のリスクが低く、効率的
に採用することが可能となります。
全体として、学生・学校・企業三者のリスクをシステマティックに軽減する
とともに、人手不足基調のときに、貴重な人材(特に大卒理系)を、偏りなく
各企業に行き渡らせることのできる仕組みとして、有効であったと云えるもの
と思われます。また、とりわけ企業にとっては、「将来の幹部候補生」などと
いったリキんだ採用ではなく、「このくらいのスペックの新入社員を数十人く
らい採用したい」といった、アバウトな採用にあたっては、大幅に省力化が可
能なしくみであり、それゆえ、高卒や短大卒に普及していると見ることもでき
るでしょう。
いっぽうで、従来から、このやり方の問題点も指摘されてきました。
昔からあるのは、「就職先を決めるのは学校で、自分では決められない」と
いう指摘で、職業選択の自由という観点から問題ではないか、というものです。
希望する会社に必ずしも入れないという問題もさることながら、従来のように、
就職先がふんだんにあり、しかも、学校推薦で就職するような企業なら、まず
定年まで心配はなかった時代ならともかく、今となっては、学校推薦で入った
会社が半年で倒産するというリスクもはるかに大きくなっているわけですから、
学生にしてみても、一方的に決められるのは、ちょっと待てよ、ということに
なるでしょう。
 最近指摘されているのは、企業サイドからは、もっと本人を十分に確認して
から採用したい、という意見です。各社とも、定期採用は絞り込み基調ですし、
買い手市場なので、選べる状況にありますから、十分選んで採用したいという
考え方になるのは当然でしょう。特に、高卒採用は学生本人との接触が大幅に
制約されているので、企業が欲しい人物と学校が推薦する人物とミスマッチが
発生しやすい状況があります。特に、現在のような買い手市場では、求人数を
上回る希望があった場合、成績順に求人数まで推薦するというやり方をとって
いる学校が多いため、さらにその傾向があります。企業の希望より、保護者や
本人が納得することが優先されるわけです。現実に、経団連からも、一人一社
制の見直しというのが、規制緩和要望の一項目として上げられているとのこと
です。もっとも、経団連が本当に期待しているのは、大卒理系の講座推薦制の
規制緩和だろうとは思いますが。
学校はどうかと云えば、高校は賛否両論で、まっぷたつに分かれている、と
いうのが実態のようです。
見直し派の主張は、とにかくチャンスを与えてほしい、という一言に尽きる
ようです。超氷河期と云われる現在、求人が不足していて、就職の第一段階で
ある学校推薦が取れず、1月、2月になっても一度も選考試験を受けたことが
ない、という学生もかなりいるという実情が多数あるため、そういう学生にも、
とにかくチャンスだけは与えて欲しい、全部とは云わないが、学校推薦枠とは
別に、自由応募枠を設けてチャレンジさせてほしい、というのが、見直し派の
主張です。これはこれで素直な考え方であり、また切実な主張でもあります。
すなわち、企業が採用を絞り込んだ場合、求人をどの学校に出すか、という問
題がここで出てくるわけです。企業としては当然、長期的な信頼関係をベース
としたシステムである以上、これまで長年の採用実績のある学校、よい学生を
送り込んでくれる学校、採用難で企業が苦しいときにたくさん就職させてくれ
た「恩のある」学校、要するに「実績校」に求人を出すわけです。そうなると、
新設校・新興校、普通科高校、いわゆる学力水準の低い高校などは圧倒的に不
利になるわけで、こうした学校から見れば「実績校」はまさに「指定校」であ
り、「とにかく機会だけでも与えてほしい」という声はまことに切実です。
一方、維持派の主張にも、十分に道理があります。端的に言えば、「一人一
社制を崩したら、企業はどんどん不合格を出すようになるだろう」というもの
です。立派な大人であるはずの、女子大生の就職難があれほどの同情をもって
報道されているくらいですから、未成年者に何十社も落とされるといったよう
な過酷な経験をさせるべきではない、という主張です。企業としても、未成年
者を採用する以上、その程度の社会的責任は負うべきである、ということで、
これはこれで説得力のある意見です。実際に就職指導にあたっている立場から
は、変に自由応募枠などがあると、かえって良くない方向に向かってしまう、
たとえば、一般的に学生に人気のあるアパレル関係や報道・芸能関係などを安
易に志望して、結果として長続きしないとか、劣悪な労働条件にさらされると
か、悪くすると犯罪を起こしたり巻き込まれたりするとかいったことになると
いう、経験にもとづく実感もあるようです。
 こうして見ると、撤廃派は比較的市場原理を重視する考え方であり、裏返せ
ば学校や企業の責任より、学生本人の責任を重視する考え方であるといえると
思います。慎重派は、就職活動や就職そのものも生徒指導=教育の一環として
とらえる考え方であり、学校の責任はもちろん、企業にもいわゆる「社会的責
任」を求める立場であると言えると思います。もちろん、身をもって市場の実
態を体験するのは教育的見地からも好ましいという意見もあるでしょう。
 いずれにしても、今回の「専門家会議」の報告は、この両者の「いいとこど
り」を試みたというか、足して二で割ったという印象の強いものです。従来の
慣行がシステムとしてかなり出来上がっていることを考えると、もちろん修正
の余地はあるでしょうが、そんなに簡単に「いいとこどり」ができるとは思え
ません。
 卒業生などを対象に実施したアンケートなどでは、いわゆる「指定校制」や
一人一社制の見直しを求める意見が多かったということで、これは多分に十分
満足のいく就職ができなかったという結果を反映しているものと思われます。
 よりよい就職は、企業や学生だけでなく、社会全体としても好ましいもので
はありますが、そのために行政、学校、企業がどのような役割を果たしていく
のか、が今問われているのではないでしょうか。

                 (次回は2月8日に配信する予定です)
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