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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成14年05月23日発行 通巻163号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< 【書評】日本型ワークシェアリング >>> 脇坂明著 PHP出版 =================================== 著者はこの本のまえがきで「『ワークシェアリング』ということばは市民権 を得たようである。…数多くの人が論じ、提言を行なったりしている。そのな かには…やや誤解に基づく議論を展開しているものも見られる。そういったこ とから緊急に一冊の新書にまとめることの重要性を認識するようになった」と 執筆動機を述べている。実際、ワークシェアリング論議はいまだにいささか混 乱気味であり、書名にワークシェアリングを冠した本も、客観性や公平性を欠 くものが多いのが実態である。こうした中で、リーズナブルな価格とボリュー ムでワークシェアリングの基本的な事実関係と論点が適切に整理された本が出 版されたことを、まずはおおいに歓迎したい。著者は均等法以前から一貫して 女性労働の研究に携わり、今般のワークシェアリング論議にも早い段階から深 く関与してきた実力者であり、この本の著者として最適な人材を得たといえる だろう。 この本の第1章と第2章は、今回のワークシェアリング論議がはじまるまで の経緯とそのポイント、および今回の議論の背景となる現下の雇用失業情勢の レビューに当てられている。第3章は、欧州諸国の取り組みと実態をひきなが ら、ワークシェアリングの諸タイプについて要領よくまとめられている。そし て第4章では、今回のわが国におけるワークシェアリングについて、政労使に よる論議や具体的な取り組み、労使の意識など、的確にポイントをおさえて紹 介されている。ここまででおおむね全体の4分の3を占めているが、これだけ 読めばワークシェアリングを論じるための基本的な前提はできるように書かれ ている。背後には専門家としての熱い想いがあるにもかかわらず、一貫して冷 静かつ公平に記述されていることに、研究者としての良心を感じる。 最後の第5章は、これからのわが国におけるワークシェアリングのあり方に ついて、著者の主張が述べられる。あえて端的に言えば、まずは緊急避難とし ての対応が重要であるにしても、長期的に働き方を変えていく多様就労型ワー クシェアリングへの取り組みがさらに重要であり、それを推進する重要なエン ジンのひとつが「ファミリーフレンドリー」である、ということになるだろう か。これは今般の政労使によるワークシェアリングの検討と基本的なベクトル が一致しているし、また、実務家としても共感しうるものである。いささかフ ァミリーフレンドリーに偏っている感もあるが、多様就労型ワークシェアリン グへの具体的な経路を示そうということなのだろう。 とりわけ好ましいのは、著者の企業実務に対する深い理解のもとに、わが国 企業の職場や仕事の実態をふまえた議論が展開されていることである。これま での議論には、もっぱら欧州と日本との比較をもとに、「ジョブの概念が不明 確でないとワークシェアリングは不可能」といった思い込みにもとづく議論や、 教条主義的な同一賃金同一労働の主張などが多く、実務感覚をかけはなれてい る感があったが、今回著者が提示した「日本型ワークシェアリング」は、こう した袋小路を脱して、現実的で建設的な議論を進める好適な材料となりそうだ と感じる。実際、たとえばこの本で提唱されている育児休業の代替策は、日本 企業における職務分担の柔軟性が有利に働くものである。 それでもなお、実務家としていささか疑念を抱かざるを得ない部分もある。 たとえば、著者は「非常に優秀な従業員を抱えていて、たえず二割か三割ぐら い休業している企業」をイメージしているという。しかし、非常に優秀な従業 員が二割も三割も休業するのはあまりに惜しいし、現実には本人もそれを望ま ないことが多いだろう。フルタイムとパートタイムの処遇格差についても、か なり現実的な提案になってはいるが、「期待役割」といった実務感覚が捨象さ れてしまっている。また、企業の役割が強調される一方で、ともに必要不可欠 な「働く人の役割=意識改革」への言及が乏しいことにも不満が残る。 とはいえ、これらはある意味企業の人事管理の多様化の中で吸収されるべき ものであるかも知れないし、逆に言えば、著者の提言が具体的な議論の材料と してたいへん優れたものであることを示しているともいえるだろう。著者には さらに提言を深化させることを期待したい。 将来に向けたワークシェアリングの議論は、実はこれからである。それはわ が国における就労だけではなく、国民生活全体を変貌させるものとなるに違い ない。その議論が本格化しようとしている今、格好の優れた解説書が出たこと をなにより喜びたい。 (次回は5月23日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)ID=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |