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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成14年02月25日発行 通巻141号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< オリンピックと人事評価 >>> =================================== ソルトレーク・シティ五輪が開催されており、そのようすが連日報道されて いますが、今回の五輪大会で特徴的なことの一つとして、「判定」をめぐるい くつかのトラブルをあげないわけにはいかないでしょう。つい先日、選抜高校 野球の出場校選出を材料に同じようなテーマを扱いましたが、それにしても考 えさせられる材料なので、あらためてこれを材料に人事評価の問題を別の角度 から考えてみたいと思います。 さて、もちろん、判定をめぐるトラブルは今にはじまったことではありませ ん。スポーツがルールにもとづいて行われる以上、ジャッジはどうしても必要 ですが、その判定が結果を大きく左右することもまた事実です。プロ野球の審 判の判定が人気球団寄りであるということはたびたび指摘されますし、ラグビ ーなどはまさに「審判の笛ひとつ」なのだそうで、日本選手権で笛を吹くよう な一流のジャッジになると、その判定で「試合を演出する」とまで言われるそ うです。五輪大会でも、シドニー五輪夏季大会での柔道競技決勝戦における 「誤審」はまだ記憶に新しいところです。勝敗が客観的に決まり、ジャッジの 主観が入りにくいと思われるような陸上競技の100m走でも、五輪大会の優 勝者がドーピングを疑われ、その主張をジャッジが却下することで優勝者が変 わるといったことが起こりました。先日はなんと、これほど第三者の恣意の入 りこむ余地がない競技はないだろうと思われる「囲碁」のタイトル戦で、ルー ルの運用を巡って立会人(ジャッジ)が勝敗に直結する判断をくだす、という ことが起こっています(現実には、囲碁においても、稀ではあるが勝負を決め るようなルール解釈の「判定」が発生することが数年に一回くらいはあるそう ですが)。 さらに、ジャッジ以前の問題として、ルールの変更という問題もあります。 スキーのジャンプ競技で、使用するスキーのサイズ等に関するルールが変更さ れたことで、日本選手の成績がふるわなくなるということが現実に起こってい ます。 こうしたさまざまなトラブルは、まさに人事評価を髣髴とさせるものがあり ます。人事評価も、ある基準(能力、業績、努力など)をもとにして、その優 劣を判定するものですし、その判定は判定者(ジャッジ)の判断に多くを依存 していますから、スポーツの審判との類似性は相当なものがあると言えます。 それでは、スポーツのジャッジから人事評価が学ぶべきこととは何か、いく つか上げて行きたいと思います。 第一に上げられるのは、やはり基準の明確化でしょう。今回の五輪でジャッ ジを巡るトラブルが大きく報道されたのは、スノーボードのハーフパイプ、モ ーグル、フィギュア・スケート、そしてスケートのショートトラックといった ところですが、ハーフパイプ、モーグル、フィギュアスケートはいずれも、芸 術性や技の美しさ・見事さ、表現力といったかなり主観的要素に左右される評 価項目がかなりの比率で織り込まれています。ここにジャッジの恣意的判断が 入る余地が大きいことは否定できないでしょう。 第二に、ルールや基準の継続性という問題があります。競技として成熟して いない歴史の浅い種目はともかくとしても、長期にわたって行われてきた競技 の規則を頻繁に変更することは望ましくないことは言うまでもありません。 第三に考えるべきことは、基準が明確化できず、ジャッジの主観に頼らざる を得ないということを前提として、いかにしてジャッジを適正、中立なものと していくか、という施策です。いくつか考えられます。 ひとつめは、考課者、ジャッジの判定能力の向上です。これには、それに必 要な資質を持つ人をそれにあてるという面と、その人を訓練、トレーニングす るという両面があります。普通に考えて、フィギュア・スケートの選手が、自 らの演技を門外漢に評価されて納得するとは考えにくいものがあります。仮に、 それが当代一流の芸術家など、「芸術性」の評価に高い見識を持つ人であって も、おそらく納得はしにくいのではないでしょうか。人事考課で考えれば、そ れはすなわち職場の上司ということになります。もちろん、職場上司は普段か ら密接な人間関係のもとにあるだけに、さまざまな恣意が入りやすい立場であ ることも事実です。しかし、やはり自分の仕事について熟知し、さらにはその 仕事をこなしうる能力を持つ人の評価が、高い納得性を持つこともやはり事実 でしょう。人事考課はどうしても上司による評価を中心とせざるを得ない事情 がここにあります。 それに加えて、訓練も重要です。これまた、基本的には場数を踏むことが最 善の訓練であることは否定できないでしょう。囲碁タイトル戦でのトラブルを 収集した立会人の石田芳夫氏は、自身も著名な強豪であるだけでなく、かつて 同様のトラブルに対処した経験があり、それが今回の適切な対応をもたらした と評価されているようです。 ふたつめは、ジャッジにかかわる人をなるべく多くするということです。こ れには二つの意味があり、ひとつは、一つの判定をなるべくたくさんの人で行 う、ということです。これの代表的な例はnhkの「紅白歌合戦」で、基準も 判断もきわめて恣意的な評価を、多数の審査員で行うことで平均的な評価を導 こうとしているわけです。フィギュア・スケートの判定も、国籍がすべて異な る数人のジャッジによって行われているのは、なるべく個人の恣意を薄めると いう意図でしょう。ジャンプ競技の「飛型点」は、複数ジャッジの採点のうち、 最高点と最低点を除いた平均を成績としているそうですが、これまた個人の恣 意を排除する工夫と言えましょう。これに対して、スノーボードのハーフ・パ イプは、複数ジャッジが判定しているものの、各評価要素に各一人のジャッジ を担当割し、その合計で成績を決めているとのことで、これは恣意を排除する という観点からはあまり好ましい方法であるとは言えないでしょう。人事考課 にあたっても、360度評価など、評価者を増やす工夫が取り入れられていま すが、やはり重要なことは、最初の仕事で評価が低くても、違う仕事、違う上 司の評価を受ける機会を与え、時間をかけて能力と適性を見極めていくことか も知れません。もう一つの意味もこれに関連していて、なるべく多くのジャッ ジを要請し、一つの大会は同じジャッジ団が評価することは当然としても、次 の大会は異なるジャッジ団が判定にあたるようにする、ということです。人間 どうしても自分が行った過去の評価に引きずられますから、同じ人が評価し続 けると内容の如何に関らず同じような評価結果が出る可能性がどうしても高く なってしまいます。これを避けるには、違う目で再評価することがたいへん効 果的でしょう。 みっつめはこれに関連しますが、過去の実績、「権威」による先入観をいか に排するかで、五輪で言えばモーグルの判定にその傾向が顕著であると言われ ているようです。企業の人事評価でも、従来高い評価を受けてきた人が人事異 動で他部署に移った場合、たまたまその部署での適性が乏しく低く評価すべき ところであったも、「これだけ高い評価を受けてきた人に低い評価をつけると、 それだけの人を生かせない職場、上司に問題があるのではないか」という評価 をおそれて高い評価をつけてしまう、という問題が指摘されています。これは しくみとして対処するのはなかなか難しいようで、企業の場合であれば、人事 異動の後で低い評価を受けた場合、本人に不利益を残さず以前の高い評価を受 けていた仕事に戻す、といったことが考えられますが、スポーツのジャッジで はそれも難しいでしょう。 よっつめは補助的な手段を活用するということです。ビデオ録画はすでに多 くの競技のジャッジに援用されています。典型的なのは相撲ですが、五輪でも ショートトラックの妨害の判定にはビデオが使われているようです(もっとも、 それでもトラブルになっていますが)。前述の囲碁のトラブルでも、試合(対 局)のビデオ映像が判定に援用されたそうです。さらに言えば、野球でも何で も、判定をテレビ中継など公開放送のビデオ映像で事後的に検証することは、 結果として誤審や恣意的判定の疑いについて不特定多数の評価にさらすという ことですから、ジャッジのレベルアップや恣意性の排除に大いに寄与すること が期待できます。 そして、最後に、たいへん重要なことは、一発勝負ではなく、さまざまな条 件を変えた複数回の競技結果のトータルで成績を決定することではないでしょ うか。今回の五輪でも、ショートトラックの決勝戦で韓国選手が一位入線しな がら妨害行為で失格するというトラブルがありました。これは評者によっては 「あれが失格ではこの競技は成り立たない」というレベルの判定だったと言い ます。実際、オープンコースのトラック競技であれば、五輪種目に限らず、た とえばf1競争や競馬などでも「インをふさぐ」のはごく普通の作戦です。報 道などを見る限り、なんら根拠のある推測ではありませんが、しかし地元選手 に対する配慮があったのではないかという憶測はぬぐいがたいものがあるよう です。同じ種目の別の競技では、決勝戦に進出した4選手のうち3人がゴール 目前で転倒し、最下位確実だった選手が優勝するということも起きています。 もちろん、これらはすべて一個の勝利としてはその価値を失うものでも減じる ものでもないでしょう。とはいえ、この結果だけをもって本当の実力を評価す ることはいささか無理がないでしょうか。他の種目でも、たとえばスキーのジ ャンプ競技は、ジャンプする時の風の強さ、向きによって成績が大きく左右さ れると言います。スキーのワールドカップがワンシーズンあちこちを転戦しな がらその合計で年度チャンピオンを決めているのは、おそらくはこうした考え 方に立つものでしょう。そういう意味では、五輪がその時限りの一発勝負で勝 敗を決めることにはそれなりの限界があり、少なくとも、五輪の勝者を特別な チャンピオンとして扱うことはあまり合理的でないことは間違いないでしょう。 まあ、五輪という大イベントにおいては、なかなかこうした問題に対応するこ とは難しいかも知れません。しかし、企業における人事評価は、こうした問題 への対処は可能なはずです。その方法は、やはり多くの機会を与えること、複 数の目で評価することでしょう。悩ましいのは、これは先ほど書いた「過去の 栄光にとらわれずに判定する」ということと対立する、ということです。こと ばで言えば、要は「バランスをとって」評価するということですが、現実には どのようなバランスがいいのかはなかなかわからないでしょう。 長くなりましたが、こうした問題は、古い昔から人事考課の問題点として指 摘されてきたことばかりです。それでも、現在に至っても、五輪のような国際 的な注目を集める世界最高水準のイベントにおいてすら(だからこそ、かも知 れませんが)、こうした問題が赤裸々に出てきています。なんと評価とは難し い問題であるのか、改めて認識させられる一連の出来事であったと思います。 (次回は2月28日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され 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