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          *** 労務屋の労働雑感 ***

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        平成14年02月21日発行 通巻140号
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         <<< 監査と取締で不正はなくなるか >>>

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 この週末に、ここ2週間くらいの新聞記事をまとめ読みしました。その中に、
2月9日の日経新聞で一橋大学教授の米倉誠一郎氏が雪印食品やエンロンの不
祥事について述べたコラムが入っていました。
 米倉氏によると、雪印食品の事件のような不祥事を「単なる綱紀粛正の問題
として片付けてしまうのであれば」本質的な解決とはならない、と述べていま
す。そして、今後も不祥事が続く可能性があり、「企業が不正、違法、非倫理
的な行為をしないような制度的な歯止めが今後ますます必要」で、「企業情報
の公開、外部監査、社外取締役や倫理担当役員の任命などを中心としたコーポ
レートガバナンスの確立が緊急の課題」と述べています。
 続いて、こうしたガバナンスが世界で最も進んでいるといわれる米国でも、
エンロンなどの不祥事が起きたことについては、ガバナンスが無効であること
を示すものではなく、それが依然として不十分だということを示すものであり、
「中立的な外部監査、社外取締役、企業情報の公開、透明で効率的な株式市場
など改革の手を緩めてはならない」「高まいな理想を持った自由資本主義確立
への前進を止めてはならない」と主張しています。
 いかにも市場原理主義者の米倉氏らしい論調ですが、氏のいう「高まいな理
想」なるものは、おそらくは、自由や自主性が最大限に尊重され、発揮される
というような、「自由」に著しく偏ったものでしょう。確かに「高まい」には
違いありませんが、多くの人はついていけないことも事実でしょう。
 それはそれとして、米倉氏のいうような「改革」を貫徹すれば、それで本当
に企業不祥事はなくなるのでしょうか。
 監査でも取り締まりでも、厳しくすればするだけ、不正をする方もそれを免
れようとして知恵を使います。今回のエンロンのケースは、まさにそれではな
いでしょうか。確かに、今回は監査法人がコンサルタントを兼ねていたなどの
問題が指摘されており、改善の余地はあるかも知れません。しかし、そういっ
た問題点を解消したところで、結局のところさらに手口が巧妙になるだけで、
不正は繰り返されるのではないでしょうか。そして、それを抑え込もうとして
監査やら取締やらを強化すればするほど、そのコストは膨大なものとなって企
業経営の自由度を圧迫するでしょう。これが企業経営や経済社会の望ましいあ
り方であるとはとても思えません。もちろん、監査や取締がすべて不要という
わけではありません。それはそれで重要な役割を果たしているわけですが、そ
の強化だけでは決して本質的な解決にはならないのです。実際、現実に企業活
動に携わっている人に較べると、しょせんはその外部にいる「中立的な外部監
査、社外取締役」には、仮にその専門家であったとしても、企業活動の本当の
姿は見えにくいわけで、最初から限界はあると考えるのがむしろ自然なのです。
 少なくとも雪印食品の不祥事については、外部監査や社外取締役よりはるか
に有効で大切な対策があるのではないでしょうか。経団連会長も務めたトヨタ
自動車の豊田章一郎名誉会長は、企業不祥事について、「不正があるとすぐに
検査を強化しろとか、取り締まりをしっかりやれという話になるが、それでは
不正はなくならない」と云っています。「不正そのものが起こらない、あるい
は不正があればすぐに異常がわかってすぐに直す、不正が拡大しないようにす
るしくみをつくることが本質的な対策なのだ」というわけです。トヨタ生産方
式について書かれた生産工学の本を読むと、「品質は工程で造り込む」という
考え方が出てきます。具体的には、まず一人ひとりがきちんと決められたとお
りの仕事を確実にやること、不良が出ないような仕事のしくみにすることです。
そして、自分の仕事に限らず、不良を発見したら、工場全体の仕事をストップ
させてもいいから必ずその場で直すこと。そのためには、不良があれば次の仕
事ができないように製品や工程を設計すること、などが書かれています。もち
ろん、最終検査はするわけですが、その段階ですでに高い品質水準が達成され
ていることで、検査そのものや不良品を抜き取って修理するためのコストが大
幅に抑制できるということになるわけです。これを企業不祥事にあてはめれば、
まずは日々働く人に不正を行なわせない、不正ができないようにすること、周
囲が不正を許さず、また不正があると仕事が進まないしくみにすること、不正
が起きたらどんな小さなものでもその場で是正することなど、経営者から末端
まで、現実に企業活動に携わる人たちが、自らガバナンスの主役となることが
大切だということになります。
 雪印食品のケースで云えば、2年前?にはじめて産地を偽装したわけですが、
まずは社員に偽装をしようと考えさせないようにすること、ということになり
ます。次に、偽装ができないようにするためには、権限を一人に集中させない
とか、複数の人がかかわるようにするといった方法が考えられます。管理職に
人事権を含めた強権を与えすぎることは、部下によるチェック機能を減退させ
ますから特に注意が必要でしょう。偽装があると仕事が進まないようなしくみ
としては、例えば産地ラベルの再発行には管理部門のチェックが入るとかいう
しくみを導入することが考えられたでしょう。あるいは、時折不定期に担当業
務をローテーションするとかして担当者を変えることも不正の抑止、拡大防止
には効果的だったでしょう。その場ですぐに是正するしくみとしては、不正を
匿名で不利益なく管理部署に通報できるしくみを作ることが考えられたでしょ
う。雪印食品で、こうした地道なしくみづくりがどれほど行なわれていたのか、
報道を見る限りではかなり疑わしいものがあります。
 そして何より重要なのは、働く人に不正を行なう動機を与えないことでしょ
う。そのためには、働きやすい環境を整え、努力と成果が適切に報われるとい
う信頼感を与え、仕事と職場に誇りと働きがいを感じられるようにすることが
大切です。これは難しい理屈ではないと思います。必要なときに必要な費用が
支出できないような働きにくい環境があると、裏金を作るような不正が行なわ
れます。不正をしなくても、日々勤勉に品質水準の改善と生産性の向上に努力
すれば、労働条件や生活水準が向上するという確信があれば、不正を働く誘惑
は強いものにならないでしょう。そう考えると、長引く景気低迷の中で、努力
が報われにくくなっていること、長年にわたって誠実に勤務してきた中高年が
リストラの憂き目にあったりすること、その一方で顔の見えない「株主の利益」
が主張されたりすることが、働く人のモラルをじわじわと侵蝕しているとして
も不思議はありません。そして、それに対して、株主の利益を代表するとされ
る社外取締役や、監査役の強化をもって対処しても、その効果はどれほど期待
できるでしょうか。
 雪印食品の事例に較べると、エンロンのような経営陣の不正を未然に防ぐこ
とはなかなか難しいようにも思われます。しかし、これも同じ考え方が適用で
きるのではないかと思います。仮に経営陣が不正を働いたにしても、経営陣だ
けではできることは限られています。ごく一部にしても、幹部や一般社員を巻
きこまなければ不正もできないのではないでしょうか。であれば、幹部にして
も一般社員にしても、経営陣に不正があったのではないかと感じたときには、
即座にそれを何らかの形で止めようとするインセンティブが働くようにすれば
いいわけです。それは、従業員による不正を防ぐための取り組みと大いに共通
する点があるはずです。それに加えて必要なのは、経営陣の不正を不利益なく
持ち込むことができる窓口でしょう。本来なら、労働組合にはその役割を期待
したいところなのですが。
 経営陣に対しては、従業員に対する場合と比較すれば、相対的に監査や取締
の役割も大きいかも知れません。とはいえ、やはり現実に仕事の場にいる人に
よるガバナンスに較べれば、限界があるはずです。
 貧困を克服できない国では、警察をいくら強化しても犯罪を大きく減らすこ
とは難しいでしょう。取り締まるだけではなく、発生源対策が重要だという意
味では、基本は同じことなのではないかと思います。

                (次回は2月25日に配信する予定です)
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