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=================================== *** 労務屋の労働雑感 *** +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 平成14年03月13日発行 通巻145号 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ <<< デフレ下の春季労使交渉に回答 >>> =================================== 金属労協主要4単産の春季労使交渉は、きのう(13日)一斉に回答が示さ れ、ベアゼロ続出という非常に異例な決着を見ました。 賃上げについては、鉄鋼とベアがもともとベア要求なし、自動車と造船重機 はベア1000円を掲げて交渉しましたが、結果としては日産自動車がこれまた異 例のベア満額回答を示したほかは、業績好調なトヨタ自動車や本田技研をふく めて軒並みベアゼロという回答となりました。とはいえ、もともと連合が統一 ベア要求目標を見送った時点で、ある程度この決着は見えていた部分があると 云えるでしょう。 一方、賞与については業績を反映して回答にばらつきが出ました。トヨタ、 本田が年間200万円を上回る高額回答を示す一方、業績連動が多い電機各社 や、鉄鋼各社は軒並み前年割れの回答となっています。 今年注目された雇用維持についての労使協定は、鉄鋼、電機ともおおむね何 らかの形での文書化で合意したようで、鉄鋼は雇用維持の努力義務を明記した 確認書、電機は労使共同で雇用安定に取り組む趣旨の共同メッセージを出すと いうことで決着しました。 この回答のポイントをいくつか上げてみますと、まず第一にこれは名目では ベアゼロでも実質的にはベアがあるということがあります。昨年末に発表され た一昨年のgdpデフレーターはマイナス1.8%で、昨年もおそらく同程度で しょう。ということは、ベアゼロでも実質1.8%程度のベアがあるということ になります。試みに、(賃上げ率−定昇2%−gdpデフレーター)という簡 略な計算で実質ベアを概算してみますと、95年以降昨年まで、1.83→1.56→ 0.20→1.26→1.86→1.87→1.86と推移していますから、今年仮に1.8とすれば、 実質ベアで評価すれば今年も例年並程度のベアは獲得していることになるので す(賃上げ率は厚生労働省調べ大企業)。そういう意味では、連合の、雇用の 維持・確保に軸を移し、賃上げはひたすら定昇確保に専念するという作戦は、 雇用維持の文書化にも成功していることもあり、かなりの程度成功したと言え そうです。 次のポイントとして、業績好調なトヨタ、本田までベアゼロとなったことが 上げられます。これはかなりのサプライズではありますが、賞与の回答を見る と、業績を賞与で反映させようという経営サイドの強い意志を示したものと考 えられるでしょう。実際、自動車総連の「自動車産業の賃金水準は生産性に見 合ったものとなっていない」という主張は、相対価格という観点からは理にか なったものと考えられます。経営サイドとしては、それを認めるにしても、相 対的な問題を解決する手法としては、生産性の高い産業の水準を上げるのでは なく、生産性の低い産業の水準を下げることで相対的な格差を適正化すべきだ との判断を示したということでしょう。そのための方法論として、まずは賞与 の格差を拡大するというのも現実的と考えられます。 もう一つ忘れてはならないポイントとして、日産自動車がベア1000円につい ても満額回答したことが上げられます。これは、業績回復を背景に、トヨタ・ 本田との格差を意識した回答でしょう。事実、3年前に日産はベアゼロをやっ ていますし、それ以降だけでも、日産はトヨタ・本田に二千円に近い千数百円 (定昇分がはっきりしないのであくまで概算ですが)程度格差を拡大されてい ます。両社がベアゼロ回答した今年は、日産にとってはまさに格差縮小のチャ ンスだったといえるわけです。 これは全国規模でも同様です。大手がベアゼロに終わった今年は、中小労組 にとっては格差縮小の絶好のチャンスということになります。上が止まって待 っているわけですから、下から近づくのには有利な環境にあるわけです。連合 の主張のとおり、本当にいわれなき格差があるのであれば、連合はぜひとも意 欲的に取り組んでその是正をすすめてほしいものだと思います。 もちろん、鉄鋼や電機が雇用の維持・安定について労使間で文書化にこぎつ けたというのも大きなポイントです。鉄鋼の回答文を見ると、やはり「努力義 務として」ということは明記されています。また、「雇用の『場』の維持」と いう微妙な表現を使っていますが、これはおそらく出向・転籍まで含めて雇用 の「場」があるように努力する、という意味でしょう。要は失業しなければい いということですが、いずれも鉄鋼の経営実態をふまえた現実的な対応と言え るでしょう。また、電機については、現時点ではまだ詳細は判明していないの ですが、いずれも各社の実情に応じたかなり具体的な内容を含んでいるとの報 道もありますので、関心が持たれるところです。 最後に、実務家としての観点からまとめて見ますと、今年の春季労使交渉は、 デフレの弊害を痛感したという印象があります。もちろん、経済環境が非常に 悪い中で企業業績も悪く、厳しい交渉を余儀なくされたということもあります。 賃金の下方硬直性のために、水準の調整が進みにくいということもあります。 そもそも、業績のいい産業・企業がベアゼロ回答となるとか、それでも実質ベ アというのは明らかに不自然ではないでしょうか。その上、この回答が所得面 でも心理面でもさらにデフレを促進する危険性もある(竹中経済財政担当相は そういう趣旨のコメントをしたそうです)のですから本当に困ったものです。 それに加えて、ベアができないということは、人事・労務担当者としては賃 金政策で手足を縛られているようなもので、非常に不自由極まりないというこ とがあります。賃金制度を改定したり、あるいは賃金カーブを寝かせるなどの 調整を実施したりするのは、基本的にはベアにあわせて行なうことで、制度変 更にともなう変動を緩和させるのが普通です。場合によっては、制度変更のた めに原資が必要となれば(実務的にはなる場合が多い)、ベアをその原資にあ てることでまかなったりもします。職能資格制度で全面テーブル給の場合は、 ベアゼロだと、資格昇格せずに人事考課が下がった人は賃金が下がることに (理論上は)なります。したがって、ベアが少ないと人事考課による差を大き くつけにくくなるという面もあります。物価上昇相当分であってもなくても、 ベアがあればその分さまざまな賃金政策の自由度が高まるのです。 こうして見ると、ベアゼロでも労働サイドに得るものがあり、経営サイドは 手足を縛られた状態という、やはりまことに異例な結果であったということに なりそうです。そして、出てくる結論が「デフレからの脱出が急務」というの も、異例づくめの春季労使交渉らしいと言えば言えるのでしょうか。 (次回は3月13日に配信する予定です) =================================== ◆メールマガジン「労務屋の労働雑感」 このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」で配送され ています。(http://www.mag2.com)id=0000049801 ◆このメールマガジンは、発行者が、個人の資格で、管理職、人事労務担当者、 組合役員、学生・研究者などの方々を対象に、人事・労務・労働などに関す る話題を提供するものです。毎週月・木曜日(祝日休)に発行しています。 ◆バックナンバーは、次のページからごらんになれます。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm/backn.html ◆登録・解除は、次のページからお願いします。 http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/mm.html ◆労務屋のホームページ:http://www.geocities.co.jp/wallstreet/2659/ の「労働掲示板」に、ご意見・ご感想などをおよせいただければ幸いです。 ◆メールアドレス:nagoyakuma@nifty.com ◆転載・引用を歓迎します。原則として、ヘッダ・フッタも含めた全文の転載 をお願いします。部分引用についてはご相談いただければ幸いです。 ◆[免責事項]本メールマガジンは、内容の正確性を保証するものではありま せん。本メールマガジンの購読、利用などによって発生したいっさいの損害、 損失、障害などについて、発行者はその責任を負いません。 =================================== |