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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成14年12月19日発行 通巻201号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【労務屋一筆啓上】誠信経営−企業可持続発展的基石 >>> =================================== 誠信経営 「誠信経営」などと、いきなり見慣れないことばが出てきて戸惑われたかも しれませんが、これは中国語です。日本語のぴったりした訳語が見当たらない (英語では、ReliabilityあるいはCredibilityと訳されているようです)ので すが、漢字を見れば意味するところは感じ取っていただけるものと思います。 ご承知のとおり、米国ではエンロンやワールドコム、日本でも三井物産や東 京電力といった有力企業で不祥事が相次ぎ、「企業倫理」は非常に重要なテー マとしてクローズアップされています。実は、経済の躍進著しい中国でもそれ は例外ではないようで、「誠信経営」の重要性が注目されているようです。 この11月16日、日本経団連と中国企業連合会の共催で中国江蘇省の蘇州市で 開催された第7回日中産業シンポジウム(第七次中日産業研討会)のテーマが、 標題の「誠信経営−企業可持続発展的基石」でした。日本語でいえば「誠信経 営−企業の持続的発展の基礎」とでもなるのでしょうか。今回はそのもようを ご紹介しながら、「誠信経営」と人事管理の関係について考えてみたいと思い ます。 中国企業の「誠信」ぶり 日本では、このシンポジウムが開催されたまさにその当日、日本信販による 総会屋への利益供与事件と、大和証券SMBCの元幹部によるインサイダー取 引疑惑が相次いで明るみに出て、なんとも格好の悪い話になってしまいました が、中国企業も「誠信」という面では大きな問題を抱えているようです。有名 なのはコピー商品で、コピーどころかまったく似ても似つかぬ商品にまで日米 欧の有名ブランドのマークをつけて売ってしまうというのはわが国でもよく知 られた話ですし、昨年は中国証券市場で優良銘柄とされていた「銀広夏」の粉 飾決算事件が発覚しました。この事件では、不祥事の発覚前に経営トップが自 社株を売り抜けて巨額の利益を得ていたといわれますから、基本構造としては エンロンなどの不祥事とよく似ているといえそうです。このように、中国企業 の「誠信」問題はかなり広汎なようですが、経済がこれだけ急速に拡大し、発 展している中では、制度の整備や慣行の改善が追いついていけないのも、一時 的には致し方のないことなのでしょう。 実際、中国ビジネスで最大の問題点のひとつは売掛金などの債権の回収であ ることは有名です。2000 年3月発表の「中国進出日系企業経営実態調査報告 書」(中小企業総合事業団・JETRO 上海センター編)では、48.7%の企業が 「売掛金の回収が困難」と回答しており、最大の問題点となっています。もち ろん、中国でも売掛金は払わなければいけないわけですが、実効のある罰則な どがないために、できるだけ支払を渋るという傾向があるのだそうです。 品質問題も大きく、シンポジウムにおける中房集団(不動産業の中国最大手) 薫事長の孟暁蘇氏の発言によれば、中国の住宅広告の40%以上が虚偽を含んで おり、また、16%の物件で実際の面積が販売時の公称を下回っているのだそう です。また、中国企業連合会会長の陳錦華氏の論文によると、中国国務院発展 研究センターの2002年中国企業信用調査によれば、約8割の企業が原材料や設 備の品質を心配しているということです。現地で聞いた具体的な話としては、 蘇州市の郊外には家具の製造工場が集まっているところがあるのですが、そこ に買い付けに来た人は、自分の買った家具の目立たない部分にこっそりと印を つけておくのだそうです。そして、自宅に配達されたときにその印をチェック して、間違いなく配達されたことを確認するのだそうです。そうしないと、配 送のときにクレーム品と交換されてしまう、といったことが発生するというの です。 「誠信企業」への道 そこで、いかにして日中で「精神経営」を推進していくか、というのがこの シンポジウムのテーマになったわけですが、前述の孟暁蘇氏は、なにより立法 がまず必要であり、罰則が必要であると述べました。たしかに、虚偽広告のよ うなケースについては、法的な取り締まりが有効であることが多いかもしれま せん。中国企業連合会理事長の張彦寧氏は、シンポジウムの基調講演において、 法的措置に加えて、中国では市場が未発達なため、市場によるガバナンスが働 きにくいという問題点を指摘しました。これらは社会的なインフラとしての 「誠信」を成立させようという考え方でしょう。 一歩進んで、海南椰子集団(大手飲料メーカー)総経理の王光興氏は、シン ポジウムでの発言で「誠信経営」が企業の利益につながるという、「誠信」を 企業戦略としてとらえる考え方を示しました。同社では、品質の確保や正しい 広告、確実な決済、強力な模造品対策などで、同社のトレードマークである 「椰子印」を信頼できるブランドとして確立し、売り上げの拡大と利益確保を 実現しているということでした。 それでは、こうした「誠信企業」をつくるにはどうするのか、について、前 述の陳錦華会長の論文は、第一に「誠信」を企業文化の重要な内容とすること が必要と述べ、中国企業の工場や会議室などに掲げられたスローガンには「団 結」「邁進」「奮闘」「開拓」「進取」といったものが多く、「誠信」を見か けることはほとんどない、と問題提起しています。とはいえ、単に壁にスロー ガンを貼り出しただけでは企業文化はつくれません。そこで、第二に経営トッ プがリーダーシップを発揮すること、第三に「誠信」を重要な経営資源と考え ること、第四に厳格で科学的な管理制度を導入することが重要であるとしてい ます。 「誠信」を企業文化にするには その中で「厳格で科学的な管理制度」について見てみると、まず企業統治構 造の健全化、次に意思決定プロセスの透明化と公開などにより、恣意的な経営 判断やマネージャー層の独断を防止することが必要としています。さらに、内 部に「誠信」の賞罰メカニズムを打ち立て、褒賞と制裁を厳格に行うべきとし ています。 これらのいずれをとっても、不可欠な取り組みといえるでしょう。しかし、 実務家から見るといくらか不十分ではないかというのも実感ではないでしょう か。品質の確保にしても顧客へのサービスにしても、現実の「誠信」を形にし ていくのは一人ひとりの従業員です。すべての従業員に日々きちんと「誠信」 の仕事をしてもらうことが、「賞罰メカニズム」だけでできるだろうか、とい う気持ちがあるからです。 上海宝鋼集団(中国鉄鋼業の最大手)の徐楽江副総経理は、シンポジウムで 「誠信経営を企業文化に」と題して発言し、その中で、「『誠信』は規則や懲 罰では守れない」と述べました。その上で、「社員が全体価値の中で自己実現 する」「人間本位」の経営を行っている、と述べました。社員一人ひとりが、 個別の損得を考えていると、どうしても不正を行うという誘引が働くが、企業 全体として価値を生み出していく中で、その一員として自己実現していくとい くという意識を持てば、逆に「誠信」を守る方向に向かうだろう、という趣旨 だったと思います。これはすでに、わが国の人事労務管理の考え方に非常に近 いところにあると言えるのではないかと思います。 「誠信」の労使関係 中国側参加者の発言を中心にご紹介してきましたが、日本側参加者で印象に 残ったのは、日本ガイシ会長の柴田昌治氏の「従業員を大事にすることが不祥 事防止の最重要策」という発言でした。これは、企業倫理推進のためにステー クホルダー重視の経営が必要であり、具体的には顧客、従業員、社会を大事に することが大切だ、という文脈の中で、柴田氏自身の米国での経験をもとに述 べられたものです。 どのような経験談かご紹介しますと、日本ガイシがGEの工場を買って米国 でガイシの生産をはじめたわけですが、行ってみると労働組合が強くて、品質 は悪い、欠勤は多い、生産性は低いということで、手のつけようがなかった、 というわけです。調べて見ると、日本ガイシがこの工場を買収したのが1965年 のことですから、アメリカの労働組合がベトナム反戦運動などで活発に活動し ていた頃であり、たいへんな時期だったものと思われます。そこで、日本ガイ シのやり方を導入しようとしても労組が言うことを聞かない。一時はもう撤退 せざるを得ないか、というところまで行ったそうですが、それでも労組は協力 しようとしない。 そこで、柴田氏はこれではダメだということで、労組の代表とだけ話し合う のはやめて、従業員全員との話し合いをはじめたのだそうです。その中で、一 人ひとりに会社の経営状況や生産性向上の必要性を説明し、利益が上がれば従 業員にも配分すること、生産性が上がっても解雇はしないことなどを訴えたの だそうです。こうした徹底したコミュニケーションによって、従業員の意識も 徐々に変わり、労組も近代化してきて、経営も少しずつ改善してきたというの です。こうした体験をふまえて柴田氏は「徹底したコミュニケーション」と 「安定した労使関係」が「誠信」経営の方策であると述べられたわけです。日 本企業が米国に労使協調路線を持ち込んで成功した例はかなりありますが、こ れだけ早い年代の例はめずらしいのではないかと思います。 「誠信」と日本的雇用慣行 長々と紹介してきましたが、こうした議論を聞いていると、従業員重視、雇 用重視の日本的雇用慣行は、「誠信経営」を築き、守るうえで非常に有効なの ではないか、ということを改めて感じさせられます。「誠信経営」が大切なの は、それが長期にわたる企業の存続、繁栄につながるからでしょう。であれば、 従業員に対しても、長期雇用で長期にわたる雇用、労働条件の維持向上をめざ してもらうことが理にかなっていると考えるのが自然ではないでしょうか。 わが国ではいま、長期雇用の崩壊がいわれ、雇用不安が広がっています。そ れと期を一にして、期限切れで返品された牛乳をタンクに戻したり、食料品の 産地を偽ったりするような不祥事が続発しはじめたのは、はたして偶然なので しょうか。私にはそうは思えません。エンロンなどの不祥事にしても、経営陣 が短期の業績を強く求められる環境にあることに一因があると言われています。 実務家にとっては当たり前のことなのですが、不祥事を防ぎ、モラルを高め るためには、長期雇用、ひいては長期的視野に立った経営が有効であるという ことを再確認した訪中でした。 (次回は12月26日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。なるべく毎週月・木(祝日休)発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.roumuya.net/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 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