| =================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成14年10月21日発行 通巻190号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】待ったなし、どうする雇用保険 >>> =================================== いま、労働政策審議会の雇用保険部会で、雇用保険制度の見直しが議論され ています。その行政サイドの基本的な考え方が、8月29日の経済財政諮問会議 への坂口厚生労働大臣提出資料の中に記載されていますので、今回はこれを材 料にこの問題を考えてみたいと思います。 雇用保険制度見直しの概要 はじめに、今回の見直しの概要を大臣提出資料にそって見ておきたいと思い ます。具体的な内容はこれには記載されていませんので、7月19日に発表され た雇用保険部会の中間報告や新聞報道などからの推測になります。 まず、雇用保険制度を「労使の共同連帯からなる雇用のセーフティ・ネット」 と位置づけています。次に「積立金が大幅に減少」と財政の厳しさを訴え、さ らに「現下の雇用失業情勢や労働市場の構造的変化」をあげて、「給付と負担 の両面から」の見直しが必要と主張しています。実際、雇用保険の財政につい ては、この10月から保険料率に関する弾力条項が発動されたばかりですが、そ れでも平成15年度の失業等給付の収支は約4,344億円の収入不足となる一方で、 積立金は平成14年度末で約1,448億円にまで減少する見込みということですか ら、たしかにこれは何らかの対処が不可欠な状況です。 早期再就職を促す給付体系 見直しの観点は4点あります。まず「早期再就職を促す給付体系」で、失業 期間を短縮することで雇用失業情勢を改善させる一方で、失業等給付の給付額 も減らそうという一石二鳥の策でしょう。具体的には、給付率の引き下げ(現 行80〜60%→80〜50%)や上限額の引き下げ、再就職手当の見直しなどが考え られているものと思われます。これらの見直しは、現下の雇用情勢下において は、再就職にあたって賃金水準が大幅に下がり、失業給付を下回ってしまうと いう「逆転現象」が発生し、早期再就職促進を阻害しているという指摘に対応 したものでしょう。早期再就職促進が低賃金労働促進になってしまうことに一 抹の淋しさはありますが、元々の賃金水準が高すぎたという見方もあり、総合 的に考えれば妥当なものなのだろうと思います。 多様な働き方への対応/給付の重点化 次に「多様な働き方への対応」があげられています。これは、このところ 「多様選択可能型社会」を目指すべきとの考え方がおおむね政労使のコンセン サスになりつつあることをふまえ、雇用保険制度を働き方の選択に対してニュ ートラルなものにしようということで、必要な施策であろうと思います。ここ では主に正社員(通常の被保険者)とパートタイマー(短時間労働被保険者) の一本化が念頭におかれているようです。たとえばということで大雑把なアイ デアを考えると、倒産・解雇等による失業者(特定受給資格者)については通 常被保険者・短時間被保険者とも現行の通常被保険者の給付日数に、非特定受 給資格者についてはやはり通常被保険者・短時間被保険者を問わず現行の短時 間被保険者の給付日数に一本化する、といったものが考えられるのではないで しょうか。これも、やはり環境変化に対応しつつ給付総額は抑制しようという 施策になっています。 3つめは「再就職の困難な状況に対応した給付の重点化」で、具体的には、 8月29日の経済財政諮問会議で坂口大臣が述べた「これで引退という人、結婚 して勤めないという人は何とか御勘弁を」といった施策や、高年齢雇用継続給 付の給付率の引き下げ、教育訓練給付の支給額の引き下げなどが含まれるもの と思われます。教育訓練給付は、成長産業への労働移動をうながそうというこ とで、在職者にも80%という高率の給付を行っているわけですが、そもそも成 長産業での雇用が増えない中ではどれほどの政策効果があるのか怪しく、とり わけ雇用保険財政が厳しい中では見直しが妥当だろうと思われます。 負担増はやむを得ないのか 4つめは「安定的な制度運営の確保」で、大臣資料は「『給付の在り方』を 見直した上で『負担の在り方』を見直す」としています。 そこで、はたして「給付の在り方」の見直しだけで財政が維持できるのか、 が問題になります。これらの給付削減効果がいかほどになるのかは私には見当 もつきませんが、失業等給付の総額が約2兆円程度であることを考えると、こ れだけで4千億円を超える不足を埋めることは難しそうだとの印象はあります。 少なくとも、改正初年度は既裁定者には従前の給付が行なわれることから、半 分程度の効果しか見込めないため、平成15年度はおそらく積立金を使い果たし ても収入が不足することになりそうです。そもそも、大臣資料に「給付と負担 の両面から見直すことが必要」「『負担のあり方』を見直す」と明記されてい るということは、行政サイドとしては負担増がやむなしとの認識だということ を示しているように思われます。 負担増といった場合、保険料率引き上げのほかに、連合が主張しているよう な「国庫負担金の増額」という選択肢もあります。これに対しては、行政サイ ドはわが国の求職者給付の国庫負担率が先進諸国と比較して高く、逆に保険料 率は低いことなどを理由に難色を示しています。 大臣資料が最初に「雇用保険制度=労使の共同連帯からなる雇用のセーフティ・ ネット」とわざわざ書いているのは、雇用保険制度のベースは労使の共同連帯 であり、保険である以上給付が増えれば料率を上げるのが正論だといっている わけです。 しかし、いっぽうで、現在、料率の引き上げが好ましくない強い事情がある ことも十分に考慮に入れるべきでしょう。 たとえば、この議論と並行して、経済活性化のための減税が議論されているわ けですが、料率の引き上げは確実に減税の効果を減殺するでしょう。あるいは、 企業が人件費にこれだけ敏感になっている中で、さらに人件費を増加させるこ とは、一段の雇用失業情勢の悪化、ひいては雇用保険財政の悪化につながる懸 念もないとはいえないと思われます。 こうした事情も考慮して、それでも本当に料率を上げていいのかどうか、十 分慎重に考えるべきでしょうし、上げるにしても最低限にとどめる努力を尽く すべきではないでしょうか。 一段の給付削減の検討を したがって、給付の削減を可能な限り考えていくことがぜひとも必要でしょ う。今回の検討でも、かなり給付の削減に踏み込んでいるとは思います。しか し、これまで書いてきませんでしたが、もっと踏み込んだ削減も検討の余地が あるのではないかというのが率直な印象です。 たとえば、給付率の下限が80%となっていますが、この場合失業等給付は非 課税のため、手取りでは在職時とほとんど変わらないということが起こり、若 干手厚すぎる感もあります。最低額を設定した上でこれを引き下げるというこ とも考えられると思います。また、経済産業省が、失業給付の給付額や給付日 数を年代や失業理由別にきめこまかく設定することで、全体としての満足度を 維持・向上しながら支給総額を減らすことができるという試算を行っているそ うです。給付日数が90日を下回るとILO102号条約に抵触するという問題が ありますが、支給率と給付日数の組み合わせにはまだ工夫の余地があるのでは ないでしょうか。 通常の被保険者と短時間被保険者の一本化についても、多様な働き方への対 応は間違いなく必要な取り組みではありますが、これがどちらかといえば中長 期の課題であることを考えれば、今すぐに実施しなくてもいい、という考え方 もできないでしょうか。通常の被保険者の引き下げを先行させ、短時間被保険 者の引き上げは雇用失業情勢の改善を待って実施するというアイデアもあると 思います。 また、育児休業給付の支給率を前回改正の際に25%から40%へ大幅に引き上 げましたが、これを一時的に元にもどすということも、緊急避難としてならま ったく考慮に値しないということはないと思います。保険財政を維持するため に失業給付の支給率を50%に切り下げられる人がいる中で、失業しているわけ ではない育児休業者に対する支給率を40%に引き上げたというのは、均衡を失 するという考え方もあり得るのではないでしょうか。あるいは、育児休業給付 の支給率引き上げが少子化対策や男女共同参画といった重要な政策上の必要か ら実施されたものであることを考えれば、現行12.5%にとどまっている国庫負 担を、求職者給付並の25%に引き上げることも考えられてもいいと思います。 三事業見直しの前倒しを さらには、雇用保険全体の中で、三事業の効率化によって財源を捻出し、一 時的に失業等給付に融通する(三事業は保険料が全額企業負担なので、単純な 転用はできませんが)ことも考えられていいと思います。たとえば、勤労者福 祉施設については、閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」で「廃止期 限を明確にし(遅くとも改革期間内)、特に自己収入で運営費さえも賄えない 施設については、できるだけ早期に廃止する」とされています。改革期間内と いうのは平成17年度中で、さらに「できるだけ早期に」となっているわけです が、現状を見る限り(私が知らないだけかもしれませんが)、目立って進んで いるという印象はありません。 もちろん、効果のほどや、効果が出るまでに時間がかかるといった問題はあ るでしょうが、勤労者や企業に負担を求める前には、こうした見直しもできる だけ前倒しして、可能な限り効率化をはかる必要があるものと思います。 今月から料率が上がったところなのに、半年後にまた上げるというのはいさ さか安易な感もあります。政労使で十分に検討されることを期待したいと思い ます。 ※本号の内容は、(財)労務行政研究所発行の「労政時報」第3557号に掲載され たものを、版元のご好意により転載したものです。 (財)労務行政研究所 http://www.rosei.or.jp (次回は10月24日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.roumuya.net/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.roumuya.net の「労働掲示板」に、 ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま 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