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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年11月18日発行 通巻194号
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     <<< 【労務屋一筆啓上】解雇ルール法制化をめぐって >>>

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 現在、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で、「解雇ルールの法制
化」の議論が進められています。これは非常に多岐にわたる論点をふくんでお
り、数年来、労働政策上の最大のホット・イシューの一つとされてきた案件で
す。
 10月16日付日本経済新聞朝刊の記事によれば、厚生労働省は10月15日の同分
科会に法制化を提案したそうです。具体的には、「合理的な理由がない、社会
通念上相当でない解雇は無効」という内容のみを労働基準法に追加するという
ことで、これにより、解雇無効の際に、復職だけではなく金銭賠償による解決
も可能となる、ということのようです。今回は、限られた誌面では限界があり
ますが、この記事にもとづいて、解雇ルールの問題を考えてみたいと思います
(本文はすべて筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社などとは関係
ありません)。

なぜ解雇ルール法制化なのか

 まず、そもそもなぜ解雇ルールを法制化しなければならないのか、という理
由ですが、今年3月に閣議決定された総合規制改革会議の「規制改革3か年計
画(改訂)」では、「解雇の有効・無効に関する労使双方の事前予測可能性を
高めるためにも、解雇の基準やルールについては、これを立法で明示」するこ
とを検討する必要があると説明されています。労働者は、仮に解雇が無効の場
合にも裁判でしか結論がでないのでは救済が大きく遅れてしまいますし、それ
以前にあきらめてしまう、ということにもなりかねません。使用者の方も、裁
判で無効とされる可能性があると、解雇すべき労働者も解雇できない、という
ことになるのかもしれません。
 今回の分科会での議論も、基本的にはこの総合規制改革会議の議論をベース
に進んでいるはずなので、本当にこうした問題が解雇ルールの法制化で解決す
るならば、現行ルールを法制化すればそれでいいということになるはずです。
 ところが、それがそう簡単におさまらないのは、この「法制化」にあわせて、
現行ルールの規制を緩和したい、あるいは強化したい、という思惑があるから
です。実際、その後総合規制改革会議がこの7月に決定した「中間とりまとめ
―経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革―」には、解雇ルール法制
化の検討にあたって「いわゆる試用期間との関係についても検討するとともに、
解雇の際の救済手段として、職場復帰だけでなく、『金銭賠償方式』という選
択肢を導入することの可能性を検討すべきである」と述べていますが、これは
まさしく現行規制の緩和以外のなにものでもありません。
 あるいは、たとえば平成11年10月12日に開催された「第11回規制改革委員
会(総合規制改革会議の前身)議事概要」を見ると、同会議参与の学者や、出
席した大手人材ビジネス企業の幹部が、「解雇権濫用法理の内容が厳しいため
に、かえって企業の採用意欲をそいでいる」、すなわち、解雇規制を緩和する
ことで企業の雇用が増え、雇用失業情勢が改善するだろうという趣旨の発言を
しています。旧通産省の審議会などでは、「企業業績をあげるために解雇規制、
特に整理解雇4要件を大幅緩和すべき」といった、よりダイレクトな議論もあ
ったと聞きます。緩和すべき規制は緩和すべきですから、それはそれできちん
と議論する必要があるでしょう。

法制化は「事前予測可能性」を高めない

 そこで、今回の解雇ルールの法制化案、あるいは総合規制改革会議などの規
制緩和論について、労使双方の見解を見てみると、まず、解雇ルールの法制化
そのものについてですが、経営サイドは内部に異論もあるものの、基本的には
反対の方向となっています。旧日経連の「2002年版労働問題研究委員会報告」
には「行政の介入の増加やケースに応じた柔軟な判断の阻害につながるので反
対」と明記されています。一方、労働サイドは、現状すでに無効な解雇が横行
しており、その救済も進んでいないとして、整理解雇4要件まで含めた立法化
を求めています。
 旧日経連の見解は、要するに、現実に行われる解雇は、ケースによって内容
が千差万別であり、その有効、無効を判断する基準を明文化することなど到底
できない、という認識がベースにあります。実際、過去の裁判例を見ても、そ
の内容はまことに多様で、とてもすべてをカバーしてクリアに判断できる基準
はできそうにないというのは、実務実感にもよく合っています。
 そうなると、いざ法制化するといっても、結局は報道された厚労省案のよう
に、かなり包括的なものにならざるを得ないでしょう。それでも、法制化して
しまえば行政としては監督しなければなりませんから、指針、ガイドライン、
あるいは通達などで細部の運用を定めることとなり、結局は行政の裁量になっ
てしまうでしょう。これは、旧日経連の主張する「行政の介入の増加」であり、
企業にとっては事実上の規制強化となって、実務的にはかえって仕事が煩雑に
なりかねません。しかも、いくら詳細な指針や通達をつくったとしても、しょ
せん行政の裁量である以上、最終的には裁判所での決着にならざるを得ないわ
けで、そうなると、はたして「事前予測可能性」が高まったといえるかどうか
も、はなはだ疑わしいのではないでしょうか。
 そういう意味では、連合のいう「整理解雇4要件までふくめての法制化」も
似たようなもののように思われます。解雇のような案件については、その合理
性について、旧日経連がいうように「ケースに応じた柔軟な判断」を行う必要
があり、連合が指摘するような問題点には、規制や監督の強化ではなく、救済
の迅速化によって対処していくのが現実的ではないでしょうか。たしかに、連
合もいうとおり、明らかに不合理で無効と思われる解雇も少なくないようです
から、こうした案件を迅速に解決できる紛争処理の枠組みづくりが急がれると
ころだと思います。

雇用の規制緩和は雇用を増やさない

 それでは、解雇規制の緩和についてはどうでしょうか。
 労使の見解を見ると、労働サイドがこれに大反対なのはまず当然としても、
経営サイドも、たとえば日本経団連の奥田会長が日経連経営トップセミナーな
どで解雇規制緩和反対を繰り返し表明しているように、その大勢は実は否定的
なのが現実です。その最大の理由は、企業の雇用責任といったこと以上に、経
営サイドが長期雇用のメリットを(従来ほどではないにしても)今後もかなり
重視しているという点にあるようです。長期雇用の裏付けとなっている解雇規
制がなくなることで、長期雇用そのものが空洞化してしまえば、そのメリット
を生かすこともできなくなる、というわけです。
 「解雇規制が厳しいことが、企業の採用意欲をそいでいる」という指摘は、
一面では当たっているかも知れません。しかし、それはいわゆる「正社員」の
採用意欲をそいでいるに過ぎないということには注意が必要だと思います。実
際、いまわが国で起こっていることはいわゆる「非正規」「非典型」の比率上
昇です。その理由は「人件費が安い」ということもさることながら、やはり
「契約満了で雇い止めが可能」という柔軟さによる部分も大きいというのが大
方の実務実感ではないでしょうか。こうした実態を考えると、解雇規制の緩和
は、いま雇用されている人といない人の交替の活発化には資する(それはそれ
で賛否両論あり、重要な論点だと思いますが、ここでは触れません)でしょう
が、雇用の総量を増やす効果はあまり期待できないと考えるべきではないかと
思います。

金銭賠償方式は水準が問題

 さて、解雇規制の緩和について、総合規制改革会議のいう「いわゆる試用期
間との関係」と、「金銭賠償方式」についてはどうでしょうか。
 「試用期間との関係」とは、「試用期間についても解雇権濫用法理を大筋に
おいて適用する」とする従来の裁判例を緩和し、一定の試用期間中は解雇をよ
り自由にしようというものです。
 これはたいへん大切なポイントだと思いますが、実際、まずは1年なり半年
なりの有期契約で雇用し、その間の仕事ぶりによっては正社員として採用する
というやり方は、現行法制化でも必ずしも不可能ではありません。その先に正
社員採用の道があるかどうかということは、「解雇の規制緩和」よりは「採用
形態の多様化」として論と思います(採用形態、労働契約の多様化は、これ自
身非常に重要な論点ですが、ここでは述べません)。
 次に「金銭賠償方式」についてですが、現行法制では解雇が無効の場合、解
決の選択肢は職場復帰(と未払賃金の支払)しかないのが建前です。とはいえ、
実務的には、長きにわたって裁判を争った従業員が円満に職場復帰するのは難
しいというのが常識でしょう。現に、職場復帰を命じる判決が出ても、実際に
はなんらかの金銭的解決がはかられているのが実態であるといわれますから、
金銭賠償は実務的には現実的な発想といえそうです。
 とはいえ、連合などの労働サイドがこれを「手切れ金を払えば解雇できる」
ようになるのではないか、と警戒するのもまたもっともです。実際、総合規制
改革会議の「中間とりまとめ」が、金銭賠償に関し「解雇無効の際の救済」で
はなく「解雇の際の救済」としているのは、ある意味「語るに落ちる」という
感じで、内心は「手切れ金で解雇可能」という規制緩和を志向しているという
意思の現れでしょう。
 これに関しては、現実に職場復帰が難しい以上は、金銭的解決を受け入れた
上で、あとはその水準をどうするかという問題ではないでしょうか。となると、
現実に実施されている希望退職の上積み退職金の水準が参考になるでしょう。
現在、大手企業の希望退職は、24か月から30か月、最大では48か月といったと
ころがおおむね相場のように思われます。本人の発意による希望退職でこの水
準ですから、指名による整理解雇はさらに高い水準が求められると考えるのが
自然でしょう。現実には、年齢や勤続、職位などによって適切な水準は変わる
でしょうが、そうそう「手切れ金」などと簡単に割り切れる水準にはならない
だろうと思います。

大切なのは「多様化」

 最後に私個人の意見を書かせていただけば、「解雇」は労働契約の上でもっ
とも基本的な事項の一つですから、それなりにきちんと法制化される必要はあ
るだろうと思います。具体的には、就業規則の必要記載事項として労働基準法
に定めるといったことは必要と考えます。
 そこから先の問題は、単に解雇の問題として考えるのではなく、今回は触れ
られませんでしたが、雇用関係を「契約」という観点から整理しなおして、よ
り多様な雇用契約を可能とするという観点から考えていくべきなのではないか
と思っています。

               (次回は11月21日に配信する予定です)
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