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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年02月28日発行 通巻142号
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        <<< コース別人事制度は抜け道ではない >>>

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 さる20日、野村証券の女性社員・元社員13人が、労働条件や昇進昇格な
どで男性と差別されたとして会社を訴えていた訴訟で、東京地裁は原告一部勝
訴の判決を出しました。これは、男女雇用機会均等法施行以降、法規制と社会
現実との落差を埋めるために各企業がさかんに導入した「コース別人事制度」
のもとでの男女差別を争ったものとして注目されていたのですが、今回の判決
はコース別人事制度をとっていても男女差別に該当するという判断を示したと
いうことで、マスコミなどでもかなりの扱いを受けています。
 まず、訴えの内容から確認しますと、原告らは昭和32〜40年の高卒入社
で、当初から男女別人事制度を適用された結果、昇進昇格や賃金で不当に差別
されたと訴えています。その上で、現在、同年齢の男性が最低でも課長代理に
昇格していることから、原告も同じ課長代理の地位にあることの確認を求め、
加えて男性との賃金差額と慰謝料など総額約6億6400万円の賠償を求めた
というものです。ちなみに、男性、あるいは総合職は入社13年めで課長代理
に昇格するという年功的運用が行なわれていたようです。
 これに対して、野村証券は、処遇の違いは業務、責任の違いや転勤の有無な
どによるものと説明し、さらに、男女雇用機会均等法施行後の昭和61年には
人事制度を総合職・一般職のコース別人事制度に改定し、翌昭和62年には一
般職から総合職へのコース転換制度も導入したこと、女性の総合職も存在する
ことなどを主張して、格差は合理的で違法はないと対抗していました。
 それに対する判決ですが、原告勝訴の部分が大きく報道されていますが、内
容を見るとかなり限定的な原告勝訴となっています。
 まず、コース別人事制度については、その導入時のコースの割り振りについ
て、男性全員を総合職、一部例外を除く女性全員を一般職とした割り振りが、
性別を基準に画一的に当てはめたもので差別であるとしています。また、コー
ス転換にあたって職場推薦と転換試験合格が条件となっていることをとらえて、
一般職が全員女性であることから、女性に対してのみ総合職となることを困難
にさせるものであったと判断しています。
 その一方で、判決は、「男女のコース別人事は性による差別を禁止した憲法
の趣旨に反するが、入社当時は一定の合理性があり、公序に反するとまでは言
えなかった」と述べ、均等法の改正により配置や昇進などの差別について従来
の努力義務から強行法規となった平成11年以降についてのみ、コース別人事
制度による男女差別が違法であると判断しました。
 さらに、平成11年以降の賃金格差についても、「損害額を確定することは
困難」であるとして損害賠償請求を認めず、結果として慰謝料と弁護士費用の
計約5600万円の支払いを命じるにとどまりました。
 また、昇格の確認についても、「男性と女性との間で知識、経験の違いが反
映すると考えられることから、昇格させなかったのが違法とは言えない」と会
社の裁量を認め、原告の請求を却下しました。
 こうして見ると、報道の論調にもかかわらず、野村証券が「会社の主張が全
面的には認められなかったことは大変残念だ。控訴することを検討したい」と
いう冷静なコメントを出しているのもうなずけるものがあります。
 その一方で、原告は「現在の人事配置を違法と認めた点で影響は大きい」と
しながらも、「直ちに控訴したい」としているのも、判決の実質的な内容をふ
まえたものと言えるでしょう。特に均等法改正前については違法と認められな
かった点について「判決では過去の女性が救われない」とコメントしているの
は、原告団のうち一人が、均等法が改正された平成11年当時すでに定年退職
していたことで「ゼロ回答」となってしまったことも背景にあるものと思われ
ます。
 さて、この判決を検討してみますと、何と言ってもコース別人事制度でも運
用次第で男女差別となりうるとの判断を下したのは画期的と云えます。
 コース別人事制度をめぐる事件としては、一昨年大阪地裁の判決が出た住友
電工事件があります。これは、入社当初からコース別人事制度がとられており、
男性全員とごく一部の女性が総合職、圧倒的多数の女性が一般職(事務職)と
いう運用が長年続けられてきた下での男女差別が争われたケースですが、この
事件では大阪地裁は男女の格差は公序良俗に反するとまでは云えないとして原
告敗訴の判決を下しています。この事件と比較すると、今回の野村証券事件で
は、野村証券が導入したコース別人事制度が、導入時のコースの割り振り方や
その後の運用などから、「男女雇用機会均等法施行後も男女別人事制度を温存
するための一種の『抜け道』」であると判断されたところが決定的な違いにな
ったと云えそうです。コース別人事制度については、総合職転換にあたっては
それなりに能力や適性、職場ニーズなどを確認のうえ実施するのがむしろ当然
で、判決はいささか疑問の残る部分がありますが、おそらくは実態として女性
の総合職転換を事実上認めないという意図があると判断されたのでしょう。
 その上で、努力義務である間は違法とまでは言えず、強行規定となった時点
で違法と判断したのは妥当と言えるでしょう。原告サイドでは、「人事制度や
仕事の内容は変わっておらず矛盾した判決」とのコメントを出しているようで
すが、昔の話は当時の時代背景で判断することや、男女雇用機会均等法の施行
にあたっての対応や前後の実態を重視することはすでに判例傾向として定まり
つつあるように思われます。
 賃金差額について「認定できない」としたのは致し方のないところでしょう。
実際問題として、現実にある格差のうち、平成11年以降の違法にもとづく格
差がどれほどかということは、わが国の一般的な賃金制度のもとでは算定が難
しいことは想像に難くありません。
 また、昇格したとの地位の確認の請求が却下されたことも妥当と思われます。
芝信金事件では女性原告の課長職昇格を認める判決が出ましたが、このケース
ではコース別人事制度が採られていなかった上、就業規則にも男女差別を禁止
することが規定されており、さらに男性の全員が全く差がつかず年功的に課長
職に昇格しているという実態があるなど、いかなる角度から見ても女性の昇格
を認めないことが正当化できない事例でした。こうした例外的なケースを除け
ば、昇進昇格については会社の裁量権を幅広く認める傾向も定着していると言
えると思われます。
 さて、話をコース別人事制度に戻しますと、日本では均等法施行にあたって、
コース別人事制度が広がりました。もちろん、コース別人事制度自体は何ら悪
いものではありません。企業にとっては基幹的業務も必要ですが補助的業務も
それなりに必要なのであり、業務の範囲、レベルと処遇との関係をコース別に
明確化することは、むしろ人事管理としては合理的であるとも云えます。
 問題は、補助的業務のコースに従事する人がほとんど女性であるという点に
ありわけですが、均等法施行当時は、長年にわたって基幹的業務は男性、補助
的業務は女性という慣行が広まっていたことから、一気に均等法の意図する姿
にもっていくのは現実には困難が大きいということで、ある意味実態と均等法
とを折り合わせる手段として導入が進んだという事情があったと云えます。当
初はそれで仕方がなかった部分もあったと云ってもいいでしょう。
 そして、本来であれば、とりあえずはコース別人事制度をとりながらも、将
来的には均等法の一段の強化も予想されていたことでもあり、徐々に従来の男
女別役割分担を見直し、よりよい機会均等の実現に向けて努力しなければなら
なかったはずでした。実際に、バブル期の人手不足もあって女性活用の気運が
高まり、その方向に進んでいくかに見えた時期もありましたし、今でも引き続
き努力している企業も多いところです。その一方で、残念ながらコース別人事
制度を単なる男女別役割分担を維持するための「方便」と考えていた企業も見
られましたし、バブル崩壊とその後の長引く経済の低迷という経済的環境の悪
化による機会均等への取り組みの後退という現実もありました。
 この間、平成11年の均等法改正がありましたし、コース別人事制度に関し
ては、iloから「事実上の性差別」との指摘が何度かありました。これらを
受けて、労働省(現厚生労働省)もコース別人事制度の適正な運用に関するガ
イドラインを出して、企業への指導を進めていたわけです。
 こうした中で、今回の判決は、改正均等法においてはコース別人事制度が事
実上男女別人事制度になっている場合は明確に違法であるとの判断を示したこ
とになります。これまでは、一般職が全員女性であっても、コース別に募集を
行ない、一般職コースについても男女不問で募集を行なったが、結果として応
募したのは女性だけであり、したがって一般職採用も女性だけになった、とい
う理屈でセーフになっていたわけで、今回の判決もこれを直接アウトとしたわ
けではありません。しかし、事実上男女別なら違法という判断であれば、こう
した言い訳も通用しなくなる可能性はかなりあるものと思わなければならない
でしょう。そもそもコース別人事制度は均等法の抜け道的な印象が強く、特に
外からはそう見られているわけですから、企業としてもそろそろ何らかの対応
が迫られていると考えるべきではないでしょうか。
 対応として考えられるのは、まずコース別人事制度を廃止することですが、
この場合、補助的業務の担い手をどうするのか、という問題が出てきます。す
べてアウトソーシングしてしまうというのは一つの方法ですが、それほど簡単
な話ではありません。職能資格や経験年数などを基準に補助的業務の担当を決
めるということもできるでしょうが、職能資格を基準にした場合は低資格に女
性が多くなってしまう可能性がありますし、経験年数を基準にすると数年間採
用を絞っただけで補助的業務のやり手が確保できなくなります。思い切って、
担当業務は基幹的業務も補助的業務もすべて一人の担当者が行なうことで自己
完結させるという手もありますが、高度な専門職にまで補助的業務をやらせる
のは賃金に見合わず不合理ですし、必ずしも担当業務に割り振れない、たとえ
ば勤怠の集計などの業務をどうするかという問題も残ります。
 コース別人事制度を維持するのであれば、総合職になるべく女性を多く確保
するとともに、一般職にある程度男性がいなければ、「事実上の男女別」であ
ると判断されてしまう危険性が高いでしょう。とはいえ、今現在の社会風潮で
は、まだまだ一般職に応募する男性は少ないと考えざるを得ません。すなわち、
一般職についてもそれなりに仕事と処遇を改善しなければならないということ
になります。いずれは基幹的な仕事にもかなりの割合携わってもらうことを念
頭において、処遇や育成なども現行の一般職より改善するわけです。代表的な
例は国家公務員で、1種、2種、3種というコース別人事制度になっています。
それぞれのコースに男女がある程度ずつの割合で存在しており、2種はそれな
りに、3種はかなりの程度補助的業務を受け持っています。
 コース別人事制度を廃止するにしても維持するにしても、それぞれの方法は
どれも一長一短という感があります。各企業の実情に応じて考慮されるべきも
のであると言えるでしょう。

                 (次回は3月4日に配信する予定です)
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